透子、目覚める3
敵味方斬り合いになるのを横目に、俺やジルシチュール達は真っ直ぐ本陣へと馬を走らす。
「狙うのはアンムート皇帝唯一人だ!」
足止めしようとする矢も剣も、俺の前で弾き返されて当たらない。まるで見えない壁があるようだ。
俺だけじゃない。エノンの者は、全ての攻撃が効かない。
これがトウコの加護。
アンムートの兵達が、皆一様に驚き、何度攻撃しても当たらないことに戦意を失っていく。
逃げようとしたり、投降し始めたりする者が出てきた。
エノン側の流れに逆らうようにして、トウコのいる本陣へと進もうとする数騎が、ふと目の端に映った。
他の兵より軽装備の鎧を着用した彼らに、俺は手綱を引いて、その後ろを追った。
「レギウス!?」
「先に行け!」
ジルシチュールに言い置いて、戦う兵の間を抜けて彼らに追い付いた。
こちらに気付いたランドが、斬りかかる俺の剣を受け止める。
「トウコを奪う気か?」
一旦下がり、再び構えたところをランドの仲間が二人同時に攻撃を仕掛ける。
暗器が跳ね返り、小太刀は俺には届かない。
悔しげな二人の腕に剣を走らせ、小さく呻く彼らを放って、ランドに剣を向ける。
すうっと俺の周りの加護が消える。この男と対等に勝負したいという俺の望みに反応したのだ。
「加護は消えている。俺は、ここを通さない。トウコを奪いたいなら、俺と勝負してから行け」
例えランドが本陣の彼女の元へ辿り着いても、今の彼女なら大丈夫だろう。だが、それでも俺は通したくない。
この男と戦いたい。
これは、俺のケジメのようなものだ。おそらく、ランドにとっても。
馬を下りた俺を見て、奴も下りて身構える。
素早く斬りかかるランドの剣は、重い。力を込めて受けると、押し込まれる前に下がって、直ぐに剣を繰り出す。
横に薙ぐのを、僅かな動きで避けると、そのまま剣を突き出した。
ランドが背を反らしたところを、屈んで足を斬った。
深くはないが負傷した痛みに息を詰めたところで腹を蹴り、バランスを崩したランドの腕を押して地面に倒した。
「諦めろ!」
鼻先に剣を突きつけると、ランドは無言で目を瞑った。
直後、エノン側の本陣からまばゆい光が放たれて、俺は意地悪く忠告してやった。
「目を閉じて耳を塞げ。息も止めてろ。生きていたいなら」
はっとして、ランドと仲間が反射的にだろうが、忠告通りにするのを俺は声を出さずに笑って、その光の元を目で追った。
「アンムート皇帝を捕らえたぞ!!エノンの勝利だ!」
背後のアンムートの本陣から騎士団長の声が響いた。
振り返ることなく、それを聞き届けて、俺は光を浴びて彼女の姿を遠くに見つめた。
優しい春の日差しのように温かい光。それは全ての負傷した兵を癒す光だった。
傷が癒えた兵達が驚き、やがて畏怖で地に伏せた。
光の女神は、愛情深く全てを赦す神。
血で穢れた傭兵の俺にさえ、光を与える神。
そんな高潔な神に、俺は足元にさえ及ばない存在。
だが、終わりだ。
戦いは終わる。
神は、再び天へと帰る。
器は役目を終えて、地へと堕ちる。俺と同じ場所まで。
ああ、違う。俺が導かれたのだ。
あの日、あの時、彼女と最悪の出会いを果たしたばかりに。
俺の運命を変えてしまった、俺の最悪を越えた最愛の……
「トウコ」




