↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/49

第49話 公爵家での夕食・通信網

「どうかな? 少し変わった物を出してみたのだが。 口に合わなければ別の物と取り替えるが?」


 公爵家での夕食の席で、魚料理が出てきたのだ。

 公爵領の周囲は海から離れている。流石に生魚では無いが、燻製等の保存食では無く、煮魚が出てきたのだ。


「これは海で取れる魚でしょうか? 輸送には随分と日にちが掛かると思うのですが」


 川魚等の淡水魚であれば可能性もあるが、目の前のそれは海水魚であったので、疑問を口にする。


「ふむ。驚くどころか、見ただけで気が付くとは……海の魚は食べた事があるのかな?」


 予想外の反応に興味を引かれたのか、公爵が逆に尋ねて来た。


「いえ、初めてです。ですが、知識としては存じているので、どうやって運んでいるのか気になったのです」


 人として産まれたのは、リリィとしての生が初だから今まで食べた事が無いのは嘘ではない。


「面白い秘密などは残念ながら無いな。氷魔法を使える者が魔法をかけながら運んでいるだけの事よ」


 なんでもないように公爵は言うが……希少な魔術師を複数揃え、それを護衛する者も同行させるとなると、これに掛かる費用はかなりのものだろう。

 毎日、こんなにお金を掛けた物を食べているのだろうか?等と思いながらも、公爵に感謝を述べて食事を味わう事にした。


 雑談を交えながらの食事を終えて、食後の紅茶が運ばれてくる。

 この席には公爵の他に、カーテローゼとローデリック子爵の姿もあったが、セリーヌは招待されていない為、その姿は無い。

 セリーヌがいつもリリィに付き従っているのを知った上で招待しなかった事から、政治的な話をしたいのでは無いかと思っていたが、予想通り話はそちらの話になる。


「聖女殿に提案して貰った案だが、実際に行うには些か問題があってな」


 反応を探るように公爵が切り出してくる。


「何かを変える時には、色々と問題が出るものかと思います。全てをいきなりする必要もありませんし、皆様が受け入れられる範囲から少しずつでも良いかと。何より、あの案を行わないと言う判断もあるかと思います」


 リリィとしては、提案を受け入れるも受け入れないも、どちらでも良かった。

 何となく思い通りに振る舞いたく無かっただけだし、選択肢を提示した事で、リリィに苦情紛いの事を言ってくる貴族は減ると思われたからだ。


「いや、提案そのものは良いと思っているし、他の者も前向きに考えておるよ。だが、我が家に権力が集中し過ぎてしまうのだ。王都の国王陛下に叛意を疑われない為にも事前に相談が要るかと思っている」


 公爵の説明に、それは有り得るかと思った。

 だが、それなら相談すれば良いだけであって何が問題なのかリリィには不明だった。


「そこで王都に行って貰えないだろうか?」


 続く要望に驚きを表すリリィ。


「ちょ、ちょっと待って下さい。まさか、私が国王陛下に説明するのですか? 無理ですよ! 自分で言うのも変ですが、こんな子供が相手では話の内容以前に受け入れて貰えませんよ!」


 リリィの慌てぶりに、今度は公爵が驚きを見せる。


「そなたでも、そのように取り乱すことがあるのだな。儂と初めて会った時も平然としていたが、国王陛下に会うのは余程と感じるものか」


 公爵と言えば爵位としては1番上だ。

 それに王家の分家の立場にある。

 平民から見ればどちらも雲の上の存在なのだが、あまりの反応の違いが予想外だったのだ。

 公爵からすれば国王相手でも、いつものように堂々としているのでは無いかと思っていたのだ。


 だが、公爵は勘違いをしていた。

 リリィが慌てたのは国王に会う事ではない。


「心配せずとも陛下と言えども聖女の言葉を軽んじる事は出来んよ。教会の権威は、そなたが考えている以上に大きいのだ」


「皆様が私の言葉に耳を傾けて下さるのは嬉しいですが、聖女は私だけではありません。それに王都は教皇様もいらっしゃいますから、私では力不足かと思います」


 頑なに拒むリリィ。


「ふむ。耳が良いものは、そなたの事を把握していると思うが、頼みたいのは陛下への説明では無い」


 普段見られない弱気な聖女の反応を楽しみたくもあったが、本題から離れていくかと勘違いを正す公爵。


「国王陛下への説明では無いとすると、なんの為に王都に行くのでしょうか?」


「今回の話は様々な者への根回しが必要になるのだが、ここと王都は離れている。そこで、そなたの魔法陣でこの公都と王都で話せるようにして貰いたいのだ」


 そう来たかとリリィは困ってしまった。

 部屋の片隅に立つ公爵家のお抱え魔術師に目を向けると、物凄く嬉しそうな顔をしていた。

 魔法陣の事を教えて貰ったのも、通信魔法陣を試す時にも彼が相手だったのだから、公爵が知らない訳が無い。


「……残念ながら、ここから王都では離れ過ぎているので、話は出来ないかと思います」


 実際に試した訳では無いが、電波による通信の原理を元にしているのだ。

 特に周波数や出力等を気にした訳では無いが、気にせず作っているからこそ、届かないと思うのだ。

 それは、長距離通信には中継が必要と言うイメージがリリィの中にある為だ。

 良くも悪くも魔法の発動はイメージに忠実なのだ。


「ガランの町で産まれて、この公都に来たのだから、王都まで届くかわからないのは無理も無い。だからこそ、そなたに行って貰う必要があるのだ」


 目の前の紅茶を飲みながら、冷めてしまったそれに僅かに顔を顰めつつ、そう口にする公爵であった。


◇


 新たに運ばれて来た紅茶を一口飲み満足そうに頷きながら、公爵は話を続ける。


「一対の魔法陣で届かないのであれば、中継すれば良いのではないか? 触れている者の声だけしか伝わらない訳ではあるまい?」


 その言葉に頭の中で実現性を考えて不可能では無いと結論を出すリリィ。

 だが、その手段を取るなら尚更、この話を引き受ける訳にはいかない。


 何故なら、中継地点になる場所は途中にある町や村になる筈だが、当然の事だが公都と王都の間に都合良くそれらがある訳では無い。

 町や村を巡りながら王都まで行くとしたら、何ヶ月掛かるか……何ヶ月アベルと離れる事になるかわかったものでは無い。


「魔法陣は発動していないといけませんし、ずっと発動したままでは術者の負担や魔法陣に使われる羊皮紙の劣化の問題があるかと思います」


 何とか断る理由を捻り出すリリィ。


「術者は人数を集めれば良いし……魔法陣の予備を用意するなり、全ての中継地点に時計を用意して時間を決めておくのはどうだ? 勿論、予備の魔法陣を作って貰う必要はあるが、それに見合う額を払おうと思っているぞ」


 魔法の種類は問わないとはいえ魔術師は希少だ。

 それに時計自体も高価だし、魔法陣を一組幾らで買うつもりか不明だが、他に存在し無いのだから幾らでもふっかけれてしまう。

 通信の利用価値は理解しているが、剛毅な話であった。

 何よりリリィがアベルとの会話で解決出来なかった問題を財力で解決してしまった形だった。


 (実現するだけの財力がある事の証明の為の魚料理だったのか)


 ここに来て、今日わざわざ魚料理が出された本当の理由に気が付いた。


 魔術師の人数が集めれる事。

 施設構築に必要な財力がある事。

 費用対効果は指摘するだけ無駄であった。


「ですが……」


 リリィは断る理由を探すが、問題点を強引に解決されており、その証明もされている以上、都合の良い理由がすぐには出てこない。


 (ここは、神のお告げを使うしかないか?)


 洗礼の際にも王都に行く話を回避するのに使った神のお告げの言い訳。

 後々、災いとは何なのか等の面倒が起きる予感しかしないが、背に腹はかえられない。


 諦めてリリィが言葉を続けようとした時に、リリィを見ていたカーテローゼが、公爵に視線を向けると口を開いた。


「お父様、私から提案…いえ、お願いがあるのですが、聞いて貰っても良いでしょうか?」


「なんだね? 言ってみなさい」


 この場で言う以上、聖女の王都行きに関することだろう。

 その場で全く関係ないお願いをする程、空気が読めない娘ではないと思いながら先を促す。


「聖女様は初めての長旅になりますし、まだ歳も若くあります。その不安を解消するのに、護衛には聖女様と歳の近い者も加えて頂けないでしょうか?」


 聖女と歳の近い護衛が誰を指すのかは、わざわざ言う必要は無いし、無用な噂を立てない為にも言うべきではない。

 そう配慮しての発言であった。


「はい! 王都行きます!」


 そんなカーテローゼの配慮が無駄になる食いつきっぷりを見せる者が一名居た。

 リリィである。


 数ヶ月の長旅に護衛として同行するのだ。

 今より遥かに接する時間は多くなる。

 既に断る理由は無かった。

 寧ろ、自分から率先して売り込みたい程だ。


 そんなリリィの様子に露骨に呆れる公爵と、笑いを必死に堪える子爵。

 護衛を希望通りにするのは問題無いのだが、好意があからさま過ぎるのだ。

 王都には当然、国王を中心とした国王派とも呼べる派閥が存在している。

 敵対するつもりは無いが、あの少年から手繰って聖女を取り込まれないか不安が湧いてくる。


 (そういえば……あの者の妹も騎士見習いであったな)


 公爵家の陪臣として爵位を与えた女騎士と、その妹の事を思い出す。

 どのみち、女性である聖女の護衛には同性の者が必要になるのだ。

 見習いが護衛に参加する不自然さも多少は誤魔化せるかも知れない。

 あの少年自身も、その戦力的な意味で他の派閥に取り込まれたく無い人材なのだ。


「護衛の件は聖女殿の不安が減るのであれば、そのようにしよう。それでは、王都に赴くのは受けてもらうので良いのかな?」


「お任せ下さい。公都と王都間の通信手段、間違いなく作ってみせます。何ヶ月……いえ、何年掛かろうとも」


「いや、何年も掛けられても困るし、どれだけ遠回りしても、そこまでは掛からんよ。 ローデリック子爵。 王都へはそなたも同行して貰って良いか? 聖女殿も助言なりが必要になるかも知れぬし」


「仰せのままに」


 公爵から同行を頼まれた子爵は即座に了承の意志を示す。

 勿論、聖女への助言が目的では無い。

 国王派に聖女を取り込まれない為の御目付け役である。


 こうして、リリィ達の王都行きが決まったのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。