20 聖女、認定される 1
とうとう明日が私が15歳となる成人の儀だ。併せて聖女かどうか鑑定される日でもある。
鑑定については、私のスキル「ジョブ偽装」があるので心配していない。問題は、いかにして私の計画を進めるかだけだ。
話しは遡るが、ここ2週間程、三大宗派の担当者と会談や会食を重ねている。みな最後の追い込みとばかりに激しいアピール合戦を繰り広げていた。ただ、正統派の代表のフローラは、自分が研究したことや興味のあることだけを質問してくるだけだったが。
そんなこともあり、私は疲れていた。
しかし今日はテティス派との会食だ。メンバーを確認するとポールさんとその奥様アンジェリカさんで、アンジェリカさんが自慢の料理を振舞ってくれるらしい。
ポールさんとは気心が知れているので、楽しみだ。
まずは、お父様とお母様と一緒に挨拶を交わす。アンジェリカさんもポールさんと同じ金髪青目でかなりの美人さんだった。因みに奥様も転生者だそうだ。
アンジェリカさんは言う。
「お米も味噌も醤油も本当に重宝してるわ。今日はそのお礼に明日の式典が上手くいくように縁起物の料理を用意したからね」
気さくに話しかけてきたアンジェリカさんが作ってくれたのは、グレートブルのステーキとグレートボアの肉を衣を着けて揚げた・・・そうトンカツだった。
サクサクの衣にジューシーな肉、それにこのソース!!
醤油を作った時点で満足してしまった私だったが、アンジェリカさんはそこから更に発展させ、トンカツソースもこの世界で再現してしまった。本当に天才だ。
トンカツソースの材料は砂糖、醤油、お酢に様々な野菜や果物、スパイスを加えて作る。何年も試行錯誤を繰り返せば、私でもいつかは作れるだろうが、この短期間で完成させるとは何者だろうか?
鑑定してみるとジョブは「主婦」で「料理上手」のスキルを持っていた。納得である。
周囲を見回すと、日本食好きのお父様、お母様、エリーナは一心不乱に食べており、ゴードンに至っては手掴みで食べている。
アンジェリカさんは言う。
「気に入ってもらえたかしら?これはトンカツっていう料理でね。私の故郷では縁起物として、大事な勝負事の前に食べたりするのよ。「敵に勝つ」ってね」
「本当に美味しいですね。それに縁起物の料理なんですね」
昭和の時代はそんな風習があったみたいだが、私の時代にはそんなことはなかったと思う。アンジェリカさんは昭和世代なのかもしれない。
★★★
成人の儀当日を迎えた。
アンジェリカさんの料理のお陰もあって、私は元気を取り戻した。私は領主館で成人の儀を終えた後、教会に移動する。ここで鑑定の儀を行うのだ。教会には三大宗派の関係者とテティス派のポールさん夫妻が来賓として出席している。
テティス派以外の少数派は「奇人変人、びっくり人間対集合!!」状態だったので、世俗主義のスカム派のデブルに頼んで、出席できないようにしていた。原理主義者も正統派もこれには賛成してくれた。基本的には聖母教会の公式の式典には、トラブル防止の観点から三大宗派以外の宗派は呼ばないそうだ。
セレモニーが終わり、私の前に水晶玉のような鑑定の魔道具が運ばれてくる。ここに手をかざすと、ジョブが浮き出てくるのだ。分かるのはジョブのみなので、有難かった。「ジョブ偽装」のスキルを使えば上手くいく。私を一番悩ませたのは、どんなジョブにするかだった。
当然、ジョブは「聖女」なのだが、もっとインパクトのある「聖女」が良いのではと思ったからだ。何日もしっくりくる「聖女」を探すため、色々と案を出した。「完全無欠の聖女」「勇者みたいな聖女」「笑顔が素敵な聖女」「ちょっとエッチな性女」・・・・。
紙に書き出して検討していたのだが、恥ずかしくなった。これでは、まるで馬鹿女神の娘のようではないか・・・・。厨二病の初期症状かもしれない。
そんなことを思いながら魔道具に手をかざす。ゆっくりと慎重に。「ちょっとエッチな性女」とか表示されれば、もう生きていく自信がない。
そして手をかざしてしばらくして、文字が浮かび上がる。
「神に選ばれし聖女」
教会には領民達も招待していたので、一瞬の静寂の後、大歓声が上がる。領民達のウケが良くて安心した。ここですかさず幻影魔法で聖母ガイアを出現させて喋らせる。
「聖女カレンよ!!正式に聖女となったあなたに私から祝福を与えます。聖騎士ゴードン!!龍騎士エリーナ!!こちらに来なさい」
式典の進行役も、名前を呼ばれたゴードンとエリーナもびっくりしている。ゴードンとエリーナが壇上に上がってくる。
「ゴードンよ。水晶玉に触れてみなさい」
進行役は、戸惑っていたが私が「聖母ガイア様の思し召しですよ」と耳打ちするとこれに従った。ゴードンは恐る恐る水晶玉に手を触れる。
「聖女の楯たる聖騎士」
と表示される。
ゴードンのジョブは「重戦士」のままだが、「ジョブ偽装」で変更している。
これでゴードンも私の側に堂々と居れるからね。
「ゴードンよ。聖女を頼みましたよ」
「はっ!!この命を賭けて、聖女カレン様を守ります!!」
またしても大歓声が上がる。
続いて、エリーナが水晶玉に触れる。
「龍騎士」「テイマー」
が表示される。こちらは偽装する必要はない。こちらも大歓声が上がる。
「龍騎士にテイマー?ジョブが二つも!!」
「龍騎士なんて、伝説上のジョブじゃないのか?」
これには来賓達も驚愕している。
ゴードンもエリーナも誇らしげだ。それに絵になっている。この時の為にゲディラに特注の鎧を作らせた甲斐があった。
会場が落ち着いたところで、再び幻影を喋らせる。
「聖女よ。この者達の助けを借りて、正しい教えを広め、民を救うのです!!」
これで、完璧だ。
しかしまだ、私がやるべきこと?があった。馬鹿女神から話を聞く限り、彼女も苦労している。少しは彼女のためになることをしてあげようと思った。
まあ多少、転生させてもらったお礼をしても罰は当たらないだろう。
「最後に伝えます!!テティスは私の大切な娘です。間違いを犯すかもしれません。失敗もするかもしれません。でも私は知っています、あなたが一生懸命頑張っていることを。何があっても、私はあなたを世界で一番、愛し続けますよ!!」
神様の親子関係の改善が、果たして聖女の仕事だろうか?
でも、私は偽物ながら何年も聖女としてやってきた。どうやら困っている者を見過ごせない性格になっているようだ。
この言葉が直接、テティス様に届くかどうかは分からない。
ただ、ポールさんはテティス様に伝えてくれるだろう。
ポールさんを見ると嬉しそうに呟いていた。
「お嬢ちゃん、いいお袋さんじゃないか・・・。少しは素直になればいいのに」
私は安心して、聖母ガイアの幻影を消滅させた。
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