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灰色ノ世界  作者: 新井真
第二章 次元を越えて黒魔族界!!
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二十一話:降り立つ二人


「おい! 僕のことはもっと丁寧に扱え! お前より立場は上だぞ! 聞こえているのかピト!」


 高く掲げられた椅子の上、身動きの取れないレグナはなんとか逃げようと悪戦苦闘していた。だがピトはそれを無視してひたすら歩いてゆく。


「うるさいですネェ。そのメガネかち割りますヨ? なんか勘違いしてるみたいですから言わせてもらいますけど、あんた、もう俺の下ですヨ? 一度、自分のこと見つめなおした方がいいですネ」


「なんだとォ!」


 ピトの足が止まる。どうやら目的の場所に着いたようだ。


「いつまで僕を閉じ込めるつもりだ」

「あれ? 元ナンバースリーが知らないんですカ? ここに入れられたら永久にさよならでス」


「結局僕は殺されなくちゃならないのか」

「違いますネ。死にはしないでス」

「どういう意味だ」

「そーゆーのは自分の目で確かめるのが一番ですヨ」


 床に転移系(ポート)の穴が作られた。神殿の中のどこかにある隔離室に繋げられているのだ。そこは特殊な魔法で、魔力を強い魔法に変換できなくなっている。レグナはそんな牢に、椅子ごと放り込まれた。


「うぉあっ!」



 ガツンと音を立てて落ちる。結局最後まで拘束が外されることはなかった。衝撃が体全体に響き、瑛士につけられた傷が痛む。


「ぐ……」


 レグナが目を開けるとそこには数人の顔があった。


「なッ!? 誰だ、お前ら!」


 レグナが驚きの声をあげると、頭上の顔もレグナを覗き込むのをやめて離れる。


「おいどうした。新たに放り込まれた奴がいるのか……?」

「誰だ?」

「おい、俺、この人みたことがあるぞ」

「この人は」


 隔離室の中の人々がざわざわと騒ぐ。一つの檻に何人か収容されているようだ。


──なんだ? こいつらは。こんなにいるものなのか、閉じ込められているやつらが。


 レグナは一人眉をひそめた。


#


 瑛士は夏休みに入ったばかりだ。

 スーパーのビニール袋を手に持って、じりじりと照りつける太陽と熱を反射するアスファルトに挟まれ、彼は歩いていた。

 そしてその隣には、風華がいる。彼女もまた、近くのスーパーに買い物に行った帰りだった。彼らはそこでばったりと出会った。

 晴れて交際を始めた二人だったが、この一週間メールでのやり取りしかしていない。互いに、こうして顔を合わせるのが恥ずかしかった。


「江里さん、夏休みは何か予定入ってるかな」

「私は、特に。三上くんは?」

「僕も、特に」


 会話はそこで終わる。黙ってしまう二人。


「どこか、遊びに行こうか。その、どこか」

「……うん」


 静かなやり取りが二人らしい。


「また、今日の夜にでも、メールで決めよう。どこに行くか、とか。あと、日にちも」

「うん」


 歩道を歩く二人。風が通り抜けると、木の葉がざわめく音がする。数メートル先には別々に別れる道がある。

 せっかく会えたのに、何を話していいかわからない。瑛士の頭は気温と思考で熱くなっていた。

 ふと瑛士は音がなくなる感覚を覚えた。蝉の鳴き声が、風の音が、聞こえなくなった。


「……? どうしたの、江里さん」

「三上くん、あれ!」

「……なっ!」


 風華が先に異変に気づいた。彼女が指差したその先。木の葉が空中で止まっている。


──バカな! 時間が止まっているのか。


「なんだよ、これ」



「お前が、ミカミエイジか」

「……!?」


 後ろから声がした。名前を呼ばれたことで反射的にばっと振り返る瑛士。

 そこには男女二人が立っていた。どちらも真夏には暑すぎるような格好だ。だが、瑛士はその雰囲気にデジャブを感じた。


「丁度、エサトフウカも居るようです。いかが致しますか」


 彼らの頭上に浮いている輪っかが目に入る。


──こいつら、まさか!


 瑛士は風華を庇うように前に一歩出る。


「先ずは力を確認する必要があります」

「はっ」


 男の方が瑛士に向かって歩いて来た。


「おい、あんたたちいったい誰だ、何者だ? レグナの仲間──白魔族なのか?」

「よくわかっているではない、か!」

「ぐっ……」


 男の拳が瑛士の腹に入る。袋を落とし、瑛士はその場にうずくまる。


「俺はセルという者だ。お前の力を見せてみろ」

「やっぱり……。も、もういいだろ、そういうのは」


 瑛士は痛む腹を抑えながら、うなだれた。


「どうした。レグナを圧倒した力を見せてみろ」


 セルは瑛士を前に立つだけだった。瑛士が立ち上がるまで、それ以上のことはしなかった。


「生憎だが、知らない。俺は、そんな方法! うおおお……!!」


 瑛士はセルにやり返すように殴りかかる。だが瑛士の攻撃は簡単に止められてしまう。


「お前からは何の魔力も感じない。レグナの報告は嘘だったのか?」

「うがっ!」


 瑛士をもう一度地面に押し付け、彼は退屈そうな顔を浮かべた。


「では、お前はどうかな」


 彼は風華の前に歩き出す。


「ひ……!」


 風華は買い物袋を落としてしまう。足が震え、恐怖で動けない。セルは風華の目の前に立ち、拳を握る。


「やめろ! 江里さんに暴力はッ!」


 瑛士はセルの足を掴んで、彼の歩みを妨げようとする。



「!」



 止まった時の中、瑛士は見た。風華の周りに出来たバリアを。


──また、あの時の。


「ほう……こっちの方が優秀だったか。ふん!」


 セルは足にしがみつく瑛士を、バリアに向かって蹴り上げた。


「ぐがあ!」


 瑛士はバリアに思い切りぶつけられた。


「三上くん!」


 風華の叫びと共にバリアは粉々に砕けた。破片は地面に落ちる前にすうっと消える。


「持続は本人の精神状態による、と」


 セルが冷静に分析する。


「だが、この程度では全くの期待はずれだ。やはり非魔族の魔力など、あてにはできん」


 セルはやれやれと風華たちに背を向けた。


「おい、俺はまだ終わってねぇぞ」

「ん?」


 一方的にやられ、倒れていた瑛士は、風華の前に立っていた。


「魔力が……? ほう、ようやくお前も力を見せる気になったか」

「さっさとこの変な現象を元に戻せ。もうお前らとは関わりたくないんだ」

「では手短に終わらせてやろう。」


 二人のバトルが始まった。

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