21 聖女、認定される 2
聖母ガイアの幻影を消滅させた私は、出席者に語り掛ける。
「今ここに私は聖母ガイア様より、使命をいただきました。聖母ガイア様のお言葉を受けて、私の考えや方針を少しお聞きください。まず私に聖騎士ゴードンと龍騎士エリーナを遣わせたことは意味があることだと思います。
特にエリーナは猫獣人です。つまり、聖母ガイア様は種族を超えた融和を説かれているのです」
前回馬鹿女神と面談したとき、獣人や魔族のことをどう思っているか聞いてみた。獣人排斥を説いたのではないかと。
馬鹿女神が言うには、その昔、魔族の一種族である吸血族が誰彼構わず、生死を問わず、生き血をすすりまくるという事件が起きた。吸血族には獣人の眷属がいて、猛威を振るっていたそうだ。そのことを注意するために馬鹿女神は降臨し、「魔族と獣人に気を付けろ」と言ったみたいだ。
そのお陰で件の吸血族は駆逐されたそうだ。これが世にいうレボック事件だ。
そして、この事件を利用し、後の悪徳領主が獣人から多くの税を巻き上げようして「魔族や獣人は劣った存在」と宣言したのがタガール宣言とのことだ。
馬鹿女神に獣人達を排斥する意図はなかったようだが、変な教えが広まってしまったのは事実だ。
「また、聖母ガイア様が娘である女神テティス様のことを話されたのも意味があると思っています。これは、他の宗教や信仰を尊重しなさいと暗に示しているのではないでしょうか?」
馬鹿女神は「他の宗教を一切認めない」と言ったわけではない。
これも怪しい宗教に騙されている民を救うため、降臨して「私を信じていれば間違いないから。変な宗教に騙されないで!!」と注意したらしい。
それが原因で、「他の宗教を一切認めない」という間違った教えが広まってしまったようだ。
ここまでくるともはや呪いのレベルだ。聖母ガイアは呪いの女神かもしれない。
このように馬鹿女神が降臨しての失敗が続いたせいで、夫婦喧嘩が発生したようだ。夫から「もう降臨はするな」と言われ、逆上した女神が「私が一生懸命やってるのに何も分かってない。滅亡しかかっている地球の神なんかに言われたくないわ」と言ったそうだ。
キレた夫は「それは前任者の責任だ。お前達のために俺だって頑張ってるんだ。分かってないのはお前の方だ!!」と言って、家にあまり帰らなくなったようだ。
因みにまだ喧嘩は続いているみたいだ。
当初は、私も馬鹿女神を降臨させて、直接話してもらうほうがいいと思っていたが、この話を聞き、こっちで何とかするほうが確実だと思って、幻影魔法で対処することにしたのだ。
「そしてこれからのことですが、私は新しい宗派を立ち上げようと思います」
会場にどよめきが起きる。
これには考えがある。どの宗派に入っても角が立つし、もめごとが起きる。それならば、新しく宗派を立ち上げたほうが上手くいくとの計算があったからだ。コウジュンを中心にシュミレーションしたところ、新しい宗派を立ち上げても十分賛同が得られるとの見通しが立ったからだ。
まず、世俗主義で現在の聖母教会を牛耳っているスカム派だが、一枚岩ではなく、現在の教会トップの教皇と使者としてやってきたデブル枢機卿が激しく権力争いをしている。デブル枢機卿の派閥は現在、少し劣勢のようだった。コウジュンがそれとなく、新派閥立ち上げの話をしたところ、ゴブル枢機卿はこう言ったらしい。
「それなりのポストを用意してくださるなら、「救世主である聖女カレンが100年後に誕生する」と記載された、100年前の教典が発見されるかもしれませんね」
気持ちがいい位のクズだ。でも逆に分かりやすく、扱いやすい。向こうの「それなり」とこちらの「それなり」との折り合いがつけば、それなりに上手くやれるだろう。
次に原理主義者だが、コウジュンの調査によると、こちらは放っておけばいいとのことだった。一部の狂信的な宗派を除いて、ほとんどが使者としてやってきた脳筋親父のウサール枢機卿のように「祈りと鍛錬に励み、自分たちの努力で高みに登る」ことを信条としている。
好きに祈りでも鍛錬でもやらせてあげれば、文句は出ないとのことだった。正式に私を支持してくれることが決まれば、聖母ガイアの幻影を出して、「祈りや鍛錬に励んでいて感心です。これからも頑張ってください」とでも言ってやれば大喜びだろう。
そしてバランス型の正統派だが、大きく分けて二つのタイプの人間が在籍している。ヤサク司祭のように真面目に教会運営をしている人間とフローラ枢機卿のような研究者タイプだ。前者は、私のメインの支持者となってくれるだろうし、研究者には研究に励むようにお触れを出し、定期的に研究を発表する場を設けてやれば、支持に回ってくれると考えている。
最後に元日本人の転生者ポールさんが運営するテティス派だが、意外にも商人や獣人達に人気がある。獣人達が多く信仰している多神教の神の一柱に加えやすいからだ。その辺の山の神や森の神と同列に聖母ガイアを扱えば失礼に当たるが、娘という設定ならそれくらいの扱いでもまあいいか、という考えからだという。
エリーナの故郷では私が聖母ガイアを「トイレ魔人」でもいいと子供達に言ったが、それよりも遥かに気が使える人達だと思う。商人も獣人も私に好意的なので、支持者としては十分だ。
ただ、テティス派は裏で過激派組織と繋がっているとの噂があるのが少し気掛かりだ。ポールさんに限ってそんなことはないと信じたい。
そして言葉を締めくくる。
「最後に、新派閥の名は、正統ガイア派とします。どこの派閥とも敵対することは望んでいません。みんなと協力し、正しい教えを広めることをここに誓います」
★★★
聖女誕生の報は瞬く間に世界を駆け巡ることになった。お祝いの手紙は大量に届くし、使者も大勢やってくる。根回しが上手くいき、聖母教会の有力者の過半数は私を支持してくれることになった。十分な成果と言っていい。
それと巷ではテティス派ブームが起きている。フローラ枢機卿をはじめとする研究者がこぞって、テティス派の発祥の地であるポールさんのいるジョーンズ伯爵領に押し掛けることとなる。こちらとしては、ポールさんが困っていないか心配だったが手紙を書いたところ、むしろ助かっているみたいだった。
手紙の返事にはこう書いてあった。
聖女カレン様へ
お陰様で、テティス様への信仰心が、かなり集まりました。近々テティス様に会いにいけると思います。これで聖母ガイア様の仰った言葉をテティス様に伝えることができます。テティス様の喜ぶ顔が見られると思うと、私も嬉しくなります。ただ、テティス様はなかなか素直になれないお年頃なので、しばらく、邪神設定は止めないと思います。
追伸
落ち着きましたら、是非ジョーンズ伯爵領までお越しください。
妻も新作料理作りに励んでおりますので、その辺りは楽しみにしておいてください。我が領までお越しになりましたら、私どもの本当の活動をお伝えします。
きっとご理解いただけるものと思っております。
少しでも馬鹿女神の親子関係が改善されることを心から願う。ただ「本当の活動」というのが少し気になる。
今回の鑑定の儀で私は自他ともに認める「聖女」となった。試しに自分のジョブを鑑定してみる。前回は「偽聖女」だったのだが、今回は「偽聖女」が表示されることはなかった。
「ビジネス聖女」
それが私の新しいジョブだ。結局偽物であることに変わりはない。
疲れた私は、ベットに入る。枕元の聖母ガイア像は足元から首の辺りまで、黄金色に輝いていた。
もうすぐ馬鹿女神に会いに行ける。少しは感謝してもらえるだろうか?
連日の疲れが溜まっていた私はすぐに眠りに落ちた。疲れてはいたが、ここまでやって来たことを考えると達成感があった。
しかし、このときは知らなかった。
今後、泥沼の宗教戦争に身を投じることになることを。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!
今回で第一章は完結となります。
しばらく投稿期間が空くと思いますがご了承ください。




