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令嬢ではない侍女ですが婚約破棄相手に溺愛されました(連載版)  作者: 灰月 琥珀
【エピローグ】 

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 【エピローグ】 

   ◇


 ウラカン様が船の上で、ティーゼル船長に声をかけた。


「さあ、待たせたね。ティーゼル、早朝の船出になるが、準備は万全かな?」


 船長は、胸を張って淀みなく現状の報告を始めた。


「はっ! 本日のウィンターガルド運河、雲一つない快晴の朝を迎えております。風は東からの微風、海面は穏やかです! 航海士、各部の状況を報告せよ!」

「エルグランド号、船体および各種魔道具に異常なし。港内に停泊中の他国船籍を含め、周囲に不審な動向は確認されません!」

「ウラカン閣下。本艦、出航の準備はすべて整っております。ご命令を!」

「船を出してくれ。目的地はバレンシア港だ」

「アイ・アイ・サー! 総員、抜錨(ばつびょう)! とりーかーじー一杯! エルグランド号、朝陽に向かって出航する!」


 朝の冷気と静寂を切り裂くような、船長の野太い号令が甲板に響き渡る。それを合図に、整列していた百二十名の船員たちが弾かれたように一斉に持ち場へと駆け出した。


 わたしは、ウラカン様と手を繋いで船の先頭に立った。

 水平線から昇る朝日が、海面を眩しい黄金色に染め上げていく。(ほお)()でる冷たい朝の空気さえも、今のわたしにはとても清々しく感じられた。


「帰ろう、カリナ。俺たちのバレンシアへ」


 ウラカン様が繋いでいた手をぐっと引き寄せ、わたしをその大きな胸の中へと抱きしめる。彼の腕の確かな力強さと温もりに包まれながら、わたしはそっと目を閉じた。

 朝陽の光が降り注ぐ甲板の先頭で、わたしたちは静かに唇を重ねた。


「ちょっとちょっと! 朝から何を見せつけてるんですか、ウラカン様!」


 突然、背後からシロンのからかうような大声が飛んできた。


「まったく……出航早々、当てられっぱなしですね。少しは付き合わされる私たちの身にもなってください」


 振り返ると、エリーゼが呆れたようにため息をつきつつ、どこか嬉しそうな笑みを浮かべてヤジを飛ばしていた。

 わたしはハッとして慌てて体を離し、顔を真っ赤にしてうつむいたが、ウラカン様は全く悪びれる様子もなく、余裕の笑みを浮かべて彼らに手を振り返していた。


 * * *


 あれから、両親は地下牢(ちかろう)に入れられることになった。


 女王陛下が「今後、国家機密である聖女降臨の儀の真実を公言すれば、国家反逆罪として首を()ねる」と両親に宣告したことで、全ては決着がついた。


 わたしを拉致した冒険者も、自白剤で井戸を汚染した罪で捕まり、今は地下牢にいるらしい。詳しいことは知らなくていいとウラカン様が言っていたので、気にしないことにした。


 今後、父は爵位を取り上げられ平民に戻ることになった。それでも、ウラカン様の善意で、老後を暮らせるだけの僅かばかりの生活費は支援してもらえることになった。ただし、弟はわたしとウラカン様で引き取ることになった。


 寄宿学校からの里帰りはバレンシアになる。

 弟は騎士を目指して、寄宿学校で頑張ると言っている。


 ガヤルド大司祭は布告を出した。


『宣誓

 聖女カリナは異世界人であることを教会は公認する。

 護衛騎士としてウラカン・ウィンターガルド(きょう)を任命する。

 彼女達の安寧を脅かす者は、教会への挑戦となる。

 マラネロ王国 聖大教会 大司祭ガヤルド・バティスタ』


 少し大げさすぎるとわたしは笑ったけれど、ウラカン様がこれくらいでちょうどいいと言うから、これも気にしないことにした。


 教会が宣誓書を出してしばらくしてから、王国からも布告が出された。


『布告

 マラネロ王国 聖大教会 大司祭ガヤルド・バティスタの宣誓を支持する。

 国家の威信に賭けて。

 マラネロ王国 女王エリザベス・ゾディアック・マラネロ』


 この布告にはちょっとした裏話があって、女王様があまりに震える手でサインしたものだから、王宮仕えの上級侍女たちが、なぜかバレンシアの地に向かって手を合わせ、震えながら「聖女様、お救いください」と泣き叫んだという。そんな噂があるけれど、わたしは過去のことなんて気にしていない。


 ウラカン様は病み上がりで無茶をしたせいで、実はわたしを助けてくれたあと、三日間も寝込んでしまった。おまけに、財産半分の契約書を止め忘れて、本当にファリーナ家に財産が譲渡されかかり、弁護士と銀行が大慌てする事件もあった。

 けれど、格好悪いから内緒にして欲しいと言われたので、この本に書くのはやめておこうと思う。


 このお話の続きは沢山あるけれど、それを書くにはもっと大勢の方に許可を取らなくてはいけなくなるから、この本は、夫であるウラカンにだけの秘密の本だ。


 全て古代語で書いた、普通の人には読めない、わたしとウラカン様だけの秘密の話。


 いつか、この本を読む人がいるとしたら、わたしの子供の誰かがこっそり翻訳した本だと思う。そのときは、別の話も翻訳しているかもしれない。


 ただ、今はこの本を、夫がどんな顔をして読むのか楽しみで仕方がない。

 彼の笑顔を思い浮かべながら、ペンを置くことにする。


 ――あなたの妻、カリナ・ウィンターガルドより



本作はこれで完結となります。最後までお読みいただきありがとうございました。

本作を面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価、いいねなどで応援いただけると嬉しいです。

また、作品の改善点や気になる点も、全て感想は読ませて頂いていますので、ご遠慮なくご投稿ください。

今後の活動の励みにさせていただきます。よろしくお願いいたします。

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