ex.エピソード 昭和の観光地の1日のシュミレーション 愛知県 香嵐渓ヘビセンター
30年の断崖を越えられなかった観光地を小説の中で堪能したい!という願いをAIに作ってもらいました。
かつて愛知県足助町(現在の豊田市)に実在し、伝説的なカルト的人気を誇った「香嵐渓ヘビセンター」。もし、全盛期のあの場所に迷い込んだら?
少しシュールで、どこか温かい一日の物語です。
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昭和57年(1982年)。世はまさに「ツッパリ」と「カフェバー」が混在し、若者たちがタバコの煙の向こう側に未来を見ていた時代。
23歳の健一は、愛車のスカイラインGT-EXを走らせ、開通して間もない猿投グリーンロードを抜けて足助へと向かっています。
昭和57年、秋。巴川に散る火花と鱗
AM 11:00:土曜日の喧騒
「……ったく、駐車場いっぱじゃんか」
健一はサイドミラーでリーゼントの乱れをチェックし、タバコのハイライトを指ではじいた。カーステレオからは大滝詠一の『君は天然色』が流れているが、ここ香嵐渓の空気はもっと泥臭く、活気に満ちている。
「ヘビセンターか……。親父が喜んで来そうな場所だな」
彼女に振られ、仕事もパッとしない。そんなモヤモヤを吹き飛ばしたくて、彼はあえてこの「怪しげな聖地」に足を踏み入れた。
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昭和57年(1982年)。香嵐渓の秋は、色づく紅葉の鮮やかさとは裏腹に、ヘビセンターの食堂内には独特の「熱気」が充満していました。
健一は、少し汗ばんだリーゼントをかき上げ、パイプ椅子の並ぶ食堂の暖簾をくぐりました。
極彩色の滋養強壮
PM 12:30:琥珀色の休息
「おばちゃん、キリンの瓶、一本。あと……例の『マムシ酒』も頼むわ」
健一は、油の馴染んだテーブルに千円札を置いた。
運ばれてきたのは、キンキンに冷えた大瓶のビールと、琥珀色の液体に浸かった「本物」の入ったマムシ酒の小グラスだ。
「……くぅ、効くねぇ」
まずはビールをコップに注ぎ、一気に煽る。喉を焼く炭酸が、コブラ対マングースの熱戦で乾ききった体に染み渡る。続いて、おそるおそるマムシ酒を口に含んだ。独特の、漢方のような枯れた香りと、胃の腑がカッと熱くなるアルコールの波動。
「これが、大人の味ってやつか」
健一は、少し背伸びをしたような優越感に浸りながら、次の獲物を待った。
PM 12:45:未知なる「鱗の宴」
「はいよ、マムシの蒲焼と唐揚げ。サービスで肝も付けといたよ!」
おばちゃんが威勢よく運んできた皿には、想像を絶する光景が広がっていた。
蒲焼は、ウナギよりも身が締まり、焦げた醤油の香ばしさが鼻を突く。箸で一切れ掴み、口に放り込む。
「……ん! 歯ごたえがすごいな」
噛むほどに野性味あふれる旨味が溢れ出す。ウナギのような脂っこさはなく、むしろ筋肉質な白身魚に近い。ビールとの相性は抜群だ。
続いて「唐揚げ」に手を伸ばす。
サクッとした衣の中から現れたのは、鶏のササミをさらに凝縮したような弾力。
「これ、ヘビって言われなきゃわかんねえな……」
骨の周りの身をしゃぶり尽くす。自分が今、最強の毒蛇を喰らっているという事実が、健一の心に奇妙な征服感を芽生えさせた。
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PM 13:15:野生を取り戻す
最後は、小皿に乗った「肝」だ。
ヌルリとした食感を一息に飲み込む。マムシ酒で追い打ちをかけると、体中の血流が早くなるのがわかった。
「……なんだ、まだやれるじゃんか、俺」
仕事のミスで落ち込んでいた自分、彼女にフラれて意気消沈していた自分。そんな弱気な「令和的」なメランコリー(当時はそんな言葉もなかったが)は、この野蛮で力強い料理の前では霧散していく。
「おばちゃん、勘定! 元気出たわ!」
「あいよ! お兄さん、いい顔になったねぇ」
食堂を出た健一の足取りは、先ほどまでとは別人のように力強かった。
秋の陽光を反射する巴川のせせらぎが、今は勝利の凱歌のように聞こえる。
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PM 13:00:命を賭けた円形舞台
「さあ、入った入った! 世紀の対決、コブラ対マングースだ!」
呼び込みのダミ声に誘われ、健一は人だかりの後ろから首を伸ばした。
円形のリング。シュルシュルと舌を出すコブラの鎌首と、毛を逆立てて威嚇するマングース。
「……やれ、行け!」
誰かが叫ぶ。マングースが電光石火の動きでコブラの喉元を狙う。剥き出しの殺意。テレビの向こう側の「野生の王国」ではない、目と鼻の先で繰り広げられる死闘だ。
健一は、無意識に自分の拳を握りしめていた。理屈じゃない、ただ「生きるか死ぬか」の単純な熱量が、停滞していた彼の血を熱くさせた。
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彼は再びリーゼントを整えると、次なるアトラクション「象乗り」へと向かって、ドカドカと地面を踏みしめて歩き出した。
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PM 14:30:巨象の背の上で
興奮冷めやらぬまま外へ出ると、今度は巨大な象がのっそりと歩いていた。
「兄ちゃん、乗ってくか? 500円だ」
「……ああ、頼むわ」
象の背中に揺られながら、健一は足助の町を見下ろした。揺れは予想以上に大きく、視界は驚くほど高い。
「……ちっぽけだな、俺の悩みなんて」
秋風に吹かれながら、彼はふと思った。会社でのミスも、振られた彼女のことも、この巨象の一歩に比べれば、巴川に流れる落ち葉のようなものだ。
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PM 15:00:ヘビとの対話
午後の目玉、ヘビの首巻き体験。
飼育員のおじさんが、巨大なビルマニシキヘビを軽々と担いでやってきた。
「お兄さん、勇気ある顔しとるね」
乗せられた瞬間、ずっしりとした重みと、吸い付くような冷ややかさが首を包む。心臓が跳ねた。生き物の体温と筋肉のうごめきがダイレクトに伝わってくる。
「すごいな、生きてるんだな……こいつも」
画面越しでは決して味わえない、強烈な「生の質感」。健一の顔に、自然と少年のようなどこか懐かしい笑みが浮かんだ。
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PM 15:30:正義の凱歌、デンジマン参上!
そして、広場には爆音が響き渡る。
『デンジマン、デンジマン、見ろ、あいつは……!』
「うおっ、本当に来やがった」
ステージに現れたのは、電子戦隊デンジマン。去年の放送終了後も、ここ香嵐渓ではまだ彼らが現役のヒーローだった。
火薬が弾け、白煙が舞う。悪の組織ベーダー一族をなぎ倒すデンジマンの姿に、健一はかつての自分を重ねていた。
「負けんなよ、デンジマン!」
気づけば、子供たちに混じって叫んでいた。ヒーローなんて子供だましだと思っていた。でも、全力で戦うその姿に、彼は忘れていた「熱」を思い出していた。
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PM 17:00:夕暮れのトワイライト・ロード
スカイラインのエンジンをかける。ダッシュボードに置いたヘビセンターのパンフレットが、夕日に赤く染まっている。
「さて、明日は早起きして洗車でもするか」
彼はカセットテープを裏返し、チェッカーズが流行り出す少し前の、まだ少し無骨な昭和の風を感じながら、アクセルを踏み込んだ。
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足助の晩餐(たそがれの美食)
PM 18:00:宿場町の灯火
香嵐渓の紅葉を後にし、健一は足助の古い町並みへと足を進めた。街灯がぽつりぽつりと灯り始め、千本格子の隙間から夕飯の支度をする醤油の香ばしい匂いが漂ってくる。
「ヘビの次は……少し落ち着いたものが食いたいな」
マムシ酒の熱が心地よい余韻となって残る中、彼は「井筒亀」の暖簾をくぐった。ここは江戸時代から続く老舗で、昭和のこの時代も地元の人々に愛されている名店だ。
PM 18:30:猪肉の鼓動
「いらっしゃい。お兄さん」
店内の使い込まれた木のテーブルに座り、健一は「しし鍋」か「うなぎ」で迷ったが、今の自分には山のエネルギーが必要だと感じ、しし鍋の定食を注文した。
運ばれてきた鍋の中で、鮮やかな赤身の猪肉が味噌仕立ての出汁と踊っている。
「……これだ」
一口食べると、猪肉独特の力強い弾力と、脂身の甘みが口いっぱいに広がる。ヘビ料理とはまた違う、大地の豊かさを凝縮したような味だ。
「美味い……」
白飯をかき込み、熱い味噌汁で流し込む。昭和57年の空気の中で、一日の冒険を締めくくるにふさわしい、贅沢で実直な夕飯だった。
PM 19:30:夜の静寂へ
腹を満たした健一が店を出ると、足助の町はすっかり夜の静寂に包まれていた。
巴川を渡る風は冷たかったが、猪肉とマムシのエネルギーが充満した彼の体は、驚くほど温かい。
「さて、スカイラインを走らせて帰るとするか」
彼は夜の街道に消えていく自分の足音を聞きながら、充実した一日の終わりに静かに満足していた。
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昭和57年・足助の熱帯夜
PM 19:30:身体の異変
「……なんだ、この熱さは」
スカイラインの運転席に座り、キーを回そうとした健一の手が止まった。
指先までジンジンと痺れるような感覚。マムシ酒のアルコールはすでに抜けているはずなのに、胃の奥からせり上がってくる「力」の塊が、行き場を失って暴れている。
バックミラーに映る自分の顔は、ライトアップの赤よりも赤かった。
「このまま帰れるかよ。ハンドルを握る手が震えやがる」
PM 20:00:重すぎる足取り
健一は車を降り、夜の足助の古い町並みを歩き出した。
普段なら風情があると感じるはずの千本格子の家々も、今の彼には「閉じ込められた檻」のように見える。一歩踏み出すごとに、太ももの筋肉が跳ね、アスファルトを蹴り上げる力が余ってしまう。
「どいつもこいつも、寝るのが早すぎるんじゃねえのか……」
すれ違うのは、夜の散策を楽しむ老夫婦や家族連れだけだ。
23歳の、それもマムシをフルコースで平らげた男が放つ殺気立ったオーラに、通行人がわずかに道を譲る。
PM 20:45:巴川の冷気と相克
やり場のないエネルギーを鎮めるため、健一は川縁へと降りた。
巴川のせせらぎは冷たく、秋の夜風が頬を叩く。しかし、体内の熱は一向に引かない。
「クソッ、デンジマンならこういう時どうするんだよ」
彼は思わず、河原の大きな岩を力任せに押し上げた。ズズッ、と岩が動く。
「動く……本当に力が有り余ってやがる」
ひとしきり岩と格闘し、シャドーボクシングを繰り出す。誰もいない暗闇で、シュッ、シュッという鋭い拳の音が響く。マングースのようなスピードで、彼は見えない敵——将来への不安や、元カノの面影——を次々とKOしていった。
PM 21:30:覚醒の果てに
ようやく額に汗が滲み、荒い息をつきながら健一は土手に座り込んだ。
空には、都会では見られない満天の星。
「……マムシ、恐るべしだな」
体内を巡っていた暴力的とも言える活力は、運動を経て、心地よい充実感へと変わっていた。
不思議と、今ならなんだってできる気がした。明日、会社へ行って上司に自分の意見をぶつけることも、新しい恋を探しに栄のディスコへ繰り出すことも。
「あー、腹減ったな。……いや、さすがにヘビはもういいわ」
健一は自嘲気味に笑い、リーゼントを乱暴にかき上げると、今度こそスカイラインのエンジンをかけた。
L型エンジンの野太い排気音が、静まり返った足助の町に響き渡る。
彼はギヤを1速に入れ、まだ熱の引かない体をなだめるように、ゆっくりと夜の国道を走り出した。
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昭和57年・マムシの目覚め(ニュー・デイ)
AM 6:30:覚醒の瞬間
いつもなら、目覚まし時計のベルを叩き止め、重い体を引きずって這い出す時間だ。しかし、この日の健一は違った。
ベルが鳴る数分前、パチリと目が開いた。
「……軽い。なんだこれ」
頭の芯が驚くほどクリアだ。昨夜、足助の河原で暴れ回った疲れなど微塵もない。それどころか、背骨の一本一本にまで瑞々しい活力が充満している。まるで古いオイルを抜き去り、最高級の潤滑油を注ぎ込まれたエンジンのような感覚だった。
AM 7:15:鏡の中の「男」
洗面台の鏡を覗き込むと、そこには自分でも驚くほどツヤの良い顔があった。
「……肌の調子までいいじゃねえか」
マムシのコラーゲンなのか、それともあの猛烈な血行促進の賜物か。
彼はいつになく丁寧にリーゼントを整えた。ポマードの香りが、今朝は一段と爽やかに鼻を抜ける。白いワイシャツに袖を通すと、胸板が少し厚くなったような錯覚さえ覚えた。
AM 8:30:出撃の朝
アパートの前に停めたスカイラインに乗り込む。
チョークを引き、キーを回す。一発で目覚めるL型エンジンの咆哮。
「よし、行くか」
昨日までの、何に対しても斜に構えていた自分はもういない。
職場の嫌な上司も、停滞している仕事も、今なら「コブラ」に対する「マングース」のように、しなやかに、そして鋭く立ち向かえる自信があった。
彼はカセットデッキに、昨日より少しアップテンポなテープを放り込んだ。
香嵐渓ヘビセンターでもらった、あの「野生のエネルギー」を胸に、健一は朝の喧騒の中へと力強くアクセルを踏み込んだ。
昭和57年。まだ何者でもない若者の背中を、秋の高く澄んだ太陽が力強く押し出していた。




