器、守る
朝。
明るくなって確認したら、ガイルの服は血だらけで怪我が全身に及んでいたことが分かり、思わず息を呑んだ。
死にそうだった為、夜の内に急いで治癒を施したので、その時は触って傷と分かった部位だけ治していた。
「見せて」
細かい傷を治そうと、彼の顔に手を伸ばした。
絶対嫌がると思ったので意識の無い内に、服は洗うために剥ぎ取り(下着は着けてる)下半身の傷は完全に治している。
案の定、自分が裸にされているのに気付いたガイルは……微かに眉を跳ね上げた。
ちぇっ、反応薄。
ベッドに上半身を起こしたガイルは、私がまぶたや頬や鼻筋に触れても、じっとしている。
「……傷だらけだね。イケメンが勿体無い」
「お前、どうして……」
されるがままの彼は、ベッドに足を乗り上げて治癒に集中する私を見つめている。
「何?」
「俺はお前を殺そうとした」
「でも本当は殺せないと分かっていたんでしょう?それに自分も無事ですまないと分かっていたよね」
「……………………」
「馬鹿ね。痛いんだから止めて」
綺麗になった彼の顔を見て、手を引っ込めようとしたら、また掴もうとする。
ベチッと、その手を叩き落とし固まったガイルを睨む。
「私はあなたを介抱してるんだから、不埒な真似したらもう世話しないわよ」
「頼んでいない」
「そ、じゃあお大事に、さよなら」
つん、として小屋を出て行くフリをしたら、ガイルがベッドを這って立ち上がろうとした。
「待て」
「知らない」
「トウコ!」
大きな物音に振り返ると、よろめいて床に落ちて膝を付いている。
苦しそうに呼吸しながら、私を見上げる彼はすがるような目をしていた。
重傷を負いながらも、私を連れ去ったガイル。
その執念のような怖さを私は逆手に取ることにする。
「行くな!行くなら」
「殺すの?殺せるならどうぞ。あなたは死ぬかもしれないけど私は死なないから」
冷たく返すと、言葉に詰まったようで彼は私を睨んできた。
「私はあなたの人形じゃない。いて欲しいなら、私の意思を尊重して。わかった?」
そう言うと、怪訝な顔をする。
彼は、そんなこと考えもつかなかったんだろう。
この人と私には、言葉が足りない。それに考え方に相違がある。
「……………」
「私の気持ちなんて考えたことなかったでしょう?」
ガイルの戸惑った顔。
相手の気持ちを知ろうなんて考えが及ばないということは、彼自身も今まで意思を尊重されたことがないのかもしれない。
一度溜め息をついて、ガイルをベッドに寝かせるために両脇に手を差し入れる。
「ほら、まだ休んで」
「……なぜ俺を助ける?お前は、あの男が好きなのだろう?」
私の肩を彼の手が強く掴む。
「ちょっと痛いから!」
乱暴にガイルをベッドに降ろすと、距離を取った。
この人と相容れることは難しいかもしれない。
「私が怪我をさせたから気分が悪いから治したかっただけ。あなたが元気になったら出て行くわ」
「許さない」
「いいえ、あなたに私をどうこうする権利は無いから」
ヒヤリと冷たい空気が流れる。不毛な会話に私は苛立っていた。
明るくなって彼がまだ眠っていた時、私は洗濯がてら外へ出て辺りを調べてみた。
怪我を負ったガイルが、長い距離を私を抱えて移動できるはずがない。
その予想は過たず、数十分歩いたら国境沿いに出たのだ。
だが、レギウスが倒れていただろう場所には誰もいなかった。死体が転がっているようなことは無く、埋めたような痕も無いから、おそらくジルシチュール達が彼を運んだのだと思った。
彼は神官だと言ってたから、私の力を防ぐことができたのだと……思いたい。
ここを出たら、レギウスの無事を確かめたい。
それだけでいい。
もう誰も傷付くのは嫌だ。
「何を考えている」
ガイルの声に顔を上げる。
「ねえ、ガイル。私……本当に死ねたらいいのにね」
そう言って微笑むと、彼は虚を突かれたように私を見ていたが、やがてそっと目を伏せた。
私は生きていたらいけない。私がいるだけで、好きな人も守れない。




