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少女の価値2

 

 前言撤回。例え自分がどんな存在でも、生きていくためには食べていかないといけないわけで……


「はむ、おいし」


 パン屋で5つパンを買い、細い路地裏に座り込んで食べている。辺りは、すっかり暗くなって、店や家の灯りが微かにここにも届いている。

 私は、野宿することに決めた。節約の為だ。

 見たところ治安は悪くないようだし、初夏なので寒さで寝れないなんてことは無さそう。


 荷物は着替えとパン、それだけ。


「どうするかなあ」


 明日になったら街を出て、どこか田舎で暮らしたい。


「自給自足、ほのぼのスローライフもいいよね」


 ジャムパン片手に、これからの人生設計をしていたら、こちらへ歩いて来る二人組の男が見えた。急いで頭に被っていたフード代わりのスカートを引いて、目の下まで隠す。

 自分の髪色が珍しくて、じろじろ見られているのは自覚していた。


「え、女の子だ」

「ホントだ」


 やり過ごせると思ったのに、二人組は立ち止まると屈んで顔を覗き込んできた。


「君、大丈夫?一人?」

「だ、大丈夫です」


 見られないように顔を背けて言うと、余計気になったらしく肩を掴まれた。


「行くあてがないなら、家に来なよ、すぐそこだからさ」

「え、と、あの、大丈夫なんで」


 立ち上がって離れようとした拍子に黒髪が零れて、灯りの下に顔を晒してしまった。


「うお、可愛いじゃん。黒髪初めて見た!」

「へへ、だめだよ、君みたいな子がこんなところで」


 強引にどこかへ連れて行こうと、俄然積極性を増す二人に抵抗する。


「うわあん、治安悪かったあ!」

「大きな声出さな…」


 言い掛けたまま、いきなりその場にガクリと二人が倒れ伏した。


「え?」


 二人のいた背後には、四人の男が立っていた。


「こんな所にいるとは」

「あ……」


 見覚えのある人物に、先程の比じゃない危機感を覚えて後ずさる。


「……………見つけた」


 死んだ二人の背中から、小さなナイフのような物を抜き、その内の一人、ガイルが呟く。

 ひたり、と私を見つめて、口端を上げる彼から目を反らし、逃げ道を模索する。


 ヤバい

 危険度が二倍になった。


「や、やだ」


 逃げようと、後ろを向いたところを背後からガイルの手が伸びて腰に回る。


「きゃあ、やだやだ、助けて!」

「………………………」


 ガイルに捕まった私を、リーダーらしい男が冷たく見ている。


「まったく、手間をかけさせてくれる。その女に猿轡を」


 男が背を向けた瞬間、背後からガイルの手が何かを放った。


「ぐっ?!ガイル、貴様!」


 首を狙って放たれた、さっきと同じ武器……(確か暗器という物だよね)をリーダーらしき男が、間一髪避けた。


「何をす…」


 他の二人が身構える前に、既に彼らの額と喉に深々と暗器が刺さっていた。

 倒れる彼らに驚いて、思わず見上げた私の顔のすぐ横に真剣なガイルの顔があって、リーダーの男を睨んでいた。


「裏切る気か」

「…………………」


 答えないガイルが暗器を放つ。避けた男は、苦々しい表情をしている。

 どうも私に怪我をさせたくないらしく、攻撃しようとしない。


「馬鹿め」


 言い捨てると、男は後ずさって、音もなく闇に紛れて何処かへとかき消えた。


「な、仲間を、な、なんで」

「………はあ」


 混乱している私の腰を抱いたガイルが、もう片方の手で更に後ろから私をきつく抱き締めて一つ息を吐いた。

 耳元にその吐息の熱さを感じ、新たな危機をまたもや意識する。しかも何か性的な種類の危機だ!


「やだやだ、離して」


 暴れている私を難なく肩に担ぎ上げて、ガイルが無言で歩き出す。ボカボカ彼の前面を叩いて、足をバタバタしているのに、全く効いていない。

 ありー?私ぬいぐるみだったかな?なんてパニックな頭で思って、助けを呼ばなきゃと思い直す。


「助けてえ!拐われるう!」

「…………………」

「誰かあ!」

「…………………」

「いやだあ、犯されるう!」

「…………………」

「………うわあん!否定しないよお!」

「…………………」


 人の気配の無い暗い路地を抜けた先に大通りがあり、繋がれた馬が見える。

 ヤバい!乗せられたら最後、もう自由は無い気がする。


「やだやだ!監禁凌辱異世界ライフなんてやだよ!」


 そういうシチュエーションは、男性視点だから苦手だ。


「いやだあ!大多数の女子は、愛も欲しいのさ!乙女を穢す奴は去勢しろ!」


 あれ、助けを呼ぶんだった気が……


「……………ふっ、乙女……」


 路地から出る手前で立ち止まったガイルが、ようやく何か喋った。

 お?!と、その顔を見上げると、にやりと笑っていた。


「くく、さっきから聞いてたら……お前、こんな面白い女だったんだな」


 ストン、と降ろされて、壁とガイルに挟まれて動けない。


「か、壁ドン……」

「やっぱ手に入れて正解だな、この好機逃さないで良かった」


 言われた言葉に唖然として固まる。


 私の頬をつつっと撫で、満足そうに見つめる表情は、初めて見るものだった。


「………あなたは」

「ガイル………呼んでみろよ」

「まさか、その為だけに仲間を殺したの?」

「………………」


 名を呼ばなかったからか、微かに眉をひそめて、彼は私の顎を掴んだ。

 私が、まだ呆然としていているのを良いことに、ガイルが唇を寄せた。


「一応聞くが、お邪魔だったか?」


 突然横から声が掛かり、ピクリとガイルが動きを止めた。


「邪魔をしたなら悪かったな」


 ひんやりとした声に顔を向けると、大通りから入って来たレギウスが立っていた。


「ああ、俺に構わなくていい。いい雰囲気を壊しちまったな」


 言葉とは裏腹に、レギウスの右手で剣が光る。


「………………」


 ガイルが無言で彼に体を向けた。

 ホッとしたところを、ガイルが目線をレギウスに当てたままで脅す。


「動くな、トウコ。逃げようとすれば、一撃で殺す」

「自己中、嫌だ」


 それを聞いて、困惑ぎみにレギウスが口を開く。


「トウコ、あんたは、どうしたい?こいつといる方がいいのか?それとも状況的にまずいなら俺が………」


 言いにくそうに、しばし視線をさ迷わせたレギウスが、ふいにキリッとこちらを見据えた。


「こいつと俺、どちらか選べ!」

「いやいやいやいやおかしいから!その発言は誤解しますから!」










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