それって虐待なの
県からスマホに熱中症警戒アラートが届きました。災害級の危険な暑さです。
「ふうん。マーク卿を癒す、ねぇ。君はマーク卿が癒しを必要としているって考えているわけだ。何故?」
「マーク様が癒しを求めていらっしゃるからですわっ」
なんて頭の悪い返事なんだ。全くかみ合っていない女にイライラする。
この女を無視して立ち去りたいのは山々だが、そうもいかない。
「だから何故マーク卿が癒しを求める必要があるのかな。その原因は何?」
第二王子殿下が、ことさらゆっくりとお尋ねになった。
「そんなの、家を乗っ取られて虐待されているからに決まってますわっ」
このっ。何てこと言うんだっ。
思わず腰を浮かしかけたが、殿下がこちらを向かれた。左の手のひらを僕に向けて、無言で制してくる。
「なるほど。では、虐待の具体例を示してもらえるかな。それだけ言い切るからには、根拠が有るんだろう。マーク卿、訂正が有れば許可するよ。事実を明らかにしようじゃないか。そう、公明正大にね」
それはもう、にっこりと。これぞ王家の威圧ですってタイトルが付きそうな笑顔だった。
「幼いマーク様に、ボロを着せて庭に追い出しましたのよっ。泥だらけにして、頭から水をかぶせて。立派な虐待ですわっ」
女が吼えた。
へぇ。しっかり反論させてもらおうじゃないか。
「泥んこ遊びは幼い子供の特権だってのが、ニーナ義母さんの持論でね。それはもう盛大に、わざわざ庭の土を掘り返して遊び場にしてくれたよ。義妹や義弟の時も同じようにしてくれたし。泥遊び専用の服まで用意してくれて、気兼ねなく遊ばせてもらったのは良い思い出だよ。屋敷に入る前に服を脱いで、髪に付いた泥を井戸水で流したんだ。鍛錬の後の騎士様ごっこは楽しかった。夏の暑い時期だったから冷たい水が気持ち良くてね。で、どこが虐待だって」
食堂がシンとした。ややあって、ボソボソと声が聞こえてくる。
「それって、虐待じゃないよな」
「そこまで全力で遊ぶって、なんか羨ましい気がする」
「あー、家の弟も泥んこ遊びが好きでさ、ちょっと目を離すと服を汚すんで、乳母が目を離せないって嘆いていた」
「マーク卿、すごい勢いで話してたな。もっと物静かなイメージだったけど」
「それよりさ、なんであの特待生、マーク卿の子供のころの話、知ってるんだ」
ざわめきを遮るように、女が大声を出した。
「それだけじゃありませんわ。農作業でこき使ったんですのよ。農夫扱いして」
「ニーナ義母さんの御実家は、農村でね。義妹と義弟だけじゃなくて、僕も一緒に里帰りに連れて行ってくれたんだ。義祖父と義祖母も大歓迎してくれて、本当の孫扱いしてくれた。君、本物のもぎたてトマト、食べたこと有るかい。炎天下で完熟した真っ赤なトマトって、熱々なんだ。冷やしたのも勿論おいしいけど、あの味は畑で自分の手で収穫した時だけの特権だね。秋には芋ほりしてね。自分で集めた落ち葉で焚火して、村の子たちと焼き芋パーティーするんだ。放牧も盛んだから、チーズやソーセージが特産品で、よくお手伝いしたよ。ほとんど邪魔してただけなのに、村の人たちは笑って許してくれた。で、他にまだあるのか」
さあ言ってみろ、全部論破してやる。
マーク君、反論は十倍返しです(笑)
保育園、夏になると泥んこパンツと言う名の下着が必須でした。パンツ一丁で水遊び。娘は大好評でした。
もぎたて熱々トマト、食べた事のある方、どれくらいいますかね。
幼い娘たちが味を覚えてスーパーのトマトを食べてくれず、毎年家庭菜園する羽目になったのは懐かしい思い出です。
当時のスーパーは流通の都合上、完熟トマトを扱ってなかったんですよ。まだ青みが残っている内に収穫して、流通の間に赤くなるという。子供の舌は正直でした。
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