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透子、目覚める2

 

 鎧を着用するのは半年ぶりだった。


 籠手を付けて、手伝ってくれた彼女を振り返る。


「行ってくる」

「うん、気を付けて」

「トウコも」

「うん、大丈夫」


 俺を真っ直ぐに見つめるトウコは、落ち着いている。

 もう彼女に翳りはない。

 意志を秘めた澄んだ瞳、自信に満ちて微笑む唇。


 器である彼女は、神に取り込まれることはなかった。

 強い意志で自らの人格を保持し、その力を操る。特に光の神の力を。


 その聖なる力を発動させたトウコは、首をはねられることはなかった。今はただ、平和の為に尽力し奔走してきた。


 だが、それも今日まで。


「トウコ、これが最後だ」

「うん、これが終わったら私は私になる」


 力強く頷く彼女の頬を、籠手を付けた手で優しく撫でる。

 恥ずかしそうに目を細める彼女は、今日を最後に器から解き放たれる。力を使うのは、最後。


 自由に力を使いこなす彼女は、自分の意志で神を体から離脱させることができる。


「約束だからな」

「うん。そうしたら私、レギウスと一緒に……」

「一緒に暮らす、あの家で」


 何度も取り付けた約束を念押しすると、彼女は何度も頷く。


 頬を包んで上向かすと、わかっているとばかりに目を閉じるので、その唇にキスを贈る。


「あ!また……」


 天幕を上げて入って来たジルシチュールが、呆れたように言った。

 トウコと少し笑いあって、机上の剣を携える。


 外に向かおうと踵を返す俺の肩を、彼女の手がそっと触れて下りた。力をもらったような気分で、ジルシチュールと外へと歩いた。


 平地が広がる彼方には、アンムートの兵が黒い塊のように見えた。


「いよいよですね」

「早く終わらせる」


 騎乗した俺達は、エノンの騎士団の横へと並び立った。この時の為に編成された傭兵と騎士団の混合部隊は、なぜか俺と騎士団長を筆頭に配置されていた。

 ジルシチュールとトウコの縁もあるだろう。だが、俺は自らの実力で傭兵団長の地位を掴んだつもりだ。騎士団長は物分かりの良い男だったが、烏合の衆と見下す一部の騎士共は、片っ端から手合わせをして黙らせた。


 全ては、今日のために。


 杖を翳すジルシチュールに続き、俺と騎士団長は剣を抜くと、天へと高く掲げた。


「これをアンムートとの最後の決戦とする。もてる全ての力を出し切るのだ!我らには、光の神の加護がある、恐れることはない!」


 応えて雄叫びがこだまし、戦意が上がるのを空気の揺れで感じる。

 久し振りの、高揚で肌が粟立つ感覚に身震いする。前を見据えて号令を掛けた。


「全軍、進撃せよ!!」




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