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灰色ノ世界  作者: 新井真
第三章 波乱と幻想の白魔族界!!
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最終話:魔族と普通の高校生と


 もう八月は終わるというのに、夏の暑さは去る気配を見せない。蝉の合唱こそちらほらとしか聞こえなくなったが、照りつける太陽は未だに調子が良いままだ。

 瑛士は夏休み明けの学校に心を踊らせていた。いつもは憂鬱になったり、面倒になったりするものだが、この日ばかりはそうではなかった。ペダルを漕ぐ足が軽い。追い風とともに信号を渡り、交差点を抜けて学校に着く。

 廊下にて、久しぶりに会う知り合いたちとジョークを交えながら挨拶を交わす。変わらない彼ら。これこそが瑛士の取り戻したかった日常だった。


「お、おはよっ。三上くん」

「あ、うん。おはよう」


 隣に駆け寄って来て、ちょこんと手をあげて挨拶をする風華。瑛士は笑顔で返す。夏が始まる前にはできなかった、自然な笑顔で。


「よっ」

「っはぐあ!」


 突如脊椎に走る衝撃。悶えながら振り返ると、そこにはニヤニヤと笑う宗真と申し訳なさそうに頬をかく飛鳥が。宗真は、ブンブンと振り回している手持ちの鞄の角を瑛士に突き刺したのだった。


「ハハッ。なんて声出してんだお前」

「そりゃそうだろ! いきなり背中にドンって来たらそりゃ誰でもこんな声出るわ!」

「すまね」

「ったくよォ!」


 冗談めかして謝罪する宗真の腕を押し、一緒になってふふっと笑う瑛士。そしまだ少し違和感が残る背をさすりながら再び歩き出した。


#


 あの時、宗真がゲートを開いたのだ。


「ソーマ、あんたなにやってんの!?」


 飛鳥が最初にそれに気づいた。


「いつのまにそんなことができるようになったんだよ!?」

「まあ、ちょっとな。すまね、集中させてくれ」


 そう言って目を閉じ、彼はイメージを作っていく。ブレッジは彼の魔力の使い方に感心していた。瑛士は黙ってそれを見守る。

 最後の方は飛鳥に肩を貸してもらい、ゲートを完成させた。


「できたかどうかは分かんねえ。けど、今はこれしかねえ」


 宗真が頭を捻りながら作り出したゲートは小さく、すぐに消えてしまいそうなほど不安定だった。


「お前、これどうやって!?」

「こっちの世界に来る時にルシフェルから聞いたんだよ、これの作り方。ぶっつけ本番だからこんなのしかできなかったけどな」

「ほう。偶然にも奴が役に立つとはな」


 ブレッジは顎を撫で、複雑な表情を浮かべる。

 飛鳥だけでなく、瑛士も彼の体を支えるのに加わる。宗真は全身の力が抜けてしまっていた。

 そうして彼らは崩壊する世界から脱することができたのだった。


 夜が明けた黒魔族界では、カッゾの面々は大忙しだった。急に増えた人口、白魔族の侵攻で荒れた街、王の復活により塗り替わる城内勢力。

 瑛士たちはこの一件の傷が完全に治るまで城で過ごしていたが、その様子は目に見えて大変そうだった。彼らの借りた部屋の扉の前では右に左に走り回る音がひっきりなしに聴こえてきた。

 だがそれは悪いことではなかった。街では魔族たちが協力して、街の修復をはじめたのだった。黒魔族も白魔族も魔力の大きさも魔法の技術も関係なく、皆平等に人間として。たまに衝突はあったが、すぐに収まることが多かった。

 もう心配する必要はなかった。もう黒でも白でもない、一つとなった魔族の世界が広がっていた。


#


 非魔族界にかけられた時止めの魔法は、ブレッジをはじめとする黒魔族たちと、瑛士が解いた。メガが魔法を使った時点で瑛士にはどういう構造でそれが作られているかがわかったのだ。全て元どおりにするには時間を要したが、それでも少しずつ確実に作業は進んでいった。

 そして、再び非魔族界の時が流れ出した。

 夏休み中の、部活の練習をする生徒たちの声が聞こえてくる学校の屋上。瑛士たち四人と魔族数人がその場にいた。

 瑛士とベリドは給水タンクの上に座り、広がる景色を眺めていた。


「今度こそ、全部終わったかな」


 瑛士は呟く。ベリドは「ああ」と返事し、そして咳払いをした。


「……いや、まあ、なんや。色々ありがとうな。それと、すまんかった。お前ら巻き込んでもて、迷惑かけたと思う」

「くっ……」


 ベリドのその照れたような言い方に瑛士は吹き出して笑う。


「なんやねん」

「いや、ここて最初にお前に会ったんだよなってな。それ思い出したらお前のその変わり様がおかしくってさ。あれからそんなに経ってないんじゃないか?」

「こういう別れのくだりは前に一回やったやんな。またそのうち会えるんちゃうか?」

「それもそうだな。なんたって──」

 

 瑛士の言葉が終わる前に、ベリドはタンクの上からひょいと飛び降りた。瑛士はそれを追うように梯子を使って降りる。


「そろそろ時間だな」


 ブレッジがゲートを開く。別れの挨拶を述べて次々に帰っていく魔族たち。


「じゃあな、エイジ」


 手を差し出すベリド。それを握る瑛士。


「……おっ」


 瑛士は急に体が重くなった気がした。彼はこの流れにデジャヴを感じた。握手したベリドの手を更にきつく握り、笑う。


「またこれかよ?」

「もうふらつかんようになったな。やるやんけ。……ちょ、痛いわ、もう離せや」

「仕返しさ」


 ベリドはニッと笑い、手を振ってゲートの中に消えていった。

 そして最後に残った魔族、ブレッジは瑛士たちに頭を下げた。


「お前たちには感謝しても仕切れないほどだ。こうして我ら魔族が再び一つになることができたのだからな。といってもまだまだ問題は多い。少しずつだが、解決していくつもりだ」

「ええ。応援してますよ、王様」

「またいつか皆さんとも会えますか?」

「それは、分からない」


 風華が尋ねるが、ブレッジは首を横に振る。


「封印がなけりゃすぐ会いに行けるんですけどね。ほいほいっとね」


 宗真の言うように、瑛士たちの魔力にはブレッジにより鍵がかけられた。これで彼らはそれが解かれない限り、普通の高校生として過ごすことになる。そして今後非魔族界に干渉しないというのが新たに魔族界で決められたことだった。


「でもまあ、魔族界に行ったとして、また厄介事に巻き込まれんのはもう嫌ですけどねー」

「あんたは余計なこと言わなくていいの!」

「痛って! 叩くことないだろ!?」


 飛鳥が宗真をひっぱたく。それを見てブレッジの口元が緩む。


「ふっ。たまにこちらに来るのも悪くないかもしれないな」

「王様が決まりごと破っちゃダメでしょう……」

「はっはっは。冗談だ」


 そしてブレッジはくるりと後ろを向き、ゲートに足を運ぶ。


「さらばだ、お前たちよ」


 その一言を残して、非魔族界から魔族は去った。


#


 夏休みが明けてから一ヶ月が経った。少しずつ秋の風を感じるようになった日曜日。瑛士たちはテストに備えて、また図書館に集まり勉強をしていた。

 たが、そこにいたのは彼ら四人だけではなかった。静かで上品な空間に合わない、全身真っ黒な少年。


「だからさ、勉強に忙しいんだって。見れば分かるだろ? 俺の休み明けテストの結果、やばかったんだからな? それ多分俺がお前たちのために頑張りすぎたせいだと思うんだよな〜」


 参考書をパラパラとめくり、ノートにペンを走らせながら愚痴る瑛士。


「いやそれは関係ないやろ。それはお前が悪い。それはそれでこれはこれや。とりあえず魔族界来いや。お前らの魔力復活させたるわ」


 机に腰掛けて、瑛士の持ってきた別の教科の参考書を読みながら、足で彼の腕を蹴って邪魔をするのは、ベリド。


「無理だな。何日も留守にしてられねーもん。失踪届け出されたらことだぞ」

「時止めりゃええやんけ。魔法って便利やなあ!」

「んなことできるか! てか、もう俺たちに関わらないんじゃねーのかよ!」

「王がお前らに頼めって言うんや。俺らカッゾでの会議でも満場一致や」

「ハア? 意味わかんねえよ。で、そんな大変なことになってんのに王は何してんだよ?」

「魔力無効化されて捕まってしもた。いや〜、元黒魔族城勤の研究部と、元白魔族議会の開発担当が手ェ組んだらあんだけ脅威になんのやなあ」

「バーカ! お前らバーカ!」

「とりあえず図書館なんだから静かにしろよ……」


 宗真は呆れる。


「いや、ほんまに頼んどるんや。今回だけや。特例や。なあ、リックもお前らに会いたがっとったでぇ?」

「あ……」

「あ、じゃないでしょ江里さん! 何流されかけてんの!?」

「三上、なんか薄情じゃない?」

「そうや、そうや!」

「田口さん、それもう精神系魔法かけられてるよね!?」

「なんか俺ももう一回だけ魔族界行きたくなってきたかも……」


「だーーっ!!」


 瑛士は椅子を後ろに蹴り、立ち上がる。


「分かった! 今回だけ、な!」

「おう! ありがとうな!」

「お前のありがとうも軽くなったもんだな!」


 瑛士はベリドが親指をつきたてた手をパンと払い、腕をぐるぐると回した。

これにて完結です!

ありがとうございました!

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