第八章 晴れやかな決着
それはヴェンデッタ達がまだ迷宮にいた時の話。
「復讐者のスキルですか?」
「ああその発動条件について調べたくてね。今まで戦ってきたのは魔王本人とその息がかかった魔物だから発動できたが、それ以外の者と戦った時発動できるのかわからないんだ」
ヴェンデッタの問いに考え込むリーベル。
「そうですね~私が知っている限りだとその条件は憎しみや怒りを抱いている相手、つまり復讐者のスキルを発動してでも復讐したいな~とか思えればいけるんじゃないですか?」
「復讐者のスキルを発動するほど憎めばいいのか」
「はい、ヴェンさんの立場だと今後は魔王だけでなくいろんなものから狙われるはずですから、試して見るのもありですよ」
「とは言ってもそう簡単に復讐心なんて沸くものなのか?」
「私はお菓子を横取りされただけでその人に軽く復讐しようと思いますけどね~。魔物にかかわらず人と戦う時、一方的に相手が攻撃してきたら普通ムカつきますよ?」
問題はヴェンデッタが果たして復讐者のスキルを発動するほどの憎しみを抱けるかどうか。
「こう考えればいけるんじゃないですか?自分が捕らえられる、もしくは殺されれば魔王に復讐することができなくなる。つまりそういうことをしてくるものは全員魔王の復讐を邪魔する敵なのだと。もしそのスキルが所有者の心の持ち方しだいでいけるのならですけど」
「……なるほどな」
リーベルの言う通りもし相手のせいで魔王への復讐ができなくなるとしたらそいつを絶対に許すことはできないだろう。
そして本当にヴェンデッタの心の持ち方次第で行けるのなら、
「別に怒りや憎しみの矛先は相手じゃなくてもいけるのかもしれないな」
◇◆
そして彼らの推測は当たり実験は成功だった。
もし復讐者のスキルを発動しなければ勝てない相手が現れたときの実験。
まずヴェンデッタはドレイクと何度か攻防を繰り広げることで相手の力量を図った。
その結果ドレイクという男は下手に攻撃をしたら死んでしまうような弱者ではないと判断する。
目の前の男は最低でもあのケルベロスよりも強い。
つまりそれは復讐者のスキルを発動しなければ勝てないという事だ。
そして一方的に攻撃される事態になったときヴェンデッタは心の中にある感情が溢れ出てくるのを理解した。
それは怒りや憎しみ。
しかし相手にだけではない。
一方的にやられている自分自身への怒りと憎しみも溢れてきた。
ヴェンデッタは思った。
ああ、自分はなんて情けない男だと。
こんな体たらくで魔王に復讐することができるのかと。
あまりの情けない自分に笑いが止まらなかった。
たとえこうなることを望んでいたとしても、
体全体に力が溢れてきて、実験が成功していることが分かっていても、
弱い自分が情けなくて憎くて怒りでいっぱいになっていることに可笑しくて笑いが止まらなかった。
そんなヴェンデッタも様子を伺うかのようにリーベルが覗き込む。
「ヴェンさんどうですか~。予定通りスキル発動できますか~?」
彼女の質問にヴェンデッタは答えた。
「ありがとうリーベル。どうやら上手くいったみたいだ」
その言葉に満足したリーベルが立ち去ると彼は立ち上がった。
そして目の前に立つ男ドレイクを見ながら彼は心の中で謝罪をした。
(ドレイクさんすまない。今から俺は最低で自分勝手なことをする)
こうなる事を望んで敢えて貴方に吹き飛ばされるがままだった
だのに、ヴェンデッタは自分勝手で彼に怒りと憎しみを感じている。
よくも一方的に攻撃してくれたな、と。
ヴェンデッタは狂ったような笑いをしながら理不尽に相手を心の中で責める。
さらにそれ以上の怒りと憎しみで自分を責め立てる。
そして遂に復讐者のスキルが発動した。
全身を青い炎を纏わせながら笑い続ける。
「さあ実験に付き合って貰おうか」
青い炎を纏った自分を見て驚くドレイクに向かってヴェンデッタは宣言する。
「ここからは復讐者として貴方と戦おう」
ヴェンデッタの言葉にドレイクは理解する。
おそらくこれは彼のスキル復讐者だと。
復讐者のスキルは相手に復讐するほどの怒りや憎しみを持つことで発動できるスキル。
憎しみや怒りを持てば持つほど身体能力が飛躍的に上昇し、復讐心を様々な形で具現化する力。
習得するまでは困難だが一度会得できれば、発動事態は本人の心の持ちよう次第だ。
それにしてもとドレイクは苦笑する。
離れた場所からでも感じるこの熱。
自分はそれほど彼に恨まれているのだろうかと。
(いや待てあれは…)
だがヴェンデッタの姿をもう一度見て考えは変わる。
注意深く観察しないと気づけないだろうが、青い炎はヴェンデッタの体も燃やしていた。
つまりこの炎の熱はドレイクを憎んでいるだけでなく、自分自身に対する憎しみで高くなっている。
ヴェンデッタは最初い勘違いをしているが、この炎は自在に燃やす物を選ぶのことができるのだが例外がある。
それはこのスキルを発動するための復讐対象は絶対にこの炎のダメージを受けなければならないということ。
今回の場合その対象がドレイクとヴェンデッタ自身のため彼は自らも炎に焼かれている状態にならなければならない。
恐らくこれほどの熱のほとんどは彼自身の憎しみだとドレイクは直感した。
同時に早めに蹴りをつけなければならないと理解する。
「確かにその力は凄いものだ。だが、自らも傷つける今の君の状態はあまり好ましくないな」
ドレイクはそう言うとヴェンデッタに纏わりついている青い炎に恐れをることなく、剣を一度鞘に収め居合の構えをしながら彼に突進する。
「秘技・紫電閃!!!!」
ドレイクの叫びとともに放った技は、彼の体をまるで雷の様な速さでヴェンデッタに近づき居合抜きを放つ。
「ぬぅ!?」
だがその技は決まらない。
何故ならドレイク以上の速さでヴェンデッタは突進し彼が剣を抜くより早く彼の腹に向けて拳を放つ。
咄嗟に鞘でガードするドレイクだが上手く力を流すことができず吹き飛ばされる。
後ろで部下たちが何やら声を出しているがドレイクの耳には届かない。
久方振りの強者との戦い。
しかもまだまだ伸び代がある目の前の少年との戦いに彼は戦士としての喜びに満ちていた。
「秘技、飛翔五連斬!!」
こちらへ追撃してくるヴェンデッタに向けて同時に五つの斬撃を飛ばすドレイク。
その全てをヴェンデッタは両腕に炎を纏わせ全て叩き落とす。
その僅かの時間を利用し力を溜めていたドレイクは、自身の最も得意とする技を放つ。
「奥義、獅子王斬!!」
「な!?」
まるで獅子が咆哮するかのような音と共に、繰り出された一撃の威圧にヴェンデッタは呑まれ、完全に回避することができず右腕を斬り飛ばされた。
「……あ!?」
その瞬間ドレイクは我に帰った。
ついその場のノリで奥義を使い彼の右手を斬り飛ばしてしまった。
後ろの部下から強い非難の声が聞こえる。
遠くで彼を見守っていたリーベルも慌てていた。
だがこの場でただ一人冷静な者がいる。
それはヴェンデッタだった。
なにしろ肉体再生スキルそれも最高ランクAを持っている彼は、瞬時に右腕を再生し自らの炎で作った槍を複数空中で浮かせドレイクに向かって飛ばす。
(肉体再生スキルだと!?)
ドレイクは瞬時に右腕を再生してみせたヴェンデッタに驚きを隠せなかった。
しかしさすがは歴戦の戦士と言ったところで、すぐ冷静となりすべての炎の槍を近づかれる前に斬撃を飛ばして叩き落とす。
やはり中途半端な攻撃は全て無効化される。
打てる手数が少ないヴェンデッタはどうやって奴を倒すか考えていた。
そしてそんな冷静になっていく自分に焦りも感じた。
(マズイな、やはりこんな発動の仕方じゃ相手に対する復讐心も続かないし精神回復スキルでどんどん薄まっていくのを感じる。加えて自らの炎で焼かれて熱いし痛いし肉体再生で体力が削られていくっと!?)
考え事をしているヴェンデッタに容赦なくドレイクの斬撃が飛んできて慌てて回避する。
「どうした、降参でもするつもりか!!」
ワハハハハと高笑いするドレイク。
だがヴェンデッタは疑問を感じた。
どうしてただの斬撃を飛ばしただけなのか。
今の隙なら先程の強烈な技をもう一度出せれたはずだ。
疲れている様子もない。
まさかさっきの技は一度しか使えないのか??
ヴェンデッタ注意深く観察する。
そして気づいたなぜドレイクが先程の奥義を出さないのか。
なぜ今だに技の一撃を繰り出さないのか。
ヴェンデッタはまた複数の炎の槍を作り出す今度はさらに数を増やせて。
それをドレイクに向かって飛ばすと同時に彼に向かって突撃する。
複数の炎を出来るだけ剣を使わず回避し、避けきれない分を剣で弾き落とす。
その隙をヴェンデッタは見逃さない。
体を纏うすべての炎を右腕に纏わせドレイク本人ではなくその剣を狙って攻撃する。
「ほう気づいていたか」
ドレイクは感心するかのように呟く。
そう、ドレイクの剣は限界だった。
実は彼が装備していた剣は軍から一般兵に支給されている物で、彼の愛用の剣ではないのだ。
その剣であれだけの事ができたのは彼の技量がそれだけ凄いということなのだが、流石に剣自体が持たずもはや限界が来ていた。
だからドレイクはもう強烈な技を繰り出すことができなかった。
そしてそのことに気づいたヴェンデッタはドレイク本人ではなく、その武器を破壊することで彼を戦闘不能にしようと考え狙った。
結果、ヴェンデッタ思惑通り武器を破壊することに成功した。
「見事だ」
自分の武器が破壊されたドレイクは笑顔で賞賛の言葉を送る。
しかし……
「だが甘いわ!!!!奥義、ドレイクパ――――ンチ!!!!!!!!」
纏っていた炎を全て右腕に集めていたことが仇となり、ヴェンデッタの無防備な頭にドレイクの全身全霊の拳が打たれる。
魔王が改造した強靭な肉体と、全属性攻撃耐性Aに痛覚耐性Aのスキルを持っていてもその拳は強烈でヴェンデッタは倒れ復讐者スキルも活動限界を迎えて消えていく。
「ふふふふふ、俺の勝利だ―――――!!!!!!」
拳を突き上げ勝利宣言するドレイク。
そんなドレイクを見て負けたのに何故かヴェンデッタの心は晴れやかだった。
(……こんな気持ちになったには何時以来だろうか)
ヴェンデッタを心配する声が聞こえる。
リーベルの声だ。
彼女が近づいてくる音と心地よく吹く風に当たりヴェンデッタ目をゆっくりと閉じていった。
例え眠ることができなくても今はそうしたい気分だった。
ちょっと仕事で忙しくなります。なので今後は三日に一回の投稿になっていくこともあるかも知れないのでよろしくお願いします。




