二十話:新たな刺客
あの戦いから一週間が経った。
瑛士たちが夏休みを過ごしている頃、白魔族の世界の神殿と呼ばれる建物では、殺伐とした空気が流れていた。
神殿の中。とある部屋には白い石で出来た円状のテーブルの周りに均等に七脚の椅子が並べられていた。部屋には既に五人が待機していた。
「七つ椅子があって、四人しか座ってないね」
「ないね」
「変なのー!」
同じ服を着た子ども二人がががたがたと椅子を揺らしながらきゃははは、と笑う。椅子を揺らすのに飽きたら今度はテーブルの周りを走り回りはじめる。ツインテールの子をポニーテールの子が追いかける。
「メガ様は今、大切な会議に参席されている。すぐにいらっしゃるはずだ。おとなしく待っていろ」
「でもセル、すぐっていつー?」
「いつなのー?」
「分かんないよねー?」
「だからいいじゃーん」
「お前たちも縛ってやろうか?」
「……はーい」
「はぁーい」
セルという男が二人に立ちはだかり、厳しく注意する。子どもたちは元気がなくなり、それぞれの席に着いた。退屈なのか、足をぶらぶらとさせる。
「ふふふふ……」
「何を笑っている?」
二人に注意をした男は先ほどと同じく部屋の奥に立ち、声の主に問う。
「ふふ。何がメガ様だ……。何が大天使の会だ。適当に雑談するだけだろ。何様のつもりなんだよ、一体。僕をこんな風にしておいて待たせるんじゃないよ!」
「黙れ」
「ぐわぁああ!」
男の手から魔法が放たれる。座っている男の顔面に直撃する。そこそこの衝撃だったが、椅子は倒れない。
「大天使の会についてとやかく言う必要はない。レグナ、そもそも今回はお前のために開かれたということを分かっているのか」
「ふふ、分かっているさ、そんなこと。だから外してくれないかなあ、この拘束をさ」
セルの攻撃を受けた魔族はレグナだった。怪我は完治しておらず、包帯が所々に巻かれている。服は綺麗になったが、肌にはまだ傷が残っていた。
そんな彼は、椅子に鎖や縄や枷と、ありとあらゆるもののせいで動けなくなっていた。全身に拘束具をつけられたレグナに自由は一切ない。
「分かってないなあ」
「ないなあ」
「……なんだと?」
「はずしちゃったら逃げちゃうでしょ?」
「でしょ?」
先ほどの子ども二人がレグナの顔を見てにやにやと笑う。
「ふ、僕が? そんなことするわけないだろ。ガキが、馬鹿にするんじゃない」
レグナが二人を睨む。
「わぁ。こわぁい」
「こわいねえ」
二人がくっつきあい、こわいこわいとレグナを挑発する。
「できない、の間違いですよネ。僕がここに来た時からずっと、足震えていますヨ」
子ども二人の反対側にいた男がさらにレグナを煽るような発言をする。
「見るな!」
「んへへへ、もうあんたは強い魔力を使えないんじゃないですカ」
「そんなわけないだろ。新人のお前ごときが僕に偉そうな口を叩くんじゃない。僕が何もできないのは今だけだからな」
「今回はそれに関しても決まるんですヨ? さてさて、レグナさんの席はどれだけ落ちるのかナァ〜」
「バカなことを言うな!」
「静かにしろ。メガ様がいらっしゃった」
全員が頭を下げる。レグナも形式だけは則ろうと慌てて下を向く。ぽっかりと空いた天井からゆっくりと一人の女性が降りてきた。彼女は男の引いた椅子に座る。
「レグナがようやく戻りました。しかし、センチは下界に放ったままとのことです」
報告が終わると彼も座った。これで現在揃う全員が椅子についたことになる。
メガは無言で頷く。そしてゆっくりとレグナの方を見る。
「いや、僕は前回の問題解決のために、仮説を検証しに下界に行ったんだ。非魔族界にも魔力を持った者がいるということだっただろう? 善は急げ、というやつさ」
メガは黙ったままだ。
「そしてそれは実証された。これは充分な収穫だと思うが?」
「だが黒魔族に見つかり、非魔族にやられ、センチを置いて逃げ帰ってきたト。そうですよネ」
「ピト! 今は僕の時間だ! 口を挟むことは許されないぞ!」
レグナは続ける。
「本当に一人、強い魔力を持っていたんだ。エサトフウカという女だ。あいつを連れてこれば、この世界に必要な魔力が手に入る。それを僕が連れてくる。だから待ってくれ」
メガは目を閉じた。レグナのことをどうするか考えているのだ。
「でも無理だったんだよねー」
「だよねー」
「うるさい! このガキどもが!」
「レグナ」
漸くメガが口を開いた。
「は、はいっ!」
レグナはぴんと背筋を伸ばした。拘束具の鎖が音を立てる。
「あなたはもう下界に行く必要はありません。しばらく頭を冷やす期間を与えます」
「なっ! なぜだ! 僕が使えないとでも!?」
「口答えするな。メガ様のいう通りにしろ」
「うるさい! このメガ信者!」
メガを除く四人がレグナに手を向ける。レグナがまずいと思った時には遅かった。頭に血が上って、つい言いすぎたのだ。避けようとしても拘束具が邪魔で動けない。
「うあああああああ!!」
集中砲火を浴びて、レグナは椅子ごと倒れてしまった。
「ピト。レグナを閉じ込めておけ」
「はイ」
ピトは手に魔法をかけ、椅子ごとレグナを持ち上げる。そして部屋を後にした。
「ねえ。わたしたちはー?」
「今日はもういいぞ」
「わーい!」
「やったぁ!」
二人の子どもも走って部屋を出ていった。
「……どうしました? メガ様」
二人を見送ったセルはメガに問う。
「レグナがあれほどまでに痛めつけられていた」
「……というと、奴が戻ってきた際のことを、ご覧になっておりましたか」
レグナが戻って来たとき、神殿は大騒ぎになった。非魔族界に飛び出していったはずのレグナが、ぼろぼろにやられていたからだ。彼は白魔族の中でも非常に強く、その実力は白魔族のナンバースリーと言われている。もっとも、それは一般市民には大天使の会の存在が知られていないためだが。
「私だけではありません。彼らも見ておりましたよ。そして言ってました。我々の世界を救う鍵になるかもしれないな、と」
「我々の世界を……?」
「セル、これは貴方にだけ話しました。信頼していますよ」
「……レグナの記憶の写しをとってあります。レグナは非魔族界で何に遭ったのかは全て把握しております。非魔族界には私が行きましょう」
「私も行きます」
「な!? メガ様、おやめください。危険です」
「セル。私に何か危険が及ぶとでも?」
慌てるセルに、メガは冷静に言い放った。
「……いえ」
「では参りましょう。非魔族界に」




