少女の憂鬱
真っ暗闇だ。
街を抜けると、直ぐに森。
私のいた世界とは違う。夜でも明るいなんてことは無く、人の住む場から離れると真の闇が広がる。それに、森林が多くて手付かずの場所がとても多い。
レギウスは私の乗った馬の手綱を片手に引き、片手にランプを翳して歩いている。
夜空には、たくさんの星。今まで窓を閉めきった神殿に閉じ込められていたので、こんなふうにこの世界の夜空を見上げたこともなかった。
「星って、こんなに綺麗なんだ……」
宝石が散らばっているみたいだ。
見上げる私を、レギウスが見ている。
「………あんた、一体何者だ?」
「え、だから違う世界から来たって」
「………それだけではなく、あんたは…」
疑わしげな感じが、イラッときた。まだ恨みが消えてない。
「あー、レギウスさん、さっきはありがとうございました。あなたに捨てられてアブナイ目に会いそうなところを助けてくれてどうも」
「う、根にもってるのか?」
「別に」
自分でも分かりやすいとは思うが、つい拗ねた言い方をしてしまう。
そんな私を不機嫌そうに彼も見て、ふいっと前に顔を向ける。
「は、何だよ、心配してずっと捜してたのに、あんたは男とイチャついてたくせに」
「何か言った?」
「別に」
「……………」
「……………」
「…………くしゅん」
レギウスが立ち止まり、むすっとした表情のまま自分の外套を脱いで私に手渡してくれた。
「あ、ありがと」
少々照れながら受け取って羽織ると、彼はまた私を見ている。
「………あの男、声からして戦場であんたを捜していた奴らの一人だろ。おそらくはアンムートのイヌ」
「うん、でも仲間割れを起こしたみたい。あの人…ガイルが二人を殺したのを見た」
「なぜ?」
「………………」
いや、言えないな。まさか私を手に入れる為とか、自分で言えないし。
「ふうん、そうか。あんたを……」
でもレギウスは、また意地悪い笑みを浮かべて、察してしまった。
「俺があんたとデキてるような言い方したらキレてたし、逃げるあんたを殺そうとした。奴は随分あんたに執心らしいな。殺したいほど好きってか」
トゲのある言い方に、ムッとする。
「は、裸の付き合いとか言ってたよね!?」
「事実を言っただけだ。どう捉えたかは知らん」
淡々と言いながらも、彼の目元が朱に染まっているのは気のせいではないみたい。
「…………あんた、奴をどう思ってるんだ?もしかして満更でも」
「私のファーストキスを奪った」
「な!いや、そ、そうか」
ぎこちない反応をしたレギウスが、「やはり乙女か」とぼそりと言ったのは、ちゃんと聞こえていた。
「今更だが、あいつより俺を選んだのはなぜだ?」
「え、それは……」
当然と言えば当然のことを聞かれて、キョトンとしてしまう。
「だって、レギウスは私を襲ったりしないでしょ、良い人だもの」
「良い人?!」
「その……ガイルみたいに無理やりキスしたり、自分のモノにするとか言わないし襲おうとしないし、女子として安全かな、と」
「安全……へえ」
夜空を見上げる私とは対照的に、彼は地面を見て歩いている。
「だから、これから先もしばらく一緒なら、レギウスなら安全だから選んだだけだよ」
「そうか、信じてもらえてアリガタイナ……はあぁ」
レギウスは嬉しそうでもなく言い、物憂げに溜め息をついた。




