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作家と軍人  作者: 藤戸 嘉太郎
刑務所内自殺人事件
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刑務所内自殺人事件 16

すみません、また遅くなりました…。更新時間見直した方がいいかもしれない、と考えが浮かんできました。

 メディシンが護送車に運ばれていく。彼がどうなるのかは分からないが、そこは自分の考えるところではない。

 ——むしろ、この現状を考えなければいけない。

 レナートの右側にはロッソが。左側にはユイが。

 二人共レナートの腕をつねったり叩いたりしている。地味に痛い。しかし自分が文句を言える立場にいないため、黙って受け止めることしかできない。


「愛されてんな、お前」


 まるで茶化すようにレックがこちらに話しかける。メディシン捕獲のときは助けてくれたらしいが、今この状況の自分を助けるつもりはないようだ。


「復活まで十秒もかかっていないんですけどね……」

「時間の問題じゃねぇの、こういうのは」


 レックが物わかりの悪い子供をような目で自分を見る。やめろ、自分の思考の何がおかしいんだ。

 ——いや、最近死に過ぎだ。エッスエドは仕方ないとしても、対人戦闘でこんなに死ぬのは確かに護衛の仕事上マズい。今回の死は、メディシンが自分自身に反撃手順の命令を下すと考えなかった自分の油断が招いたものだ。何らかの対策を考えないと……。


「あらあら。こっちの問題は解決してなかったの?」


 ヤコブ警部が困ったように頬に手を当ててこちらに近付く。ウロチもヤコブの後を追うように歩いて来ているが、その動きはどこか遅い。痩せろ。

 ヤコブ警部はメディシン拘束のときいなかったが、彼はどこにいたのだろうか。


「ヤコブ警部! あんた今までどこにいたんだよ!」

「ロッソさんつねりながら言わな、痛い痛いいたい」

「メディシンが仕込んでいた受刑者の暴走を抑えていたのよ。ヤンさんをドジっ子にすることができるくらいだし、身を守るために何人か暴れるように手順設定しててもおかしくないからね」


 両方のつねり攻撃が止まる。予想外の思考だったが、納得できる。ユイはその線を全く考えていなかったのか、左手を口に当てていた。

 ——確かに、その可能性もあったが、皆そこまで考えていなかった。


「改めて、ありがとうございます。ヤコブ警部の判断のおかげで、順調と呼べるほど鎮圧できました」

「長年の勘、てものだよ。ちょっと人生積めば皆考えられるよ」


 三十路半ばの男が何か言ってる。

 ヤコブの言葉に皆微妙な顔をする。どうしてそんな反応をしているのか本当に疑問に思っているようで、ヤコブはきょとん、とした顔でこちらを見ていた。


「なんで皆そんな顔をしているの?」

「三十路の男が言っても説得力ないからこんな顔になっているんですよ」


 ようやく追いついたウロチが皆を代表してヤコブに話す。よくぞ言ってくれた。

 皆んなの疑問をようやく理解できたようで、あらぁ、なんて嬉しそうに声を上げる。


「私、今年で五十九だよ」


 ヤコブの言っている意味が、理解できなかった。

 理解した瞬間。レック、レナート、ユイ、ロッソが目を剥いた。ユイは黒眼鏡で見えないけど、多分自分と同じ表情をしているはずだ。


「ハァ⁉︎」

「おっさん通り越してジジィじゃねぇか!!」

「還暦一歩手前じゃん‼︎」


 ロッソ、レック、ユイが次々に突っ込む。三人が言いたいこと代弁してくれたため、レナートは黙っていた。

 口を開いた瞬間、胸倉つかんで若作りのコツを聞き出してしまう。


「かん? よく分からないけど……趣味が実って嬉しいわぁ〜」

「おめぇの趣味かよ!」

「どうしたレナートさん!?」


 だめだ堪えられない。今日一番の攻撃を喰らった気がする。なんでかよく分からないが娼婦()達が負けた気がする。

 地面に手をついて項垂れるレナートを慰めるようにユイが背を撫でる。


「あ、いたいた」


 レナートの元に近付く足音が二つ。見ればキェシェニとリカール——監視だろう——がこちらに来ていた。

 レナートは立ち上がって膝や掌についた汚れを払う。


「キェシェニさん、どうされましたか?」

「あんた達、帰っちゃうんだろ? レナートさんにこれを渡したくて」


 キェシェニは一枚目の紙を差し出した。捨て紙を四つ折りにしたような紙だ。これを人に渡すものではないのは、キェシェニは分かっているはずだ。

 それでも渡した。


「ちゃんとした紙に写したかったけど……こいつの字で、伝えた方がいいかな、て思って」


 ——グォシュヌイのメモですか。私宛の。

 無言で、受け取って紙を広げる。

 強い筆圧で、角張った字に目を通す。

 ——なるほと、これは……戦争を知らないクソガキだな。

 レナートは基本的に他人に同情しない。一方的な憐れみは侮辱に等しい。

 そんなレナートでも哀れと思ってしまうほど、グォシュヌイの言葉は純粋だった。メディシンが壊れるのも無理はない。

 ——だが、その分、正直だ。

 広げた紙を四つ折りにして懐にしまう。グォシュヌイの言葉に思うところがないわけではない。


「キェシェニさん」


 ただ、無碍にしていいものでもない。


「この手紙を、届けてくださって、ありがとうございます」


 心からの感謝を伝えれば、キェシェニの体が勢いよくのけぞった。なんでそんな反応をするんだ。

 見ればリカールも眩しいものを見たかのように目を眇めている。

 なんでだ。何があったんだ。

 戸惑う自分に、隣にいたユイが口を開く。


「レナートさんって美形だってこと、今痛感しました……」


 話すというより、自然と溢れてしまったかのような口調で。


「ありがとうございます」


 お礼を言えばつねられた。なんでだ。

刑務所内自殺人事件、完。

終わりが、終わりが難産でした!

次章は六月の下旬を考えています。決まったら活動報告でお知らせします。

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