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妖かしに贈る唄  作者: 樋桧右京
第二節 花集う
12/22

第二節 花集う(3)

一跳びが民家四、五軒分程。九郎は町をそのまま脱出すると、更に跳び続け、遠く離れた浜辺に来たところで地上へと降りた。だが、着地と同時に九郎は面を外して帽子へと戻すと、途端に崩れ落ち、肩に乗せられていた壬夜は、砂浜へと放り出される形になる。

「ふぎゃ!?」

 砂の上を二回転した所で壬夜は止まった。

「うう……またたんこぶ増えるとこやった」

 壬夜がぼやいていると、静音が悲痛な声を上げる。

「九郎様、九郎様!」

 壬夜もその声に慌てて駆け寄り様子を見る。九郎の皮膚からは尋常でない汗が吹き出し、寒いのか身体がひどく震えているのが分かる。壬夜は首を巡らせると、近くに小屋があるのを確認した。おそらく漁師小屋だろう。

「姉ちゃん、あそこにとりあえず行こ!」

 壬夜が小屋を指し示すと、静音は頷き、九郎の腕を自分の肩に回して担ぎ起こす。

「九郎様、少し辛抱して下さい」

 肩を借りて、九郎もなんとか脚を前に進めてはいるが、ほとんど力が入らない様子で、半ば引きずる形だ。支える力になれない壬夜は先に小屋へと行く。

 木戸を開けて中を見ると、とても暗く、人の気配はない。僅かに差し込む月明かりを頼りに中の様子を窺うと、入り口からは土間が奥まで続き、左手に漁師が網の修復などを行う作業場である板の間と、暖を取るための囲炉裏も一応あるようだった。

 壬夜は目を凝らし、手で探りながら火を付ける道具を探す。

「こんな時は火の術使えたら便利やけどなぁ」

 すると程なく、手に紙製の箱が当たった。マッチ箱のようだ。手にして振ってみると、ガサガサと音がした。数も十分入っている。

 壬夜は入り口近くに積んであった藁を一掴み取ってくると、囲炉裏端でマッチに火を点け、その火を藁へと移す。そして囲炉裏に残っていた薪へとくべると、再び藁を取りに行き、その上へ足して火の勢いを強くしていく。薪に火が点き始めた事を確認すると、土間の奥に積んであった薪を今度はくべた。火勢が安定したところで壬夜が九郎達の様子を見に行くと、丁度小屋の前まで来たところだった。

「火、点けておいたで」

「ありがとう、壬夜ちゃん」

 静音達も中へ入ると、九郎を板の間に横にさせる。囲炉裏の火の明かりに照らされた九郎を見てみると、額や顔に玉のような汗が無数に噴き出しており、唇が青くなっている。

「私、お水を汲んでくるから、壬夜ちゃん様子を見ていてくれる?」

 静音は言うなり、小屋にあった桶を手にして飛び出していった。

 壬夜は静音を見送ると、九郎の横に座り、苦しそうなその顔を心配そうに見つめた。

「兄ちゃん、しっかりするけん」

 声をかけるも、荒い息遣いが聞こえるのみで返事はない。返事をする気力も無いか、意識が無いのだろう。ふとその時、壬夜の目に、九郎の上着の胸ポケットにある小さな膨らみが目に止まった。おそらくそれは妖玉だろう。壬夜の中である感情が膨れあがる。

「今なら……」

 壬夜は、胸ポケットと九郎の苦悶する顔を、爛々とした瞳で交互に見つめた。

                 †

 静音は、小屋からやや離れた川を見つけて水を汲むと、小屋へと戻ってきた。そして小屋に入ろうとした時、木戸を勢いよく開けて小さな人影が飛び出す。壬夜だ。

「壬夜ちゃん!?」

 静音には目もくれず、壬夜はそのままどこかへと走り去った。

「壬夜ちゃん、どこへ行くの?」

 後ろから声をかけては見るものの、壬夜からの返事は無かった。

 静音は仕方なく、そのまま小屋へと入る。中では相変わらず、九郎が荒い呼吸と共に横になっていた。九郎の傍らに水の入った桶を置くと、静音は自分の着物の裏地を引きちぎる。そしてその布を水に浸すと、手拭い代わりにして九郎の汗を拭き取った。

 すると、九郎の目がうっすらと開く。笑みを作り、九郎は静音に訊ねた。

「大丈夫、ですか?」

 だがその笑みもぎこちなく、痛々しい。

「それはこちらの台詞です。あ、お水を……」

 軽く見回しても器が見当たらないため、静音は手で水をすくい、九郎の口へと運んだ。

 水を口に含んだ九郎の喉が鳴る。

「ありがとう、ございます。ですが、僕の事は、放っておいて、逃げて下さい……。ここもいつ、突き止められるか、分かりませんから……」

 息も絶え絶えの九郎。

 だがそんな九郎の言葉に、静音は珍しく怒りを露わにした。

「何を言ってるんですか! そんな事出来ません!」

「しかし、嶋中将が、敵と、内通している事を、あなたの、立場としては、然るべき所へ、報せなければ……」

「私はそこまで賢くなれません!」

 声を荒げると、静音は顔を伏せ、汗を拭っていた布を強く握りしめた。

 提督の妹としては、何よりも国の大事を優先して動くのが正しい姿なのかもしれない。

 しかし静音は九郎を見捨ててまで、そうする事は出来なかった。

 波の音が、二人の沈黙の時間を包む。

「僕や、両親はいつも、妖怪である事、妖怪の子を産んだ事、そして半妖である事が、周りに知られる度に、土地を追われて、生きてきました」

 毒で苦しそうにしながらも語る九郎の言葉に、静音は顔を上げ、目を向ける。

「疎まれ、誰に必要と、されているわけでもない。だから僕は、流浪し、人と関わるのは最低限にしながら、正直いつ死んでも構わないと、思って生きてきました。退治屋など、代わりは、いくらでも、いますから。生きる理由にしてみた、仇も、もういない様ですし」

「だから放っていけと仰るのですか?」

「はい」

 静音はそれ以上応えず、桶の水で布を再び濡らすと九郎の顔を拭う。そして、静かに優しくもどこか寂しげに話し出す。

「私、宿で言いましたよね。この二日間、大変だったけど、ちょっと楽しかったと」

 九郎は荒い呼吸のみで、何も語らない。

「でもそれは一人で楽しかったのではなく、壬夜ちゃんと、そして九郎様が一緒だから楽しかった事なんです。他の退治屋さんではなく、九郎様との楽しかった思い出なんです」

 九郎の手に、一滴の涙が落ちた。

「でも今ここで見捨ててしまったら、私はきっと一生後悔します。楽しかった思い出も、悲しく辛いものへと変わってしまいます」

 静音はそっと九郎の右手を取った。

「お願いです。もうその様な事は仰らないで下さい。そして我が侭を言わせてもらえば、もう少しだけ、九郎様との思い出を作らせて下さい」

 九郎は何も応えない。意識はあるようだが、口を開く気力も既に無いのか、それともただ黙して語らないのか、それは分からない。静音は再び水で布を濡らし、九郎の汗を拭う。

 すると九郎が、力無く口を開いた。

「……一つ、お願いして、よろしいですか?」

「はい、私に出来る事なら」

「里での歌……あれを、聞かせて下さい」

 そう言うと、九郎は目を閉じた。

 その様子に静音は一瞬焦りを覚えつつも、九郎の胸が荒いながらも上下しているのを見て胸を撫で下ろす。

「はい」

 静音は目を閉じ、一度深呼吸すると、九郎の右手を軽く、幼子を寝かしつけるかのように叩きながら歌い出す。

「お池の水面にゆらゆらと、兎の月様泳いでる――――」

                †

 漁師小屋の中に、朝日の光が差し込み、外からは雀の戯れる声が聞こえてくる。

 九郎は薄明かりの中で目を覚ました。昨夜に比べ、左手の痛みはかなり和らいでおり、身体全体の苦しさもほとんど無くなっている。横になったまま左手を持ち上げてみると、いつの間にか上着が脱がされている。シャツの袖が捲られて、なにやら掌ほどの大きさの緑の葉が、肘の辺りまでの全体を包むように何枚も貼り付けられていた。

 ふと息遣いを感じて右に首を巡らせると、すぐ側には九郎の方へ向いた静音の寝顔があった。柔らかく温かな寝息が九郎の顔へと当たる。

 なんとなく気まずいため、左へと首を向けると、今度はやはり九郎の方へと向いて寝息を立てている壬夜の顔がすぐそこにあった。九郎を真ん中に川の字で寝ているのだ。

「これは……どうしたものでしょうか」

 どちらを向くも気まずいため、九郎はとりあえず身体を起こす事にする。

 強いだるさと、全身を襲う筋肉痛のような痛みはあるものの、一人で起きる上がる事に支障は無かった。毛布代わりに掛けられていた上着がずり落ちる。

 だるさは毒の影響だろうが、身体の痛みには覚えがあった。

 父の最期に譲り受けた、天狗の面を使った後遺症だ。

 天狗の面を使うと、普段は使えない天狗の妖術が九郎にも使う事が出来た。しかし、そのあと必ず全身を強い痛みが襲うために、余程の事がない限りは使用を控えている。

「やはり面を使うと後が大変ですね……。以前使った時よりは遙かに軽いですが」

 そう口にしてから帽子が見当たらない事に気がつき、辺りを見回す。すると枕元に置いてあるのをすぐに見つけ、手に取っていつもの定位置へと落ち着かせた。

 九郎が動いている気配で目を覚ました壬夜が、まだ眠そうな声をかけてくる。

「兄ちゃん、もう動いて平気なんか?」

 目を擦りながら、壬夜も身体を起こす。

「ええ。ところでこれは?」

 九郎は左腕に貼られた葉を指し示して訊ねた。

「それは痛み止めと解熱の薬草や。刺された吹き矢を持って河童の奴を探しに行ってな、その毒の解毒薬の作り方と材料に道具も貰ってきたんや。あいつ、そういうのとっても詳しいけん。んで、兄ちゃんが寝ている間に、そのにっがい解毒薬を飲ませ……た……けん」

 壬夜は途中から歯切れが悪くなり、九郎から目を背けた。

「…………?」

 九郎は改めて小屋の中の様子を見てみると、囲炉裏端に鉢やスリコギ、鍋で何かを煮た形跡を見つけた。おそらく解毒薬とやらを作った跡なのだろう。

「ん……」

 二人の話し声で、静音も目を覚ました。

「壬夜ちゃん……? 九郎様は?」

 目を開いたところで、視界に九郎がいなかったため、壬夜に訊ねながら静音も目を擦りつつ、身体を起こした。

「おはようございます」

 朗らかな笑顔で挨拶する九郎。間近でそんな九郎の姿が、静音の視界に飛び込んできた。

「もう起きられて、大丈夫なのですか?」

 心配半分、嬉しさ半分といった様子で訊ねる静音に、九郎はしっかりと頷いた。

「万全とは流石に言い難いですが、お陰様で」

 それを聞いた静音は胸に手を当てると、眦に何かを光らせる。

「本当に良かった……。良薬口に苦しとは言いますけど、本当なんですね。これも壬夜ちゃんがあのお薬を作ってくれ……た……お陰……」

 今度は静音まで歯切れが悪くなり、みるみる顔を赤く染めると、やはり九郎から視線を背けてしまった。

「あの、薬がどうかしたのですか? その話しになると壬夜も様子がおかしいのですが」

「な、なんでもないけん! な、姉ちゃん?」

「そうです、本当に何でもありませんから! ね、壬夜ちゃん?」

 二人が何かを隠しているのは確かだが、女同士の妙な連帯感の前に九郎は追求を諦めた。

「ともあれ、壬夜と静音さんには大変ご迷惑をおかけしました。ありがとうございました」

 九郎は二人に頭を下げた。

 すると静音が、心からの嬉しさを秘めた、穏やかな瞳で九郎を見つめる。

「……初めてですね」

「え?」

「私の名前を呼んで下さったの」

 そして静音は九郎の言葉を待たずに立ち上がると、桶を手にする。

「新しい水を汲んできますね」

 そう言い残し、静音は小屋を出て行った。静音を見送った九郎は、ふと触れた上着の胸ポケットに、妖玉が入ったままなのを確認する。すると壬夜に訊ねる。

「盗ろうと思えば盗る事も容易かったでしょうに。考えなかったんですか?」

 壬夜はすぐに何の話か察する。

「あちしが本気になれば、盗る事なんか簡単な事やけん。ただそれだけや」

 壬夜は九郎に背中を向けて強がってみせた。実際の所、壬夜が誘惑に駆られたのは事実だ。しかしそれと同時に、九郎と静音がおむすびをくれた事、静音が吹き矢から自分を庇ってくれた事等が頭を過ぎり、壬夜は妖玉を盗るのを止めた。

 だが、それは九郎の知るところではない。妖玉を盗る事なく、死線をさ迷う九郎のために、薬を求めて走ってくれた事が九郎にとっての事実だ。

「でも、お礼にくれるというなら、貰ってあげるで?」

「あげません」

「けちんぼー」

 壬夜が本気で言ってはいないのはすぐに分かる。九郎は軽い口調でそう答えると、それ以上何も言わなかった。

 九郎は大体腫れの引いた左腕から薬草を剥がすと、服装を整え、腰に刀を差した。

 しばらくすると、水を汲んで静音が戻り、その水で喉を潤すと出発の支度を調える。

「さて、これからの事ですが。まず、今、妖玉を返しに行くのは危険ですので、これは後回しになります」

「何故ですか?」

 九郎の言葉に静音が首を傾げた。

「静音さんを襲った人狼と陸軍と繋がりがあるなら、少しでも関連のある妖怪の里へ通じる道は、我々を張っている可能性があります。ですので、まずは海軍基地で信用のおける人物、鷹束中将と接触を図るのが最善かと。陸軍はどこまで嶋中将の息がかかっているか分かりませんから、頼れません」

 警察は軍の方が力を持っているため、同様に当てにはならない。

「ですが兄は横須野です。駅も見張られてはいるのではないでしょうか」

 京の町から横須野までは汽車でも十五時間はかかるため、徒歩で、しかも陸軍に見つからないようにというのはかなり困難だ。

「昨日の夜みたいに、ひょいひょいと空を行けばええやん?」

 壬夜が気軽に提案するが、九郎は苦笑を浮かべた。

「天狗の面を使えば僕も妖術を使えますが、その後の身体への負担がかなり大きいんです。情けない話しですが、今もそれの影響で体中に痛みがあります。その距離を踏破する前におそらく途中で力尽きてしまいますね」

 そっか~、と呟くと壬夜はシュンとして気を落とした。

 その時。

「この国の艦隊なら昨日の朝方、カミド港に入ったそうだよ」

 不意にそんな若い男性の声が、小屋の入り口から聞こえてきた。しかし人影は無い。

 九郎は静音達を下がらせて庇うように前に立ち、抜刀して構える。

「どなたですか?」

 そう訊ねた九郎の口調は、あくまで穏やかだが、友好的にはほど遠い。

「オーケー。俺は丸腰だからいきなりバッサリは勘弁してくれ」

 そう言いながら両手を挙げて現れたのは、白に近い金髪、青い瞳に白い肌、ズボンにシャツ、そして少々着古しの綿入りの半纏を上半身に纏った、外国人の青年だった。

「俺はネヴィス王国海軍、ハロルド・カーティス少尉。仲間はハルと呼ぶ。今はこの近くで捕虜をやっている。そしてさっきの話がアドミラル・タカツカの事なら、近くのカミド港に入ったという話だ」

 壬夜が不信感を顕わにしながら、九郎の陰から顔を出す。

「捕虜? にしてはらしくない格好やなぁ」

「確かに……」

 静音も顔を覗かせてハロルドを見遣った。

 ハロルドは自分の身体を確認すると、両手で半纏を指さした。

「これの事かい? これは俺が寒いと言っていたら、近くの村の人がくれたんだ。とても温かくて気に入ってるんだ」

 静音は少し考え事していたかと思うと、再び口を開く。

「この近くにある捕虜の収容村……というと葭野村ですね。それなら確かに上戸港まではそう遠くありません」

「この男を信用するのですか?」

 警戒する九郎に、ハロルドが答える。

「そこの女の子が桶を持ってここに入っていくのが見えて、なんとなく壁の隙間からのぞき見てしまったんだ。そうしたら十一、二歳前後の年端もいかない子供達がなにやら神妙に話をしているじゃないか。それで何か協力してあげたくなってね」

(人狼の事で何か困っているなら、もしかしたら自分の所為でもあるし)

 ハロルドは心の中で付け加えたが、九郎達の知る由ではない。

 だがそれを聞いて、別の部分で戸惑う九郎達。

「十二歳……壬夜は外見それより下ですが、僕は十七です」

「あの、私ももう十五歳なんですけど……」

 九郎はきっぱりと、静音は何故か申し訳なさそうに告げた。

 ハロルドは目を丸くして硬直する。

「ヤマトの子供は冗談が上手いな。嘘だろ? 下から四、十、十三歳って感じだ」

「何か得する事でもあるなら、十三歳と言う事にしておきますが」

 それを聞いたハロルドは、九郎達に背を向けると、頭を抱えた。

「東洋人は皆若く見えると聞いてはいたが、あの娘だけじゃなかったのか……」


 戦時下、敵国の捕虜は国内の何カ所かにある捕虜専用の村に収容される。

 収容といっても村には普通の民家同様の建物があり、そこで捕虜達は共同生活を送り、農作業などをして日々を過ごす。また、一定地域内であれば自由に散歩も認められており、近隣に住む帝国民との交流も珍しくない。以前、別の国との戦時下の際も、地元民と仲良くなった捕虜達が、地元民を招待して演奏会を開いた例もあるほどだ。

 希望すれば、祖国の妻や子供を呼んで、捕虜村で一緒に住む事も場合によっては出来た。そして時には外国人捕虜と大和撫子の色恋沙汰も聞かれる。そのほとんどは悲恋に終わるが、障害の大きい恋ほど燃え上がりやすいのも世の常である。

 また、捕虜となっている期間も、帝国から階級に応じた生活費が支給され、その額は帝国軍人の同階級の俸給とほとんど大差ない。そのお金で地元商人から、ほぼ自由に物を買う事が出来た。もっとも、この生活費は、戦争に勝利した暁には、敗戦国に賠償金の一部として請求される事となる。

 これほど帝国が捕虜を大切に扱うのには理由があった。

 西洋諸国から見れば東洋の国々は、未開の地の蛮族、文明という言葉からはおよそ遠い人間達であるという認識が大勢を占めている。その認識は、『文明国』が『未開の蛮族』に『文明』をもたらしてやっているという意識になり、植民地支配という行為が生まれている。そのため、帝国はれっきとした文明国であるという事を示すため、その一つとして捕虜に対して非人道的な行いは一切行わず、厚遇し続けているのだ。


「ちなみに俺はいくつに見える?」

 ハロルドは視線だけ九郎達に向けて訊ねた。

「二十七や」

「二十五……くらいですか?」

「二十三か四というところでしょうか」

 するとハロルドは、明らかに落ち込んだ。

「……二十歳だ」

 九郎達三人は顔を見合わせると、微妙に哀れんだ目をハロルドに向ける。

「そんな目で見るな!?」

 そんな時、やりとりなどとはお構いなしに、不意に壬夜の腹の虫が、皆に空腹を主張するかのように鳴った。

「オーケー。良かったら朝飯をご馳走しよう」


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