第51話
26年 9/10 10:00:ルレラ連合:ノブォシビルスク
ノブォシビルスク近郊、東の山林。
そこには数十人のレジスタンスと陸自迷彩を纏った男が訓練を行っていた。
ライフルの作動音が森の中に響く。
銃声は聞こえない。
仮にもここは市街地に近い。
万が一、一般人や巡回の兵士の耳に入りでもすれば面倒なことになる。
速成訓練だが、最低限の練度は獲得できるだろう。
既に最初の1週間で基礎戦術や指揮統制の座学は済ませた。
本当に最低限だ。
現在は分隊・小隊単位行動の錬成中だ。
「敵散兵撃……あ……?」
「どうした?さっさと前行くぞ」
「今駆動音がしなかったか?」
「駆動音?そんなの…………」
「っな!おい!あっちを見ろ!」
山林の駆動音が響く。
レジスタンスの彼らが良く耳にするガソリンエンジンの音ではない。
ガソリンエンジンのそれより鈍く、高い音。
素人が聞いても聞き分けられるその特徴的な音。
[接敵!歩兵及び輸送車3両以上!]
レジスタンスの誰かが無線に囁く。
全員が周囲を見回す。
[演習目標より3時の方向!散兵確認!]
[6時の方向装甲車!………正規軍、ルレラ軍確認!]
クソ、バレたか。
最大限の注意は払っていたが、それでもここまで大規模な訓練をやっていれば、バレるのも必然か。
まあいい。
いっそのこと実戦訓練だ。
[全隊に告ぐ、これは演習ではない。総員、実弾装填。最後の訓練は…………実戦だ。敵を撃ち殺せ。それが…………兵士の仕事だ]
全員が実弾を装填する。
まだ気づいている事にはバレていないはずだ。
敵は12時、3時、6時。
あいにく本部との通信装置は持ってきたバイクの上だ。
そのバイクは敵の包囲の外側にある。
だが、こうなった以上は市街地内の本拠にも強襲がかかっている可能性は高い。
なら本拠のある9時方向に対して撤退・本拠を強襲する部隊に対して逆襲撃を掛ける。
まだ完全に練成は終わっていないが………計画を前倒しするしかない。
[市街地方面に退く。分隊単位でBounding Over Wacth、装甲車は放置しろ]
さて、俺も仕事をしねえとな。
HK417を構え、装甲車の銃座に乗るガンナーを排除する。
この戦争中に後方のレジスタンス狩りに重機関銃付の装甲車部隊か。
随分と余裕があるらしい。
その余裕が現状の補給を維持するだけで精一杯の本国にもほしいものだ。
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26年 9/10 13:03:ヴ第二共和国:北部前線
北部戦線の森林地帯を陸自主体の陸上部隊が進行していた。
ほぼ未開の森林地帯を進むため、高機動車等スタックの可能性がある車両類は全て運用していない。
せいぜい偵察用オートバイくらいだ。
あまりにも急な出撃のせいで、準備も万全にできていない。
どうやら、ルレラ国内に潜入していた特殊部隊の救助活動……‥だそうだ。
救助活動にしては大所帯すぎる。
これではただの攻勢だ。
そもそもなぜ潜入していた?
………いや、変に考えるのはよそう。
これが終われば、とりあえずは家に帰れるんだからな。
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26年 9/11 12:00:首相官邸:記者会見室
「皆様に本日は重大なご報告がございます」
記者会見室を静寂が包む
この大騒ぎの中、何を重大とするのか。
2回目の戦争に突入しておおよそ1ヶ月。
最近では戦線の突破の報が絶えない。
そんな状況で重要と言われれば、講話や敵の降伏の知らせだろう。
「我々日本国は、約1ヶ月前からダルア帝国・ルレラ連合両国と交戦状態にありました。
既に前線はヴァクマー第二共和国から、ダルアとの国境にシフトしております。既に当面の脅威は去ったと言えるでしょう。
そして、もう一つの戦線がございます。ヴァクマーが接するもう一つの国家であるルレラとの戦線でございます。
今、この場にその戦線のキーパーソンとなる人物をお呼びしております。どうぞ」
そう言うと、会見台の横から一人の女性が歩いてくる。
日本人と言うにはいささか髪色が派手で、ただの人間というには耳の形状がおかしい。
おそらくこの列島の人間ではないことは確かだ。
となれば、外………大陸の人間か。
同盟国と大規模軍事作戦でもやるというのだろうか。
「はじめまして。私は、旧ルレラ連合ヴルラ自治共和国の首相夫人………だった者です」
会場が騒然とする。
当たり前だ。仮にも敵国の自治国家の首相夫人が、この記者会見場、しかも首相官邸に乗り込んできているのだから。
「元首相は優秀な人間でした。ルレラ連合という国家の枠組みでありながら、ヴァクマーや協定加盟国といった国々と都市間の交流において友好関係を築いていました。
それが、本国の反感を買ったのでしょう。11月30日。ヴルラ自治共和国首相官邸は襲撃されました。
正規兵部隊が官邸を包囲し、官邸にいた人間は全員その場で射殺されました。ただ、ただ友好的にしていただけでです。
理不尽からは、自らの手で逃れ、戦わねばなりません。
でなければ、彼らは私達を力で服従させ続けるでしょう。
私、ソフィア・エレミエフはヴルラ連邦自治共和国のルレラ連合からの離脱及び独立を宣言したします」
会場を主に新聞社や週刊誌のカメラフラッシュで満たされる。
彼女が眉をひそめる。
どうやら彼女…………いや、首相はカメラに慣れていないらしい。
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26年 9/11 11:34:ルレラ連合:ノブォシビルスク
襲撃されてから概ね24時間。
本拠地、そしてリスクヘッジのための分散拠点のうち本拠地に近かったものの殆どに被害は受けていなかった。
警戒で街中を歩いていたレジスタンスが本部に本拠に駆け込んで報告、襲撃の直前に体制を整えることができた。
分散拠点も近いところには部隊を配置できたため、襲撃部隊に対して市街地のブロックを利用した領域的防御を展開できた。
分けられた領域内での全指揮権限を現場指揮官に移譲、セクター間の移動を伴う指示のみを本拠地にある指揮所で行っている。
あくまで戦闘するのはレジスタンスだ。
彼らはこの街を知り尽くしているに近い。
彼らの知識をフルで活用するならば、「一定の範囲内に限定した、統制されたゲリラ戦術が適切である。」というのが、キングの指揮方針だ。
事前に装備を配備できたため、機甲部隊に対しても有効的な手段で対抗出来ている。
既に陸自本隊も越境、こちらに向かって来ているのは確認済みだ。
襲撃の部隊はさっさとうちを潰してそっちに兵力を回そうと躍起になっているところだろう。
だがこっちは市街地を知り尽くしたレジスタンス、正規兵レベルの武装とレベルは低くとも簡潔に作られた指揮系統と連携。
彼らにこれを簡単に突破できるほどゲリラ戦に対する練度はな無いだろう。
そもそも"ゲリラ戦術"が行われ始めたのは1930年代だ。
そんな体系化された戦術に対する有効的な戦術を、彼らは持っていないだろう。
「A1の部隊より通信、敵部隊多数につき撤退許可求むとの事」
「B2までの撤退を許可する。A2とB1のも下げて合流させろ。持久が不可能だと判断したらC2まで下がるように伝えろ」
「了解。[A1・A2・B1、こちらCP。セクターA1よりB2まで撤退。合流し該当地区にて時給戦闘を実行せよ。なお……………]
この防衛戦で一番防御が難しいのは西だ。
概ね正方形に分けられたセクターのうち、本拠地のあるC3の上、その2つ東、南の2ヶ所は事実上通行不可能だ。
ほぼスラム街のような入り組み方をしており、まともに抜けようと思えば事前に配備した少数部隊が襲撃を行う。
この少数部隊は陸自隊員に率いられたレジスタンスの中でも優秀な兵士たちだ。
これを最も守りやすく、持久も容易い箇所へと配備している。
同じ箇所に武器の集積場所や家屋を組み合わせた陣地も構築している。
これを機甲戦力無しで突破することは無理だろう。
主に東側に集中しているため、4部隊配置しているが最悪東側は2部隊あれば防御可能だ。
それに対して西は3部隊。
おまけに見なければならない正面数も多い。
「通信、E2の状況を確認しろ」
通信手が手早くE2の部隊を呼び出す。
「そのまま復唱します。[我損害なしなれど敵車両部隊多数、AT在庫数不安あり]とのこと」
「A3に設置した武器庫から搬送しろ。E2には可能な限り節約しろと伝えてくれ」
ATは本土やヴァクマーからの補給品だ。
何日かかけて本数を貯めてきたが、それでも数は少ない。
ルレラも自国戦車を吹き飛ばせる程度の対戦車兵器は開発配備していたため、略奪してはいるがそれでも数は少ない。
「次だ。北西2部隊及び南西2部隊も確認しておけ。もし物資が必要ならお前の権限で搬送して良い」
さて………こっからが問題だ。
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26年 9/11 12:12:ルレラ連合:セクターE2
「どうだ?」
「とりあえずは下がったようです。ただATの半数を消費しました…………確実に撃ちすぎましたね。半分歩兵にぶち込んでましたし」
「まあいい。こんだけ撃ち込めば敵も慎重にならざるを得んだろ。勢いが殺せれば持続火力ですり潰せる」
部隊には独立して動く関係上、火力はかなり多く配備されている。
特に中核火力となる軽機関銃と手榴弾は多数配備されている。
歩兵をなぎ倒して軽装甲部隊を潰すには十分だ。
「お?増援部隊のお出ましらしいぞ」
「えーっと………車両5、歩兵複数」
「うし、軽機据え付けろ。ついでにお出迎えの手榴弾を投げつけてやれ」
大通りの正面から指示を飛ばす。
ハンドサインで簡単な指示は送り合えるが、やはり確実なのは無線だ。
大通りの側面の家屋から手榴弾が飛ぶ。
「効果判定、車両2両擱座。なお武装及び内部人員は無力化ならず。敵散兵複数無力化」
「歓迎には十分だな。軽機で掃射しろ」
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26年 9/11 12:12:ルレラ連合:セクターB2
「2個奥の家屋に敵散兵浸透中、現在友軍2名は交戦中!」
「直ぐに逃がせ!無駄に消耗すんな!ただでさえ敵が多いんだ!」
セクターB2にはあまりにも多い敵兵が殺到していた。
大通りにそのまま戦車を乗り付けて突っ込んでいる。
家屋を吹飛ばして簡易的なバリケードを構築したが、戦車にはあまりにも無力すぎた。
唯一好都合なことは、周辺は軒並み買い上げて補給のヘリで住民はヴァクマーに移送している。
高待遇を餌にご招待した。
おかげで家屋は吹き飛ばそうと戦場にしようとご自由にどうぞが交戦規定だ。
「とにかく敵を止めろ!3日だ!3日耐えれば本軍が突破してくれる!」




