器、模索する
夜、うなされるトウコの手を握った。
眠るのを怖がる彼女の枕元で、俺は眠るまでいるからと言って他愛もない話をしていた。
トウコは、色んなことをよく話してくれた。
向うの世界のこと、家族のこと、自分が学生だったこと。
聞くほどに、平穏に過ごしていた彼女が、こちらに来てからどれほど苦労しているかを感じる。
帰りたいかとは聞けなかった。無責任だと思ったからだ。自分やジルシチュールにはトウコを帰す力はない。アンムートで彼女を呼び寄せた神官長のみが、彼女を元の世界に帰せるという。
異世界からの召喚は邪法であり、闇の女神の神力を持つ者しかできないからだ。
彼女も帰りたいとは言わない。
最初に会った時よりも、更に暗い影を引き摺る彼女は、何処か諦めている節がある。
布団を被って、傍の椅子に座っている俺を恥ずかしそうに見て、それでも軽口を叩いてくる。
「レギウスは眠らないの?隣に寝る?」
「うぐ……俺はいい」
布団を捲るのを見ないふりをして断っておく。試すのはやめろ。
こんな状態のトウコに手を出す気はない。あっても出さない。
それにここは神聖な神殿だ。そうだ、神殿だ。俺はガイルなんかと違う。
問題が解決して、それから……
「そっか、残念」
「う……」
ふわ、と欠伸を噛み殺して、トウコは向こうを向いてしまった。でも、そろりと手だけは俺に伸ばしてくるので握ってやった。
「………私なんかの為にありがとう。巻き込んで……ごめんね」
「いいんだ」
面倒なことだと思ったのは最初だけだ。今は本当にトウコを助けたいと自分が願っているのだから。
「俺は自分の意思でトウコの傍にいる。気に病むことはない」
「うん。ねえ……もしも私が」
言いかけて次の言葉を発しないので、顔を見ると彼女は眠っていた。
「もしも」なんて、聞きたくないし知りたくない。ありはしないことだと一笑に伏せばいい。
大公はトウコの体を破壊することも厭わないという。為政者として、自国や民、果ては世界の為に当然の判断だと、冷静になった頭では理解した。
だが、トウコは?
俺はトウコを助けたい、それだけだ。
「大丈夫だ」
彼女が安心するなら、気休めでもいい。
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しばらくしたら苦しそうにうなされ始めたトウコを見守る。
「トウコ」
「ごめ……なさ」
手を握ってもうなされているのに、覚悟していたとはいえ段々と焦燥感が湧いてきた。
そういえばアンムートから逃げる道中の仮眠時、腕に抱えていた彼女は安眠していたのを、ふと思い出した。
立ち上がり、かなり悩んだが、トウコの横に寝そべり後ろから抱き締めてみることにした。
以前のように寝袋越しではない。夜着越しに感じる体の柔らかさに無心を心がけて固まっていると、うなされていた彼女から静かな寝息が聞こえてきた。
よかった、そう思っていたら、彼女の前面に回していた手を掴まれた。
「なっ…!?」
凄い力で引っ張られたと思ったら、仰向けにベッドに押し倒されていた。見下ろすトウコが視界にあって驚いた。
だが、すぐにトウコではないと分かった。
瞳は赤い光を宿し、纏う雰囲気は妖しく禍々しい。
俺の腹の上を跨いで座り、クスクスと笑う邪神に形容しがたい感情が沸き上がる。
「トウコを、返せ!」
恐怖よりも強い感情のまま、俺はそれを睨み付けた。




