少女の価値3
レギウスは、顔が真っ赤なはずの私の様子に怪訝な表情を浮かべたが、直ぐに自分の発言のオカシイことに気付いたらしい。
「う、違う、そうではなくて」
うろたえて、視線をうろうろさせるレギウスに、ガイルが不快そうに目を細めた。
「何者だ、なぜこの女を知っている?」
「……………こっちが聞きたい」
問われて、そう言いながらガイルに目を向けた彼は、ふと思い付いたように意地の悪い笑みを浮かべた。
「……と言いたいところだが、俺はトウコと裸のお付き合いをした仲だ」
「!」
「ちょっ、とおおぉぅ!!」
私が両手で頬を押さえて叫んだ時には、目の前で刃が光っていた。
レギウスは予測していたらしく、ガイルが放った複数の暗器をかわしたり、剣で弾いた。
「っ!」
「ふうん、なるほど」
一人納得して頷く彼に、懐から小太刀を取り出したガイルが斬りかかる。
それを受け止めたレギウスが、ガイルから目を離さずに私に言い放った。
「トウコ、決断しろ!俺とこいつ、あんたはどっちの側なんだ!」
「トウコ、逃げたら殺す!お前は俺のモノだ!」
「…………な、なんでしょ、この……女子憧れの、二人とも私の為に争わないで、の構図は」
距離を取ったり、また鍔競り合いしたり、狭い路地で壁に体を打ち付けながら、私の前で争う二人。
私は、考えた。
ガイルを選んだ場合、執着されて問答無用のメリバ確定。
レギウスを選んだ場合………
「レギウス、どうして戻って来たの?私を捜してくれたの?何で?」
「う……いや、髭剃って来たから」
「は?」
「若く見えるようになったかな、と」
ガイルの小太刀を跳ね返し、一閃したレギウスの剣は、後ろへ跳んだ彼には届かなかった。
正直暗くてよくわからないが、顔の良いガイルの近くにいても、うん、レギウスは見劣りはしない。銀髪に青目の色合い見ただけでも素敵なんだよね。鼻もすっと高いし、二重瞼で少々垂れ目は可愛い気がする。
「………イケメン度は、引き分けかな」
「え?」
「え、って、髭剃った顔見せる為だけに来たの?」
「う」
頬に暗器がかすって血がつっと垂れた。呻いたのは、痛みではなく言葉に詰まったからみたい。
「ち、違う。あんたの恩をまだ返しきれていない、から」
「……は?」
勝手に私を置いて行った分際で、何言ってるんだろ?
私が冷たく聞き返すと、目を泳がせながら、何か一生懸命言葉を出している。攻撃も出してる。
「いや、俺の命は、その……あの程度の恩で返せるほどの軽い命じゃないって言うか。よく考えたら俺の命凄く価値あるし、まだ恩を返してないな、と」
「ぷふっ」
つい吹き出してしまった。何て人の良い……
「はい、レギウスさん選択決定!」
「うしっ!」
ガッツポーズを出したレギウスは、そのままガイルの腹に蹴りを繰り出して、走って来た私を抱えるようにして大通りの端に繋がれていた馬(多分ガイルの)に飛び乗った。
「掴まってろ!」
レギウスの後ろに乗せられ、急いで彼の腰にしがみつく。
「トウコ!」
ガイルの珍しく焦った声に、思わず振り返ると、体を捻ったレギウスが手を伸ばして、私の頭を素早く横にずらす。私の頭の横から彼の脇の下を通り、ガイルの暗器が遠くへ飛んでいった。
馬を走らせ、直ぐにガイルは見えなくなった。
「わ、私を、彼殺す気だった」
「………俺を選んで良かっただろ?」
もう何人も人が死ぬのを見た。私のいた世界ではあまりにも異常な状況だ。
こんなこと、見続けたら慣れてしまうのだろうか。
急に震えが止まらなくなり、落ちないようにレギウスの体に必死で抱きついていた。
「っ……!」
レギウスは、身動ぎして落ち着かない様子だ。体に力が入り緊張しているみたい。
気付かないだろうと、背に頬をくっ付けて少しだけすり寄る。
生きている証明の暖かさが、こんなに落ち着くものだとは思わなかった。




