少女の憂鬱2
その時のことは、曖昧にしか記憶していない。
身の内より沸き上がる破壊衝動に任せて、私は確かに笑っていた。何もかもを凌駕したモノに私は押しやられ、体は操られたように勝手に動いた。
ただただ恐ろしかった。そのモノの前には、私は為す術も無くあまりに矮小で気にも止まらぬ存在だった。
それは一部のみが現れたに過ぎない。それは力だったが、意思があるのかはわからなかった。
ただ、壊したい。奪いたい。全てを屈服させて消し去り滅ぼしたい。その衝動………!
自らを中心に広がるのは暗黒と死。
意識が明瞭になった時、とても静かだった。
もう叫びも悲鳴も泣き声も怒号も消えた中、たった一人立っていた。
「あ、ああ…ごめんなさい…ごめんなさい」
震えながら死体の傍を歩く。
自分がしたとは信じたくない。だが、理解していた。
せめて、一人でも生きているなら助けたい。
ううん、違う。私を助けて欲しいだけだ。
私の存在を肯定し認め、苦しみから救って欲しい。
「助けて、誰か、助けて」
恐ろしい。もう自分はこの死体の数の分、罪にまみれて生きていくのか。
いやだ、いやだ
一人はいやだ
私を助けて
「トウコ………トウコ!」
「……あ、きゃ!」
見下ろすレギウスの心配そうな顔に一瞬驚いたが、ここが宿の一室だと思い出す。
「うなされていたぞ」
「ごめんなさい」
気に止めることなく、彼はベッドに起き上がった私をじっと見ている。
ちなみに同室だ。私は特段気にしなかったが、レギウスは何度も確認を取ってきた。
別にベッドは別々だし、着替えとかは備え付けの洗面室でしたらいい。
一応レギウスが男だとは認識しているが、今までのことや彼の性格からして私に何かするとは考えにくかった。
「大丈夫、それなりに信頼してるから。それに、別に部屋取ったら高いでしょう?お金払ってもらってるんだから悪いよ」
「そ……うか?本当にいいのか……いや、やっぱり……」
迷う彼に痺れを切らして、私がさっさと部屋を取ったのだ。
けれど、こんな姿を見られるなら別にすれば良かった。
ガタガタと震える体を自分で抱き締めて、彼の視線を避けて横を向いた。
「あんた、大丈夫か?」
「悪夢を見ただけだから……すぐ治まるから」
悲しいのか恐ろしさからかボロボロと涙が勝手に流れて止まらない。
「トウコ……」
「ご、ごめん、少し、一人にして」
みっともない姿を晒したくなくて、頭から布団をかぶり、ベッドの隅にうずくまる。
衝撃的なことがたくさんあって、自分の心が疲弊しているのは分かっていた。
「うっ、ううっ、ああう、うー」
抑えの効かない波が押し寄せて、彼のことも忘れて布団の中で嗚咽を上げる。
「か、帰りたいよ、うう、お母さん……もういやだあ」
何言ってるか、自分でもよくわからない。
「いやだ、こわいよ、うっ、こわい」
「………トウコ」
ふいに布団越しに背中を軽く叩かれた。
「う、うう、レ……」
「いいから泣いちまえ」
慰めようと、トントンと規則正しく叩かれる背が心地いい。
長いことそうして、ようやく言葉が出せるようになった私は、布団の中からしゃがれた声を出した。
「どうして、親切に、してくれるの?やっぱり、私の体目当てなの?」
「んな!?」
驚いたのか叩いていた手を止めたレギウスが、どんな顔をしているか気になり、そろそろと布団を目の下まで下げる。
目が合って、恥ずかしくて目を逸らすと笑われた。
「……こんなに不安な顔をしているのに、放っとけないだろ」
「う、良い人だ」
「…………それはどうかとは思うが……まあ…いいか」




