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DARKNESS GLITTER  作者: 伝記 かんな
11/15

『小百合』

彼女が紡いだ名前は『小百合』。

ゆりの中に眠る秘めた『力』が覚醒した瞬間である。

見通した未来に、道を切り開く鍵となるのは・・・



                 11


その声。

体格。

雰囲気。

全てが合致する。


ゆりは、目の前にいるその人物から目が離せなかった。


― ・・・そうだ、間違いない。

 この人は・・・


確信した瞬間、頭の中に過る断片の光景。

それは全身を駆け巡るように、衝撃波となってゆりを襲った。

その光景の数々は、

今まで発動していた『力』のものとは比にならない程、リアルだった。


― ・・・・・・!!


身体が小刻みに震える。

その衝撃波に耐えるように、まぶたを固く閉じた。

ゆりの様子がおかしい事に気づき、俊太郎は窺うように見つめる。


「・・・どうした?大丈夫か?」


その問いかけに、ゆりは反応しなかった。

いや、出来なかったのだ。

淑女―『劉 玉玲』は、そんなゆりの様子を冷静に見守っていた。

その孫娘の姿を、迎え入れるように。



その広い部屋は、異様な空間だった。

窓がないので、時間の経過も知る事が出来ない。

その中にある重厚なコの字の牛革ソファーに、腰を下ろす男女4人。

部屋全体が黒に染まっている中、

鷹の装飾が施されたヴェネツィアンマスクを装着する男性が

身に纏う白いスーツは、とてもよく映えていた。

まぶたを閉じて俯くゆりに目を向け、その落ち着いた声を響かせた。


「君の経緯は『玉玲』から聞いたよ。

 そして『道頓堀』と『結女衣』との事情も。

 ・・・君は『早苗』と名乗り、その者たちと対峙したそうだね。

 本来ならそれは規則違反だ。

 『Migratory Bards』に登録せず、行動するのは禁止事項。

 ・・・表立っての世界ではないが、

 無法地帯だからこそ規律を重くしなければならない。

 だが、請負人を介して金銭の取引をしていない事を確認した。

 請負人の鍋島にも非がある。

 これまでの行動は大目に見よう。」


『力』の渦から抜け出せないゆりだったが、

息を整えて無理矢理平静さを装う。

俯かせていた頭を、さらに深く下げた。


「・・・申し訳ありませんでした。

 勝手に名乗って行動した事、深くお詫び致します。」


男性―『管理人』は口元を緩ませ、穏やかに言葉を紡ぐ。


「『この世界』に、法律はない。だが、規律を設けないと成り立たない。

 そこは了承してもらいたい。」


「・・・はい。」


「今後『Lotus』を調べていくにあたって、

 『Migratory Bards』に登録するのを推奨する。

 その方が君も動きやすいだろう。」


その申し出に、ゆりは下げていた頭をゆっくり上げた。


「それに情報交換もしやすい。 私のサポートも行き届く。

 ・・・私は先代の『管理人』の遺志を受け継ぐ者。

 『管理人』に就いてまだ10年、

 先代には到底及ばないが・・・全力を尽くすつもりだ。

 『劉 玉玲』を支援するのは、先代の遺志である。

 ・・・そういえば最近、

 『結女衣』と『道頓堀』が接触して密談しているのを確認している。

 これを見過ごすわけにはいかない。私はこの二人の動向を警戒する。

 ・・・それを踏まえての提案だが、異論はあるか?」


ようやくゆりは『力』の渦を抜け出し、大きく息をつく。

激しい鼓動の乱れを治すように、深呼吸をして間を置いた。

そして、ゆりは真っ直ぐに『管理人』を見据えて答える。


「・・・ありません。その心構えでここに訪れました。」


「・・・了解した。」


『管理人』は、すっ、と立ち上がる。

『劉 玉玲』と俊太郎、双方の顔を窺いながら告げた。


「君たちには立会人になってもらう。彼女が我々の同士になる証人だ。」


『劉 玉玲』は同意するように頷く。

俊太郎は『管理人』をちらっと見ただけで、すぐにゆりに目を向ける。

白いフルブローグの靴音を響かせ、

『管理人』はゆりの元へゆっくり歩いていく。

ゆりの前に立つと、静かに見下ろした。

彼の動作一つ一つが、見惚れる程洗練されて優雅だった。

木漏れ日を見るように、ゆりは顔を上げた。


「契約を執り行う。」


その一声は、厳かに響く。

『管理人』の大きな右手がゆりの頭の上に伸びる。

その手の行方を、彼女は抗うことなく受け入れた。

ふわりと、その温かい手が彼女の頭の上に置かれる。

それと同時に包まれるような優しい風を感じた。


≪・・・汝の『名前』を声に刻め。≫


『管理人』の声が、エコーするように部屋の中で響き渡る。

聞き入れた瞬間、ゆりその声に従わなくてはという衝動に駆られた。


「・・・さ・・・・・・」


“早苗”と答えるのを躊躇い、言葉を飲んで一時考える。


― 『早苗』は、『私』じゃない。

  『私』じゃなきゃいけない。


ふと思い浮かんだ名前。

それが、自然に口からこぼれる。


「・・・『小百合さゆり』。」


儀式のような質問は、まだ続く。


≪・・・汝は『何者』か。≫


― これは、決めている。

  私はこれを目指してきた。


「・・・『易者』。」


≪『易者』の『小百合』。汝の力を誇示せよ。≫


― ・・・誇示・・・


ゆりは、先程自分に駆け巡った断片の光景を思い浮かべた。

それは自分が第三者としての視点から、

その光景を見ているという不思議な感覚。

あまりにもリアルで、吐き気を覚えた。


― ・・・今まで発動していた『力』とは、かけ離れている。

 まるで、映画のワンシーンのような・・・リアルな映像。

 ・・・それは恐ろしい光景だった。


「・・・9月11日。

 この日、この施設で恐ろしい事が起きます。

 私は貴方と顔を合わせた瞬間、

 『力』が今までにないくらい強く発動しました。」


≪・・・それは如何なる事か。≫


「『彼女』は私に、ここの名前を書いた紙切れを残した。

 ただ日付と名前だけ。時間も書かれていない。

 これを意味するものが、『力』の発動によって知る事が出来ました。」


御告げのようなゆりの言葉に、俊太郎は目を見開く。

『劉 玉玲』は表情を変えず、ただゆりの言葉に耳を傾けていた。


「『彼』と共謀し、『彼』の力を使って

 『彼女』はこの『Migratory Bards』の施設内を隔離するつもりです。」


『管理人』は、ゆりが告げたその内容を静かに受け止める。


≪・・・して、その真意は。≫


「・・・分かりません。

 はっきりと見えているのは・・・ここを隔離し、

 『彼女』と『彼』が貴方の命を脅かそうとしているのを・・・

 私の『力』が示しています。」


≪・・・・・・≫


部屋に重くのし掛かる静寂。

誰もが、その静寂に口を挟むことはなかった。

しばらくその時間が過ぎた後、

『管理人』はゆりの頭に置いていた手をゆっくり放す。

そして、静寂が支配していた空間を解放するように声を響かせた。


「・・・契約は無事に果たされた。

 『易者』の『小百合』。君の『力』は未知数で素晴らしい。

 登録してくれた事を、深く感謝する。

 これからもその美しい『力』を発揮してほしい。」


ゆりは深々と頭を下げる。


「この事象を避ける事はいくらでも出来ます。

 ・・・でも、この事象を“引き起こさなければ”、

 未来に繋がらない。『彼女』の“真意”が埋もれる。

 『Lotus』に繋がる強力な手掛かりを、手放してしまいます。」


ゆりは頭を上げ、強い光を灯した瞳を『管理人』に向ける。


「いかに犠牲を払わず、『彼女』に勘づかれることなく、

 この事象を“引き起こす”か。

 ・・・矛盾に思われるかもしれませんが、

 それが必要になります。

 ・・・どうか出来る限り、お力沿いをよろしくお願いします。」


その宣言によって明かされた、絶望の淵。

終焉のカウントダウンは、音を立てずに始まっていた。

その事実を知った今、この部屋にいる者たちは沈黙し、

それぞれの想いを交差させていた。



深夜。

首都高速を走る、流星の姿。

その姿の正体は某有名メーカーの大型バイクである。

排気量は1000㏄。

赤を主体にネイビーブルーとホワイトが彩るカウル。

足を後ろに跳ね上げたようなマフラー。

軽快かつ地面を吸い付くように駆動するその姿は、

操る者を魅了してやまない。

セパレートハンドルを握る右手がスロットルを開けると、

それは唸り声を上げる。

環状線を抜け、しばらく加速した後

その一台は首都高速を出て一般道路を走っていく。

クールダウンするように、

一定の速度を保ちながら向かった先は某大学病院である。

その施設内にある駐輪場は、人がいる気配はなくひっそりとしていた。

一箇所しかない電灯が、その一帯を一生懸命照らしている。

そこにエンジンを切って停めると、

操縦していた人物がヘルメットを脱ぐ。

頭を一振りし、ヘルメットを右のミラーに被せるように置いた。

革のライダージャケットは色褪せ、グローブも所々擦り切れている。

その人物はグローブを外し、

暑そうにライダージャケットを脱いでそれをシートに乗せた。

ふう、と息をついて

ジャケットの胸ポケットからスマホを取り出す。

慣れたように画面を操作し、

連絡先の検索をヒットさせると通話を押した。

5回程コールした後、その相手は応答する。


《・・・おう。どうした?》


「よぉ、兄弟。何してたんや?」


《・・・女を抱いてた。》


耳に入ってきた言葉に、バイク主は眉をひそめる。


「ほぉ。・・・俺と違うて、何でお前はモテるんやろうなぁ。

 イケメンちゃうのに。」


《お前に女を扱うスキルはあるのか?》


「なんやそれ。失礼なやっちゃな。俺だってごっつぅあるわ。」


《・・・で?用は何だ?》


「取り込み中悪いけどな、大事な話がしたいんや。」


《分かった。5分待ってくれ。》


通話が切れる。

バイクの主―『道頓堀』は深いため息をついた。


「・・・どいつもこいつも、平和やのぉ。」


そう呟いた後、頭の片隅にいる

とある女性を思い浮かべる。


「・・・メイドさんみたいな、ええ女に好かれてみたいわぁ・・・

 ちょっと化粧濃かったけど・・・

 ん?メイク取ったら逆に可愛いんちゃうか?

 ごっつぅ強くて華麗で・・・ほんまにかっこええ女やった。

 また会わへんかなぁ・・・

 俺、ほんまに惚れとるんかなぁ・・・

 メイドさんの事よく考えてしもうとるし。

 ・・・メイドさんに説教されたい・・・

 ・・・あかん。それはどうなんや?変態やないか。」


深夜の、誰もいない駐輪場でぶつぶつ独り言を言う姿は、

傍から見たら非常に恐ろしい。


「・・・『あの女』もええ女やけど・・・

 抱いてしもうたら最後やな。魂抜かれる。あいつは死神や。

 ・・・女、怖ぇわぁ・・・

 ・・・あかん。悲しくなってきた。

 はよ電話して来い、アホンダラ。」


言った直後、スマホの着信音が鳴る。

すぐさま電話に出て、『道頓堀』は声を張る。


「遅いわ。こっちは大事な話があるんやってのに。」


《モテて悪いな。》


「余計や。」


《大事な話って何だ?》


単刀直入に聞かれて、『道頓堀』は声のトーンを落とす。


「・・・今まで世話になったな。おおきに。」


《・・・は?》


「堪忍や。請負人を替える。」


《何言っている?》


「スカウトされたんや。おっきな所にな。

 金も、何もせんでも一定額貰えるし雇われてみようと思うてるんや。

 俺も一流の仲間入りっちゅーやつやな。」


《本気か?完全に身を置くつもりか?》


「仕方あらへん。俺は見込まれてしもうた。

 それこそ女の頼みなんや。断られへん。」


《・・・弟はどうするんだ?》


「その事もある。雇い先は、弟の費用も出してくれるらしいんや。」


《・・・・・・》


「お前にはほんまに感謝しとる。

 今俺がここにおるのは、お前のお陰と言ってもええ。」


《・・・何だ、その言い草は。急に改まって何だ?》


「・・・もし、俺の身に何かあったら、弟を頼むで。」


《おい。本当にその雇い先大丈夫なのか?》


「大丈夫か大丈夫やないか言うたら、大丈夫やあらへんな。」


《今からでも遅くはない。行くのやめろ。》


「そうもいかへんのや。これは行くしかないんや。」


《・・・・・・》


「お前への電話も、これで最後にしようと思うてる。」


《・・・迷惑をかけないようにか?馬鹿にしてるのか!?

 どこまでもお前はふざけた奴だな!》


「生易しいもんやない。これはな、

 想像以上にヤバい奴等に見込まれてしもうたんや。

 お前に死んでほしくない。」


《雇い先を教えろ。》


「血迷うたか?規則違反や。」


《ルールもクソもあるか!!》


「あはっ。お前も感情的になる事あるんやな。」


《行かせん。》


「それは無理や。」


《本当にもう一度よく考えろ。お前は今まで何の為に身を置いた?

 弟の為だろ?

 弟が病気を治して、いざお前の姿が見当たらなかったらどう思う?

 たった一人の肉親だろうが。》


「絶望なんや。何もかも。俺は行かなあかん。」


《・・・悠生はるき。》


「その名前は、これからもお前に預けておく。

 いつきを頼む。」


《・・・・・・》


「何や~?俺と別れるのがそんなに寂しいんか~?」


《・・・必ず戻ってこい。》


「・・・そうやな。考えとくわ。」


通話はそこで途切れた。

スマホをジーンズの後ろポケットに入れ、『道頓堀』は歩き出す。


見上げる先には、暗闇に浮かぶ真円の月。

その輝きは命の灯火のように強い光を放ち、彼を照らしていた。


                 *


翌朝。10時前。

『あかい堂』にいる従業員たちは、開店の準備をしていた。

バックヤードにいたゆりは、

小さなデスクに向かって座っている。

今日店頭に並べる書籍をノートパソコンのデータ上で調べ、

管理作業を行っていた。

従業員出入り口から、店長の蔵野恵吾が姿を現す。


「おはよう、佐川さん。」


彼の出現に、すぐさま反応して

ゆりは背筋を伸ばすように立ち上がる。


「おはようございます、店長。」


深々と頭を下げるゆりを、蔵野は目を丸くしながら見る。


「ははっ・・・どうしたんだ?立ち上がらなくていいよ。」


ゆりは口ごもりながらデスクチェアに腰を下ろす。

挙動不審な様子を感じ取った蔵野は、首を傾げながら笑う。


「どうぞ、僕に構わず仕事を続けてくれ。」


「はい。」


ゆりは即答してノートパソコンに向き直る。

蔵野は微笑みながら颯爽とロッカールームに歩いていく。

姿が見えなくなると、ゆりは動悸を抑えるように息を整えた。


― ・・・いつも通り。いつも通りやけんね。

  普通にしてればいいんよ。


心で葛藤している間に、

蔵野は手に何かを持ってゆりの元に現れる。


「これ、良かったら聴いてくれ。僕の一推しのピアニストなんだ。

 彼女の繊細で豊かな音の世界は、疲れを癒してくれる。

 あまり表立って活動していないが、

 一度その音に心を掴まれたらファンになってしまうよ。

 このCDは永久保存版だ。」


蔵野が差し出したのは、

海中から見た水面が写っているジャケットの音楽CDだった。

ゆりはそれを素直に、丁寧に受け取る。


「ありがとうございます・・・」


「最近疲れているみたいだし、心のリラックスになればいいかな。」


そう言って蔵野は微笑む。

ゆりはそんな青年を、じっと見つめる。

その視線の強さに、見つめられている本人は照れるように首を傾げた。


「・・・佐川さん、今日は変だな。

 そんなに見つめられると、どうしていいか分からない。」


自分のしている事を指摘されて、

ゆりは恥ずかしくなり慌てて視線を外す。


「・・・ごめんなさい!何でもないです!

 これ、早速聴いて癒されます!」


すぐさま立ち上がり、数回お辞儀をして

逃げるようにゆりはロッカールームに行く。

すると、パートの河内美津子がにやにやしながら立っていた。

誰もいないと思っていたので、それにひどく驚く。


「わっ!・・・か、河内さん、いたんですか?」


「うふふふ~。いたのよこれが。ごめんねぇ。

 いい雰囲気だったから出ていけなかったのよ~。」


「え?」


「朝からキュンキュンしちゃった!ありがとっ。」


ぽんぽん、とゆりの肩を叩いて、美津子は笑顔のまま去っていった。

彼女が発した言葉に、ゆりは大きなため息をついた。


― ・・・勘違いされた。完全に。

  そんなんじゃないのに・・・



その日の夜、10時頃。


ゆりは蔵野から借りたCDを聴こうと、実家から持ってきていたCDプレーヤーを

自分の部屋にある押し入れの中から引っ張り出す。

音楽を聴く時は、CDの音源からの方が好みだった。

欲を言えばアナログの音源が一番良い。

しかしアナログの音源を聴くとなると、

専用の機器が必要になるので贅沢は言えない。

スマホにダウンロードし、手軽に楽しめる。

動画サイトからも勿論だ。

音楽がいつどこででも触れられる、良い時代である。

風呂を済ませ、寝間着に着替えて、

いつでも就寝できるように整えて向き合う。

愛用の机の上にプレーヤーを置き、眼鏡を外してヘッドホンを装着する。

そして借りたCDをケースから取り出し、プレーヤーにセットすると

電源をオンにし、再生ボタンを押す。

ゆりはプレーヤーのすぐ傍で腕を組み、そこに顔をうつ伏せた。

最初、それは静寂の中から音が生まれる。

次第に、零れて溢れ出す宝石のような音の粒。

全ての感覚を耳に集中させ、その素晴らしい音色に聴き入る。

目を閉じて、呼吸とともにその風と漂う。


部屋の出入り口の障子を軽くノックする音。

その音は、ヘッドホンが遮ってゆりの耳には届かなかった。


「・・・ゆり。寝てるのか?」


今度は呼び掛ける声音。

その声も届かない。


「・・・・・・」


普通ならここで俊太郎は引き下がった。

ゆりが寝ているかもしれない、そう思いその場を去っていた。

だが、なぜか今日は気になった。

部屋でゆりが何をしているのか。


「・・・入るぞ。」


一言、断りを入れる。

俊太郎はゆっくり部屋の障子を開けた。

目に入ってきた光景は、

ゆりが机に向かってうつ伏せになっている後ろ姿。

耳につけているヘッドホンから繋がるCDプレーヤー。

俊太郎は、ゆりからの返答がない理由を理解する。

そっと障子を閉め、ゆりの後ろに忍び寄る。

ゆりがつけているヘッドホンから微かに漏れる音の粒。

その音を拾う為俊太郎は身体を倒し、耳を澄ます。

そのピアノの旋律。

繊細な音の宝石。

それを拾い上げていくにつれて、俊太郎は怪訝な顔をする。

ゆりは、後ろからの気配にまぶたを上げた。


「・・・っ!?俊?!」


耳元に、俊太郎の顔があるのに気づいて、飛び起きる。

その拍子にゆりの後頭部が俊太郎の顔にぶつかった。


「いってぇ!」


「あっ!ごめん!大丈夫?!」


片手で鼻を覆い悶える俊太郎を見て、

ゆりは慌ててイヤホンを外し、プレーヤーを止める。


「まさかいるとは思わなかったから・・・」


心配そうに声を掛けるゆりに、

痛がりながらも俊太郎は涙目を向ける。


「・・・俺が悪い。勝手に部屋に入ったし。」


「・・・どうしたと?何か用があったと?」


「・・・用がなければ来ちゃ駄目か?」


なぜか不機嫌そうな俊太郎に、ゆりは首を傾げる。


「・・・いや、それは別に・・・」


「そのCD、ゆりのか?」


そう尋ねられ、ゆりは一瞬戸惑う。


「・・・えっと、これは・・・」


刺すような視線を感じる。


― ・・・変に隠したら、逆におかしいよね。


ゆりは腹を据えて、素直に答えた。


「・・・蔵野さんが貸してくれたんよ。私が疲れてるみたいだからって。」


俊太郎はこの上なく目を見開く。

まるで、その名前が出てきた事に驚いた様子だった。

その反応が、ゆりには意外だった。


「・・・蔵野って男が、これを?」


「・・・うん・・・」


「・・・・・・」


俊太郎は考え込んでいる。

この状態になった姿を、ゆりは何度も目にしている。


「・・・え?何か引っ掛かる事でもあるの?」


「・・・ゆり。今度その蔵野って男に、会いに行ってもいいか?」


その質問に、ゆりはどう答えていいか迷った。


「え?何で?」


「ほら、だって今まで何度も本屋に行っているのに、会ったことないだろ?

 ゆりを好きな者同士だし、会ってみたいなって思って。」


「べ、別に会わなくてもいいやん。変やない?その考え。」


「ああ、そうか。別にゆりの許可を取らなくてもいいよな。

 俺の自由だし。今度こっそり会いに行く。」


ゆりは慌てて俊太郎に言葉を投げる。


「でもどうして急に?・・・このCDの曲に何かあると?

 この創作曲を知っているとか?」


俊太郎は、見透かすような視線をゆりに送る。


「・・・ああ。大いに。」


「・・・そ、そう。」


それ以上、答える気がない様子で悪魔の微笑みを浮かべる。

そんな時の俊太郎を、ゆりは動じずに対処する事ができない。


「そうだ。ゆりも『あちら側』の住人になったんだし、

 今度『Migratory Bards』のゲストルームに行ってみないか?」


「ゲストルームって・・・この前説明してくれた部屋よね?」


「ああ。」


その申し出に、ゆりは心を落ち着かせようと一時考える。


― ・・・こういう時の俊は、何か企んでいる。


ゆりは、じっと俊太郎を見据えて答えた。


「・・・いいよ。」


「よし。じゃあ今からな。」


「ええ??!」


俊太郎は笑みを浮かべたまま歩み寄る。

ゆりは思わず身を後ろに引く。


「い、今からって・・・冗談やろ?」


「ちょっと行って、帰ればいい。」


「ま、待って。分かったから。行くから。・・・着替えないと。」


「どうぞ。」


「・・・もう!どうぞ、じゃないやろ?一回部屋を出て行って!」


「えー?」


「えーっ、じゃない!」


ゆりは障子を開け、

無理矢理俊太郎を部屋から追い出す。


「恥ずかしがる事ないのにー。」


― この男は!


心の中で叫び、ゆりは顔を赤らめながら

問答無用で障子を勢いよく閉める。

激しく荒れ狂う動悸の波を抑えるように、深呼吸をして心を静める。


― ・・・でも。

 その場所に行くのはいい考えかもしれない。

 少しでも触れれば何か浮かぶかも。

 ・・・これから起こる事を、どう対処したらいいのかを。


                 *


「何だ、また来たのかお前ら。」


『烏』が、ゆりと俊太郎を見て悪態をつく。

今日の彼女は、

血まみれの手首がプリントされたグレーの大きなパーカーを着ている。

アシンメトリーな白と黒のヴェネツィアンマスクは、昨日と変わらない。

俊太郎は微笑みながら言う。


「ちょっと来ただけだ。すぐ帰るよ。」


「つまらん。儂と遊んでけ。」


「今度な。」


「・・・お前の今度は当てにならん。」


昨日見た同じようなやり取りを、ゆりは幾分和やかに見守っている。

『烏』はそんなゆりに目を向け、にぱ、と笑った。

その口から覗く歯は、かなり少ない。


「ようこそ、新入り。『易者』の『小百合』。

 儂は『烏』。よろしくな。」


「はい。よろしくお願いします。」


ぺこりと頭を下げるゆりに、『烏』は満足げに頷く。


「礼儀正しい事は良い事だ。どこぞの誰かとは大違いだな!」


「・・・ん?それ、俺の事か?」


「そうだ。目上の者に礼節を重んじる気持ちが、

 これっぽっちもない。

 無礼極まりないお前の事だ。」


「誰が目上の者なんだよ。」


「儂は礼儀を知らん奴には厳しく当たる。」


「それはそれは・・・」


「ほら!そういうところだ!まったく・・・」


ゆりは漫才みたいな二人の掛け合いに、笑わずにはいられなかった。

俊太郎は、ぽん、と『烏』の頭に手をバウンドさせた後、門に歩いていく。


「あ!何だそれは!」


抗議の声を上げながらも、『烏』は右手を上げて門を開く。

ゆりは苦笑しながら俊太郎の後に続いた。

振り向き様に、俊太郎は言葉を投げる。


「・・・やっぱり、帰りに少し遊んでいこうかな。

 よろしく頼むぞ、師匠。」


二人は開いた門の向こうに消えていく。

音を立てて、再びその口を固く閉ざした。


「・・・師匠・・・だって?」


悪態がつけなくなる程、俊太郎の言葉は彼女を大いに喜ばせた。



ゆりと俊太郎は、広くて真っ直ぐな廊下を歩いていく。

この廊下に灯された等間隔の照明は、

淡く優しい光を放っている。

昨日は突き当たりを右に行ったが、今日は左へ曲がる。

しばらく歩いていると、

目の前に大きな青銅の門が立ちはだかるように現れる。

古めかしく重々しい雰囲気に、

格式の高さを感じてゆりは息を呑む。


「・・・ここって、いつからあるんやろうか?」


思わずぽつりと疑問をこぼす、ゆり。


「さぁな~。何かこの建物って、現実的じゃないよな。」


のんびりと言葉を返す、俊太郎。

緊張感がまるでない彼を、ゆりは羨ましく思った。


「『管理人』の趣味だろ?あの仮面も、装飾も。

 俺にはちょっと合わないな・・・」


「先代の趣味かもよ。ほら、言ってたやん。

 今の『管理人』は就いてまだ10年だって。」


「・・・いいや。

 ゲストルームは絶対今の『管理人』の趣味だ。

 行けば分かる。」


二人ともカジュアルな服装を身に纏っている。

ゆりは服装をどうしようか迷ったが、俊太郎は気張らなくていいと

きっぱり言い放った。

ゆりは軽く化粧をし、ベージュのフレアワンピースを着ている。

赤縁の眼鏡はいつも通り掛けていた。

俊太郎が身に纏うのは、水色のシャツにジーンズである。

重々しい扉を、俊太郎が手で押して開ける。

ゆっくり開くその隙間から、輝かしい音の粒が溢れ出す。

ゆりはそれを耳に拾った瞬間、はっとした。


― ・・・この音は・・・


先程聴いていた音楽CDに入っていたものと全く同じ曲。

それを奏でる、黒く艶やかなヴェネツィアンマスクを着けた美女。

そよ風のようなピアノの音色と

プラネタリウムに迷い込んだような空間に、

ゆりは囚われたように立ち尽くす。

俊太郎はそっとゆりの背中に手を置き、促すように言った。


「俺の言っている意味分かっただろ?

 突っ立っているのも何だし、あのカウンターに行こう。」


半ば呆然としたまま促されて、

ゆりは片隅にあるバーカウンターに歩いていく。

出入り口の扉を閉め、俊太郎もその後を追った。

歓迎されているような、優しい音色が二人を包み込む。

数箇所に置かれた重厚なソファーには、

数人疎らに座っている。

俊太郎が促したカウンターにはまだ誰もいなかった。

雰囲気に圧倒されながらも、

ゆりは静かにカウンターチェアに腰を下ろした。

俊太郎もその隣に腰を下ろし、

カウンター越しにいるヴェネツィアンマスクを着けた

男性バーテンダーに言う。


「口当たりの良いカクテルを一つ。彼女に。」


「かしこまりました。」


その注文に、ゆりはようやく我に返って突っ込む。


「ちょっと、俊。お金持ってきてないやろ?」


「無料。『ここ』の人間なら飲み放題。」


「・・・え?そうなん?」


俊太郎は微笑みながら、ゆりに優しい眼差しを送る。


「俺は一応未成年って事になるので遠慮しとく。

 『力』も使ってるし。『烏』と遊ぶなら、尚更な。

 ・・・本当は一緒に飲みたかったけど。」


ゆりはその真っ直ぐに向けられる眼差しと言葉に、

鼓動が大きく打つ。

この場の雰囲気のせいなのか、

いつに増して彼がとても格好良く見えた。

ピアノの音色の風と俊太郎の眼差しの抱擁に、

ゆりは高鳴る鼓動を感じながら視線を逸らす。


「・・・この一件が、無事に終わるといいね。」


「・・・ああ。」


バーテンダーはカウンターの下にある冷蔵庫から

果実のオレンジを出し、

手慣れたようにナイフで切り分けていく。

その一連の動作と、

本棚のように綺麗に並べられたウイスキーのボトルを眺める。


「・・・世間は狭いね。」


ぽつりと切り出した言葉に、俊太郎は察して答える。


「・・・そうだな。もしかしたら、

 ゆりの身を近くで案じていたのかもしれないな。」


「俊との事も、彼が背中を押してくれたんよ。

 ・・・『管理人』としてではなく、蔵野恵吾として。」


「・・・・・・」


俊太郎は複雑な表情を浮かべる。

それには、同じ一人の女を想う男としての感情も含まれていた。


「・・・なぁ、ゆり。

 この際だから、ここでいろいろ話していこう。

 ・・・今後の事も。」


「・・・うん。」


バーテンダーはシェーカーを振る。

決して二人の空気を邪魔することなく、演出のように音を鳴らす。


「・・・9月11日。その事なんだが・・・」


その華麗な工程を眺めながら、俊太郎は話を切り出す。


「『結女衣』は、なぜ『管理人』の命を狙うのか。

 その目的を知る必要がある。

 そして『あいつ』だ。『道頓堀』。

 何で、『道頓堀』を使うのか。

 ・・・俺は薄々感じているが・・・」


ゆりは繊細な音色の風を感じながら、まぶたを落とす。


「『結女衣』は俺が干渉してくる事を想定している。

 ゆりにあの紙切れを渡した理由。

 それは、ばあさんと繋がっているから。

 『劉 玉玲』は『Lotus』にとって行く手を阻む存在。

 全ての悩みの種を、『あいつ』の『力』によって掌握できる。

 『結女衣』の目的は、『Lotus』が望む事と等しいだろう。

 ゆりという、『劉 玉玲』と『俺』に繋がる絶好の鍵。

 それが揃うことで、一気に邪魔になる存在を消す考えだ。」


「・・・うん。」


「『結女衣』は『道頓堀』の『力』の前で、

 俺の『力』は無力化すると。そう考えているだろうな。」


「・・・でも・・・」


至高のカクテルが、自然の流れでゆりの前に置かれる。

まぶたを上げ、ゆりはそのカクテルグラスに注がれた

濃いオレンジ色の液体を見つめる。


「『瞬』はその問題を切り開く。私にはそう見えている。」


その言葉に、俊太郎は満足げに頷いた。


「そう。とっておきの秘策だ。

 俺が長年、この『力』と付き合ってきたから得られた策。

 ・・・ゆりにはお見通しだったか。」


「うん。それが、あの人たちの意表をつく。

 今まで、護りきれずあの人たちの思うままだったけど・・・

 今度は絶対にそうはさせない。『管理人』を護ってみせる。

 ・・・でもね、『瞬』。

 頭に置いていてほしいのは、それが100%有効か分からない。

 油断できないって事。

 その上で、運命に影響を与える。

 命運の道は創れる。・・・私にはそう見えている。」


力強い口調と言葉を、風の音色とともに紡ぐ姿。

その姿を、俊太郎は眩しそうに見つめた。

膝の上に乗るゆりの小さく細い手を、大きな手で包み込む。


「どんな局面でも、どんな絶望的状況でも・・・

 俺はゆりを第一に優先するからな。

 それはいつも頭に置いていてくれ。」


深い情熱の言霊。

それはゆりの心を強く抱き締める。

これ以上の、力強くて頼りになる存在はなかった。


「・・・ありがとう・・・『瞬』。」


揺らぐことなく見つめ合う二人を、そよ風の音色が包み込む。

祝福するように、優しく。



「遅い!何が、ちょっと来ただけ、なんだ?!

 もうあんなにお月さまが高く昇ってしまったぞ!」


仁王立ちして待ち構えていた『烏』は、

袖で隠れて見えない腕を空に向けて愚痴をこぼす。

施設の厳かな門を囲む、鬱蒼と生い茂った木々の真上には、

月が煌々と暗闇を照らしている。


「すまない。話が弾んでしまってな。」


弁解する俊太郎の後ろで、ゆりは申し訳なさそうに笑う。

『烏』は、ふんっ、と鼻をならした。


「・・・まぁいい。今日は特別に許す。

 師匠の寛大な心をしっかり受け止めよ。」


「・・・何か偉そうだな。」


「さぁ!『瞬』!遊ぶぞ!!」


『烏』は意気揚々と言い放って、

着けていたヴェネツィアンマスクを外した。

その露わになった彼女の素顔を見て、ゆりは目を奪われた。


― ・・・うそっ・・・ばり可愛いやん!


想像を遥かに超える整った相貌に、ゆりは魅了された。

ただ、彼女の口に並ぶ歯がもう少し整っていればと・・・

惜しい気持ちになった。


「これを着けていると本気で遊べないからな!」


「本気でやるのかよ・・・外していいのか、それ?

 ・・・お手柔らかに頼むよ。」


俊太郎はため息をついて身構える。

初めて見るその姿に、ゆりは心をときめかせる。


― ・・・お酒が入ってるせいやろうか・・・

 俊がすっごく格好良く見える。

 ・・・しかも、伊達じゃない。


俊太郎の身構える姿に、隙がないことをゆりは感じ取る。

そして、その構える型に見覚えがあった。


「『番人』になってから退屈しているのだ。

 少しは楽しませてもらうからな!」


嬉しくて仕方がなさそうに、『烏』は不敵な笑みを浮かべて身構える。

袖から決して出ない左手を鳩尾の所まで下げて前に構え、

右足を拳二個分程後ろに引く。

ゆりは空気が変わるのを感じて、ほろ酔い気分を吹き飛ばす。


― ・・・大抵の人は、

 この可愛い姿に油断するかもしれない。

 強い。

 文句なしに。


彼女から放たれる強い闘気を感じ、ゆりは固唾を呑んで見守る。


「ハンデをやる。お前じゃ儂に勝てないのは分かっている。

 儂は左足だけしか使わん。右足は使わない。」


「それはいくらなんでもなめてかかり過ぎだろ。」


「片足だけでも、お前に勝てる。」


一歩も譲らない『烏』に、俊太郎は肩をすくめた。


「・・・後悔するなよ。」


俊太郎のその言葉で、火蓋が落とされた。


長い足が『烏』に振り落とされる。

意表を突くような素早い先制攻撃。

手加減なしの容赦ない俊太郎の攻撃に、『烏』は恍惚に浸る。

その攻撃をするりとかわし、

小さくて身軽なその身体を低姿勢にかがめる。


― ・・・あっ!


ゆりはその反撃の威力に心を冷やした。

俊太郎の鳩尾にめがけて槍の突きのように撃ち込まれる『烏』の左足。

だがその彼女反撃は難なく空を切る。

俊太郎は紙一重で避けると次の一手を繰り出す。

右の拳を『烏』の腹部めがけて撃ち込む。

『烏』は身を後ろに引き左足を高く振り上げる。

鋭く落とされた先には俊太郎の右太ももがある。


「うわっ」


俊太郎は身をよじり

ぎりぎりのところでかわす。

『烏』は次の攻撃に移っていた。

膝を立てるように左足を上げてしなりを加えた蹴り。

単発ではなくそれは複数回に及ぶ。

鋭い針を刺すような攻撃に俊太郎は受ける事しかできなかった。


「最初の威勢はどうした?!」


『烏』は防御に徹する俊太郎を見て、高らかに笑う。

力の開きがあった。

『烏』の動きには余裕がある。

反面、俊太郎は息を乱している。

その行方をゆりは肝を冷やして見守る。


― ・・・歴然。

 彼女は、かなり強い。

 宣言した通り左足だけで勝つかも・・・

 俊、頑張って!


気づけば、両手を組んで握りしめていた。


「儂はまだこれっぽっちも力を出してないぞ。」


勝ちを確信するように、『烏』は余裕の笑みを浮かべる。


「ブランクは大きいな・・・」


俊太郎は整えるように大きく息を吐いて、笑う。


「怠けていた証拠だな。前よりもずっと弱い。つまらん。」


「・・・まだ、終わってない。」


「まだやるのか?いいぞ。その精神大好きだ。」


戦いを心底から楽しんでいる時の彼女は、素直である。


「とどめを刺してやる。」


高く鳴り響く鈴のように言葉を発し、

『烏』は右足を踏み込んで俊太郎の懐に飛び込む。

それは突風のような勢いがあった。


― あれは避けきれない・・・!


ゆりは思わず駆け出しそうになった。

だが、目の前で起きた光景はその足を止めた。


「・・・卑怯だぞ!!」


『烏』の抗議する声が響く。

俊太郎は彼女を羽交い締めにしていた。

あまりにも身長差があり過ぎて、『烏』の足は宙に浮いている。

足をばたつかせ、わめき散らす。


「正々堂々と戦え!『力』なんぞに頼りやがって!!」


「卑怯も何も。『力』使わずしてお前に勝つのは難しいよ。

 まともにお前の一撃食らったら動けなくなるからな・・・

 学校休みたくないし。」


「放せっ!知るか!卑怯者!!」


「はいはい。」


その形勢逆転した経緯を目の当たりにしたゆりは、唖然とした。


― “秘策”。

 これは・・・

 本当に大きな賭けだ。


「お前のお陰で実践する事ができたよ。ありがとうな。

 自信がついた。」


「うるさい!訳分からん事言うな!」


俊太郎は、ちら、とゆりに目を向けて頷く。

言葉の意味を、まるで共有するように。


― 命懸けだ。

 “秘策”というよりも、命を懸けた試み。

 でも・・・これが道を切り開く。



二人が訪れたこの夜のひととき。


それは後々動き出す運命の歯車に、大きな作用を及ぼす事になる。



        ・・・To be continued




             


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― 新着の感想 ―
[良い点] 蔵野さああああんっ!!『管理人』としての蔵野さんを拝見して、ほああああっ!です!!(語彙力) そして、ゆりちゃん。ここで『小百合』と名前を得たのですね。『早苗』ではなく、自分を表す名前。 …
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