器、守る2
あまり展開はないけど、彼の中では展開しています。
「おお、美味しそう」
今夜はシチューだ。良い匂いを漂わせる鍋の中をおたまでかき回す。
今朝この小屋の持ち主の猟師がやって来て、食料をもらったのだ。
戸を開けて入って来たのに驚いていたら、ガイルが武器を手に構えるので慌てて止めるはめになった。
親切な猟師は、私から事情を聞くと彼が元気になるまでと、快く滞在を許してくれて自分の食料まで分けてくれた。
乾いた服を着直したガイルが、ベッドに上半身を起こして私をずっと見ている。
監視されているようで居心地が悪いが、段々と慣れてきた。
「ガイル、ご飯だよ」
呼ぶと、少しふらつきながらもベッドから立ち上がり椅子に座る。細身だけど鍛えているからか、回復が早いようだ。
「いただきます」
手を合わせて私が言うと、彼は物珍しげにいちいち私を見る。口数は少ないが、出した食事は残さず食べてくれるので、不味くはないのかな。
「ガイルは……家族はいるの?」
黙々とシチューを食べる彼を見て、聞いてみる。
「いない」
「仲間はいたよね」
「仲間……」
さして面白くもなさそうに、ガイルは首を振る。
「仲間などいない」
「そう、『コミュ障だったんだね』」
「こ、みゅ……」
日本語を説明する気にもならずに、私は考えた。
レギウスは、家族がいなくて生きる為に傭兵になったと言っていた。
ガイルも危険な仕事をするのだから一人だと思っていた。ただ、仕事仲間すら仲間と思っていないのは、彼の境遇や性格のせいだ。
あまり幸せな幼少期は過ごしていないのだろう。
他人に興味が持てないのかも。いや、だったらどうして……
「どうして私を追いかけて来たの?」
空になった皿を弄って聞くと、ガイルはじっと私を見つめる。
「お前が俺に笑ったから」
「え?」
「俺に笑いかけたのはお前だけだ」
「それだけの理由で?」
よく分からない。
彼自身上手く話せないのだろう。
射抜くような鋭い視線は、なんだか獲物を捕らえる獣のようで怖くなる。
「………お前が欲しい」
「え、えっと」
いきなり不穏な流れになってきた。欲しいって何!
すっと立ち上がり、私の方へ回り込もうとするのに椅子を引いて後ずさる。
「あのね、不埒な真似したら出ていくって言ったから!それにそういう欲しいなら、私じゃなくても女なら誰でもいいんでしょ!」
「………………」
「私の気持ちは?体だけが欲しいなら他の女でどうぞ!」
「何?」
腕を掴む彼を睨む。
「あなたは、私が本当に好きなの?」
そう問うと、緩んだ手から逃れた。
「好き?お前が欲しいと思うのは好きということか?」
「私に聞くの?」
「触れたいと思うのは好きということか?お前に(ピー)して(ピー)したいと思うのは好き?」
「きゃあああ!こわいいいい!」
具体的な想像をさせられて涙目になって壁まで後退する私を、よく分からなそうな表情で問い続けるガイルは、まるで無垢で恐い子供のようだ….欲望は男だが。淡々と話すのが更に恐ろしい。
「また俺に笑って欲しいと思うのは好きか?」
「そ、それは、そう思うなら、私が嫌がることはしないで。嫌なことをされて笑うことはできない」
「………………」
動きを止め、脳内で色々考えているらしい。やがてガイルは私を追い詰めるのを止めて食器を片付け始めた。
呆気に取られて見ていたが、何だか笑いが込み上げてきた。
「………おかしな人ね」
口を押さえて、ついクスリと笑ってしまった。ガイルはそんな私を目敏く見て、微かに目を細めた。
「ああ……その笑顔の方がいい」




