少女の価値
「生きていたのか」
またしても驚かれて、内心舌打ちする。
「生きてて失礼します」
「………いや、悪気はないんだ」
憮然として返すと、気まずそうにクイントは頬を掻いた。
レギウスはトウコと別れた後、同じ街にある傭兵連絡所なる建物に顔を出した。
そこでは、新たな傭兵を募集したり登録したり、公国の都にある中央連絡所からの傭兵派遣の依頼や連絡を受けたりしている。
こういった連絡所は、公国各地にあるが、中でもこのピースラの街はアンムートと国境を接する為に重要な役目を果たしていた。
クイントは傭兵経験があるが、戦いで片腕を失った為に、ここの所長を勤めている。
既に戦地の状況報告を受けて、連絡所内は慌ただしく人が行き交っていた。
「全滅だと聞いているが、君以外にも誰か生きているか?」
「いえ、おそらく俺だけが生き残ったはずです」
椅子から立ち上がり、クイントはカウンター越しに身を乗り出すようにしてレギウスを見ている。
「何があった?なぜ敵も味方も全滅なんてことになった?」
「わかりません。意識を失ってしまい、しばらくして気が付くと皆死んでいました」
「何も見ていないと?」
「はい、何があったかこっちが知りたいぐらいです」
じっと見つめ探るようなクイントに、真っ直ぐに視線を向ける。その薄い髪やら肥えた腹をしばらく見ていたら、ようやく彼は再び椅子に腰掛けた。
「そうか、何か手掛かりが掴めるかもと思ったが残念だ。しかしなぜ君だけ生き残ったんだ?見たところ怪我もないようだが」
そう言って、クイントは報告書を手にして見せた。
「まだしっかりした報告は挙がっていないが、死体の状況は皆、深い裂傷に四肢の断裂、中には目を潰されたものもあったそうだ」
「………仲間の背後に位置して、運が良かっただけです」
レギウスは、トウコのこと以外は、ほぼ誤魔化さずに話した。
彼女のことは、伏せた方が面倒なことにならないと思ったからだ。
クイントは疑わしげな目で彼を見ていたが、やがて机の書類に目を向け確認すると、待つように告げて奥へ引っ込んだ。
レギウスは、その間近くの椅子に座っていたが、何だか落ち着かなくて足を組んだり頭を掻いたりしていた。
やがて、クイントが赤ん坊の頭ほどの大きさの布地の袋を抱えて戻って来て、彼に差し出した。
「今回の分だ。怪我はないが死傷者の多さを鑑みて、基本給にリスク手当を足しといた」
「ああ、すまない」
ズシッと重い袋を、用意した鞄に詰めると、レギウスは直ぐに帰ろうと背を向けた。
しばらくは、両国共に混乱して仕事も無いだろう。
「そうだ、君」
「は?」
クイントが思い出したように彼を呼び止め、まだ何かあるのかと苛立ちながらも振り返った。
「これは確証の無い噂に過ぎないんだが、アンムートは新しい兵器の開発に着手しているらしい」
「……そうですか」
「その兵器には、人間の力が必要らしい」
「そ、うですか……それはどういう」
「さあ、方法まではわからないが、中央でもそれは把握済みだ。しかも今、それは行方不明になっているらしく、この国に入り込んでいる可能性があるそうだ」
ドクン、と心臓が思いがけず大きく震えた。
意識して無表情を決め込むレギウスに、さりげない様子でクイントは続けた。
「その人間を中央は捕らえようとしている。すぐに各地に捜索の手が回る手筈になっている」
「捕らえて、どうするんだ?」
「さあ、だが我が国の損失になるなら秘密裏に処理されるだろうな」
脳裡に、雨に打たれて泣いていたトウコの姿が浮かんだ。
「っ、ト、彼女は……!」
言いかけ、瞬間クイントの目が鋭さを増した。
「彼女?」
「クソ!」
まんまと誘導されボロを出した自分に苛立ちながら、素早く連絡所から走って出て行く。
「待て!」
後ろからクイントが叫ぶが、無視して早足で路地に滑り込んだ。
「クソ、クソ!!」
自分がなぜこんなに焦っているのか、苛立ってどうしようもないのか。
これが後悔からきていることを理解してしまい、腹立たしい。
「バカ、俺のバカバカ!恩は返した、面倒事はごめんだ、やめとけ、絶対得にならない!」
伸びて目にかかる前髪をぐしゃぐしゃと乱し、足は止めない。気が急いて仕方ない。
「トウコ、トウコ……どこにいる?」
どこかで一人で途方に暮れているのだろうか。
*************
「…………働くか」
よたよたと力なく公園を後にし、トウコは働き口を探して街を歩いていた。
「いいもんね、バリバリ働いて稼いで金持ちになってやる」
日が暮れる。赤紫の空を見つめ、ぐいっと手で目元を拭う。
「……………う、ぐす、いいもん、野宿で……へ、へーんだ!」
ぶつぶつと呟きながら、沈む気持ちを上げるべく高い理想を掲げる。
「ぐすん、異世界定番チートにハーレムやってやろうじゃんよ、現代知識で無双したろか……けっ!」




