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作家と軍人  作者: 藤戸 嘉太郎
妊婦連続殺害事件
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妊婦連続殺害事件 4

今回はちょっと短いです。

確定ではありませんが、下記のキャラが出てくる可能性が出てきました。

キーワードに同性愛描写ありとLGBTQ+を追加しました。

ご確認お願いします。

「ママはね、大きなお空に行った、ってパパが言ってたよ。大きなお空には、えらばれた人しか行けないんだって。ママはうっかりえらばれちゃったから、先に行ったんだ、て」


 石鹸水に細長い筒を入れて息を吹き込む少女の話を、レナートは黙って聞く。

 最初の被害者の娘、マリィはシャボン玉を空に飛ばしながらユイに話しかける。


「概ね正解だな」


 口元に手を当てながら返事するユイの姿は喫煙姿によく似ている。子供の前では吸えないから、恰好だけそうしているのだろう。よくしている仕草だから癖になっているみたいだ。


「おおきいおむね?」

「ちょっと似てるけど全然違うよお嬢ちゃん。それじゃあ私がただの変態さんになっちゃうじゃないか」

「ちがうの?」

「違うぞお嬢ちゃん。お姉ちゃんは変態じゃないぞ」

「おばさんちがうの?」

「お姉ちゃんと呼びなさい。私はおばあちゃんじゃないぞ」

「だれも言ってないよおばあちゃん」

「今言っているじゃないかぁ!」


 幼い子供の言動にしっかりと突っ込むユイの姿は真剣そのもの。その反応が子供を面白くさせているとは全く思っていないらしい。

 マリィはきゃらきゃら笑ってユイの足をつつく。マリィのその顔を見ていると、故郷の子供達を思い出す。

 ——呑気だな。

 ストリャルドの子供達も、この子みたいによく笑う。

 ただ、それは欺くためだ。幸せだから笑うのではない。明日生きるために、今日人を騙す。そのために笑うのだ。

 レナートは運よくあの娼館の主人に拾われたから一定の収入を得ることができたが、冷たくて固い、ひび割れた地面で寝ることしかできない子供にはそんな安心はない。故に、生きることに対して誰よりも強かった。

 それこそ、そこら辺に落ちていた死人の髪などの素材を集めて売るくらいのことは日常茶飯事だった。

 ——知恵の魔女(あの女)が来るまでの話だが。

 クソアマはクソアマなのだが、あいつがいなければ故郷の衛生観念や治安は最悪なままだった。感謝すべきことなのだろうが、いかんせん行いが最悪すぎる。

 初めて人を殺したことに思うことはあれど、あの女を殺したことに後悔は全くない。

 ユイがレナートの思考を読んでいたら「あれだけ取り乱しておいてそんな思考で片付くわけないだろ私の視界と共有して鏡見ろボケ」て絶対言っていたが、残念なことに思考を読めないユイはその言葉を言うことはなかった。


「それより、きみのお父さんはどこに行ったのかな? 色々聞きたいことあるんだが……」

「ごにちまえからかえってきてないよ」

「オゥノォ……それなんかヤバくない?」

「おおの?」

「まおう?」


 ユイの言葉の意味が分からなくて首を傾げれば、マリィと被ってしまった。

 ——マリィちゃん。何で魔王なんて言ったの。今のどこにそんな聞き間違いをする要素があったの?


「じゃあお嬢ちゃんは今どこで寝ているんだい?」

「ママのおばあちゃんのおうちにいる」

「……孤児院送りは避けられたか」


 ——死体が見つかっていないから行方不明、という扱いなのだろう。正直、これ以上見つからなければ、死亡扱いになる。

 ユイは、それに気付いているはずだ。でなければ、孤児院という言葉は出てこない。


「でも、わたし、そこにいくとおもうよ。おばあちゃん、びょうきでながくないんだって。だから、あそびにいったんだ」

「経済的な観点で育てるのは無理と判断したか……。どこに遊びに行ったんだ?」

「ドムズノツ」

「夜の家……変わった名前だな。レナートさん、そこで話を聞きに行くぞ」

「お婆様に話は?」

「聞くだけ無駄だ」


 最後にマリィに目線を合わせ、話してくれてありがとうと言ってユイはマリィに背中を向けた。

 マリィはぺこり、とお辞儀を一回だけして、またシャボン玉で遊び始めた。

 ——先生がお婆様に話を聞かない理由は、何となく想像がつく。

 対象が妊婦とはいえ、連続殺人犯がこの町にいるのだ。だというのに、家の前とはいえ、一桁の子供をたった一人で遊ばせている。

 病気が深刻なのか、興味がないのか。どちらにせよ、あの子にとって良い存在ではないのは事実だ。

 ユイが聞く必要がない、と言い切る理由も分かる。子供に対するあの無関心さでは何を聞いても意味ないだろう。

 ——父方の家族は……確か資料ではいなかったな。天涯孤独、というやつか。

 ユイの左手がポケットの中身を漁る。

 あれは煙草を吸いたいのを我慢しているんだ。ユイの仕草から彼女が何をしたいのか、分かるようになってきた。レナートもちょっと吸いたくなってきてしまった。


「先生、この事件についてどの程度推理が進んでいるかお聞きしても?」

「ああ……今回の事件の犯人は、魔力探知にかなり長けている、てことは想像つく。この被害者達を見てくれ」


 ユイが差し出した資料を読む。

 ジュディ・エイラット。年齢二十三歳、妊娠一ヶ月三週。

 アリア・ドットロン。年齢二十五歳、妊娠十週。

 ゾーイ・クリアン。年齢三十歳。妊娠五週。

 エディ・ハーンドゥ。年齢二十四歳。妊娠二ヶ月半。

 ハーパー・エディソン。年齢十九歳。妊娠六週。

 パリス・ディーベレット。年齢二十歳。妊娠九週。


「ほとんど妊娠初期から中期の方が多いですね。エディさんだけ遅いですけど」

「そうだ。四か月とかは大体分かりやすい時期といわれるが、五週なんてお腹の膨らみが全くと言っていいほどない時期だ。なのに、これだけの死者が出ている。五、六週なんて、外部のものからの犯行にしては早すぎる」

「最初は婦人科に勤める者が犯人だと疑われていたんですよね?」

「捜査資料を見る限り、そのようですが……全員アリバイがある上に、それができるだけの力を持っている者がいないんですよね。エディさんの抵抗から考えると、相当魔力量が多くないとできませんから」

「確かにこの町唯一の産婦人科医院は全員魔力量が平均以下ですね。平均以上ある医者も、腰が悪くて長距離の移動はできないし、腰痛から箒飛行を禁じられている。……医療従事者の線は途絶えた、てわけですか」

「他に考えられるのは先ほど言った魔力が多い者か……」


 ユイの顔がある方向へ向く。あらゆる光を吸収するのか、というほど黒い眼鏡は何も映していないが、何を見ているのか分かった。


「通院手段の一つである、辻馬車か」


 二人の五メタ先に、客待ちしている辻馬車があった。

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