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器、もがく3

「まだ若い」


 三十代後半ぐらいだろう。恰幅の良い大公は、トウコを一目見るなり哀れんだ。


「閣下、彼女は20歳で大人ですよ」


 親しげにジルシチュールが口添えをすると、少し驚いた顔で大公は頷いた。


「そうか……それでも遠い世界から来て、さぞ心細い思いをしただろう」

「大公様、私の為に力を貸して下さってありがとうございました」


 深々とお辞儀をして、トウコはきゅっと口を引き結んだ。


 同情や哀れみは、トウコには惨めに感じるらしい。その気持ちは分からないでもない。

 その肩に手を置くと、彼女が俺の顔を見上げてきた。すがるような表情をしていた。


 ジルシチュールが彼女の様子を説明し、大公は難しい顔をして聞いていたが、一通り聞き終えると再びトウコを見つめた。


「疲れただろう。今はゆるりと休みなさい」


 そうしてジルシチュールだけを残して、俺達を退出させた。

 トウコの背を見送る大公の表情に何か含みを感じて、ちらりとジルシチュールの表情を窺うが、目を伏せていて読み取れなかった。


 アンムート側の国境を強硬突破して数日。公都に着くなり、大公と面会した俺達は、ようやくジルシチュールの神殿で休めるようになった。


「ここは安全だ。安心していい」

「うん、ありがとう」


 清貧さをモットーにする神殿内には、ベッドとチェストしかない小部屋が連なり、トウコと俺も一部屋ずつ割り当ててもらった。

 本来は男女で棟が別れているのだが、俺は特別に彼女の部屋の隣に部屋をもらった。


 ベッドに座り微かに不安な顔をするトウコに、安心させようと言葉を掛ける。


「俺は隣の部屋にいるから、何かあっても直ぐに駆け付ける。心配することはない」

「一緒の部屋じゃないんだ」

「う、ぐ」


 またそんなことを言う。

 意趣返しで、気を取り直して彼女の顔を覗き込んで笑ってやる。


「がっかりしたのか?」


 そう言えば、恥ずかしがるかと思ったが、トウコは俯いて床に目を落とした。


「…………夜、また夢を見るのが怖い」


 呟いた言葉に、からかったことを悔やむ。


「トウコ」


 そうだ、彼女は到底人を殺すような人間じゃない。それなのに、意思に反して多くの人の命を奪った。俺が考えるよりずっと、彼女にとって他人の命は重いのだろう。


 あのガイルさえ見捨てられなかった優しい彼女だ。他人の命を奪った罪悪感は一生彼女を苦しませるだろう。


 せめてその苦しみが和らげばいいと思った。


「………そばにいる」

「ありがとう」


 膝の上で作る彼女の拳に手を重ねる。


「トウコの手は綺麗だな」


 俯いたまま黙っているのを見つめていたら、戸口にジルシチュールが立っているのに気付いた。

 目配せするのに、彼女を世話役の巫女に任せて外へと出た。


「彼女は落ち着きましたか?」

「表面上はな。だが、ずっと不安を覚えている」

「そうですか……いえ、そうでしょうね………」


 俺に目を向けたジルシチュールは笑っていなかった。口を開きかけたのに、そのまま口を閉ざしたのを見過ごさなかった。


「大公と何を話したんだ?」


 目を反らしたジルシチュールは言いにくそうで、襟首を掴んで促すと、「怒らないで下さいね」と前置きされた。


「大公は、速やかに解決できずに彼女の体が邪神に乗っ取られるならその前に器を破壊せよと仰っています」


「破壊……破壊だと!?」


 襟首を絞め上げて、息苦しそうなジルシチュールのことも気にかけられない。


「ごほ、つまりですね。傷付けて邪神が暴走する前に、器を破壊するには、頭を切断すれば」

「貴様!」


 聞きたくなくて突き飛ばす。ジルシチュールに悪気はない。分かっているが、怒りで胸の奥が熱くて苦しい。


 よろめいて柱に手を付いたジルシチュールだが、ただ静かに「…………そんなことはさせません」と言った。





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