小話 王妃降臨秘話
食べ物の話はまだ出ません。
時は暫し巻き戻る
世界会議の議場を後にした国王と王太子は
目の前に差し迫った終末の凶兆
王家に代々言い伝えられてきた秘術を執り行う緊急の場面だ
それは、王族に生まれし者は誰でも学ばなければいけない《渡り人》のこと
百五十年前に この世に現れた 青い世界の渡り人 王妃アンリのこと
王と王太子を始め王家に名を連ねる全ての者 隠居した者も年若い者も 老人も子供も赤子までも
王宮の地下にある秘密の部屋に一同会し
その秘術の呪文を詠唱する
するとその足元に大きな魔方陣が出現した
「おお、言い伝えのそのままじゃ、では朕が代表して血を捧げよう」
現サルアール王が指先を王家の家紋の入った短剣で指先を切り 溢れ出た血を捧ぐ
すると、大きな光が魔方陣から沸き上がって
消えた!
「な、なに?消え去っただと?なぜだ!」
「おかしい、おかしいです。言い伝えでは王家とリーゼロッテ様の血を注ぐとあったのに!」
現王と王太子、それ以外の代々の王族の重鎮がザワザワと囁き出す
血が足りないのではないか、と王太子や前国王も前々国王も血を捧げたが
魔方陣から光が溢れ出て やはり 消えた!
その日は解散となり、原因追求をすることになった。
話合いは幾度となく繰り返され、言い伝えを見直すことになった。
暫くして、王家とリーゼロッテの血脈と二つの血が必要なのではないかと推測がなされ、
リーゼロッテの生家の公爵が加わり、秘術が再度執り行われた
すると、魔方陣の光の中に、前の時には出現しなかった白い扉が現れ、光が・・・
消えた!
「ええー!?なぜだ、なぜ光が消えるのだ!誰か扉を開けてみよ!」
現王が叫び、それに呼応して王太子が扉に手をかけた。
ビチッバチッ!!!!
電気が走り、王太子は扉から弾かれてしまった。
「ええー!?何かが足りない。なんじゃ?」
再度仕切り直しすることになり、言い伝えの再考の日々
以前と違うのはそこに公爵が加わったことだった。
初めて聞く渡り人と終末の予言に公爵は腰を抜かしたが、さすが賢妃リーゼロッテの生家の子孫
直ぐに気を取り直し、言い伝えと秘術について思考すること 数週間
「もしや、リーゼロッテ様の血ということが扉の鍵なのでは?」
と王に直言してきた。
「どう言うことじゃ?」
「はい、”王家とリーゼロッテ様の血を以て”と態々書いてあるのです。普通は王家には両方の血が流れているのに、態々別に書いてあるのです。」
「だから公爵、お主を呼んだのではないか!?」
何を分かりきったことをと王はイライラして答える。
「いえ、リーゼロッテ様の血であって、公爵家の血とは似て非なるものではあるまいか?」
「どういうことだ!?」
「はい。我が公爵家の相談役にして重鎮、現在百歳に成られる大叔父の血なのでは?」
「わからん、わかるように説明せい!」
「大叔父は、リーゼロッテ様の末弟の五十を過ぎた時の末子、リーゼロッテ様の直系の甥であります。同じ公爵家とはいえ、思えばあの家系はこの国では珍しい長寿にして多産。しかも、リーゼロッテ様から家訓として、公爵家として代々相談役につけて、大切に保護せよと、言いつけられているのです。」
「「それだ!」」
そして、再再度の秘術にそのリーゼロッテの甥の公爵家相談役も参加して、血を捧げると、
魔方陣の光の中から扉が出現し、自然と扉が開いていった。
そして、その中から、溢れ出る光と共に、年若い少女が歩いて出てきた。
「遅いよ、もうさすがヘンリーの子孫だな。リーゼロッテったら安全装置を厳重にかけすぎだよ。ヘンリーの子孫には解除が難しいってわからなかったのかな?」
その少女はプンプンと怒りながら、酷いことをサラッと言った。
そこに集まった王家に連なる者たち、みな残念な表情を浮かべながら、その少女に頭を垂れたのだった。
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「という、こちらの不手際が続いてしまって、ヨシコ様に怖い思いをさせてしまいました。」
日を改めて、転移魔法で『民宿 物見遊山』へやって来た王太子が言った。
「それで、会議の後からあんなに時間がかかったんですねぇ・・・」
良子の横で、一緒に話を聞いているアンナが答えた。
あの日以来、民宿の方はお休みしているが、アンナは常に良子に寄り添ってくれていた。
今日も王太子が来ると先触れとして小鳥が手紙を寄越したので、アンナにも知らせると直ぐにやってきて同席してくれたのだった。
「王妃アンリは、百五十年前の出来事を白い男神から渡された宝玉によって、空間に展開し、我々はまざまざと全ての事案を見せられました。もちろん青い女神の怒りも含めて。今だ、弱き者たちはその神の怒気に臥せっていますが。」
魔法の塔で聞いた話では、かつては気が触れた者もいたとか。王家に連なる者として、そこにいた人の中には子供もいたようなので、トラウマにならないだろうかとよそ事を考えてしまった。
「神の宝玉のビジョンを見せた後、王妃アンリ様は私たち王家に二つのことを告げました。
一つは、早急にこの出来事を世界中の人々に告げて教会の悪事を暴くこと。これには現在の教会の解体も含まれていました。これは教皇様に申し伝えてあり、今まさに教皇様はそれを行っているところです。」
「二つ目はなんだい?」
気が逸るのか、アンナが王太子に聞き先を即した。
全くの不敬であるが、あの屋敷を取り囲まれた日以来、アンナだけでなくハンジやトビーなどあの場に居た者はみな教会と王家に対して軽蔑し批判的な物言いを、口にするようになっていた。
そんな態度を目の当たりにしても、王太子は変わらぬ態度で
「二つ目は、あちらの世界に自分とヨシコ様を戻すこと。但し、ヨシコ様に関しては本人がこちらの世界に残りたいと思っているのなら、本人の考えを優先し王家として手厚く保護やサポートをすること、と言っておられました。ですので、まだ帰る日まで時間がございます。自身の行く末をしっかり考えて、教えて頂きたいのです。」
と伝えられた。
ー え?帰る以外の選択肢があるの?ー
「あのぉ、私は王妃アンリ様にお会いすることはできるのですか?」
「いいえ、秘術のその時が終わるとあんり様はまた宝玉を抱えて、空の狭間にお隠れになられました。」
「そうなんですね。」
「はい。ただ、もしヨシコ様が自分のことを口にされたら、伝えて欲しいと言われていることがあります。」
「え??」
「私は元の世界に戻って、必ずいつかあなたに会いに行くと。そう伝えてくれ、と。」
私はその言葉をどう受け止めたらいいかと動揺しながら、窓の外に見える海と空と雲を見つめた。
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