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1.生きるか死ぬか

 人を殺した────

 揺るぎもない事実。さっきの人間が復活するなんて有り得ないし、例え復活したとして、シオリの罪は消えたりしない。手を合わせるだとか、贖罪するとか。そんなのする気なんてない。襲ってきて負けた向こうが悪いんだから

 今は夜か……気温的に……秋かな。理由? 勘だ。ただの勘だが、この勘が外れることはあんまりない。今のところ人が襲ってきた以外に何も起きてないが、悪運が降り掛かってくると言われた以上、これから何かは起きるんだろう。


 詩織(シオリ)は自分の状況を整理することにした。苔むして割れている鏡を持ち、自分の顔を見る。

 白銀のロングヘアに紅の瞳は変わらず、デカめの白Tシャツで下のズボンは隠れている。それだけだ。探検以外に何か持っている訳でもない

 季節は日本で言う秋から冬に切り変わろうとしてるあたり……こういうのも含めて 悪運 なのだろう。

 これから寒くなるのなら、この装備は少しまずい。別にシオリは寒さに耐性がある方ではない。地球温暖化も相まって、昔の寒さは記憶の奥底に閉まってあった。なるべく早く防寒具を身につけたい所。

 適当に散策していると、玄関と思わしき場所に辿り着く。少し広めの空間に椅子がいくつか。現代日本で言う病院的な所なのだろう。

 重厚感のある木の扉を一生懸命押して扉を開けると、そこには都心じゃ絶対見られないであろう平原が広がっていた。

 奥には森が広がっており、都会の文明の喧騒とは無縁の静謐(せいひつ)で何かを感じさせるような雰囲気がしていた。きっと、誰かはこの風景に心を打たれるのだろう。ただ、シオリにはそれがお世辞にも美しく、儚い物とは思えなかった

 所詮景色は景色。それ以上でもそれ以下でもない。

 幼い頃からシオリは情意機能が他より著しく乏しかった。

 感動という言葉や意味は知っている。胸が熱くなるとか、涙を堪えるとか。ただどうしても共感だけは出来なかった。目の前の風景も〝綺麗〟なんていうものではなかった。ただの草原。それ以上でもそれ以下でもない。シオリは草原へ、足を進めた


◇◇◇


 草原は思ってたよりも広かった。歩いても景色は変わらず、ただ背の低い草が広がるのみ。森に近づいてる感覚も薄い。


◇◇◇


 どれくらい歩いたのだろうか。無意識的に森の中に入っていた。鬱蒼としており、視認性は悪い

 森の空気は草原より数段重い雰囲気だった。湿った土の匂いに腐りかけた落ち葉が混ざった匂いは都会の鼻にはどうも合わなかった

 (わだち)などがあればそれを辿って街に向かうことなどは出来そうだったが、そんなものが都合よくは無く。

 シオリはその場で立ち止まり、耳を澄ませた。近くで2人分の足音。力強く、荒々しい足音だった。

 シオリは慎重に、バレないように足音の方へ接近する。木々の隙間から一瞬、足音の正体が視認できた。

 男が2人。腰には剣、1人は右手に何か抱えてる。他にめぼしい物は無し。服の擦れ具合からして鉄じゃなくて革装備。ほぼ完璧に分かった

 シオリが男達を視認した時間はわずか3秒。その間に、シオリは男たちに目星を付けていた。シオリが息を殺して奴らの音を聞いていると、足音が止まり、何かが地面に乱雑に置かれる音がした。

「この辺なら誰もいねぇだろ」

「オラ、嬢ちゃんや。何か言いたかったら言えよ」

 少女は何も言えなかった。畏怖で埋め尽くされている頭では言葉を発するという行動すら考えることができなかった。助けを乞おうとしても喉の奥で嫌な程に引っかかる

「ケッ、なんだ何にもねぇのかよ。つまんねぇな。ま、今から死ぬやつの言葉なんてどーでもいいか」

 そう言いながら男は少女の首元に刃の切先を当てた。抵抗は出来なかった。いや、多少の抵抗はした。 ただ、少女ひとりの力は大柄な男にとっては蚊同然の力だった。

 シオリは自分の過去を掘り返す。お母さんが困ってる人は助けなさい。と言ってたような。

 少女は恐怖に溺れ、もうソレ以外見ることが出来なかった

「可哀想になぁ嬢ちゃん。ま、親を恨め。エルフなのが悪ぃんだよ」

 男がニヤッと笑った直後、2人の頭に石がぶつけられる

「「あぁん?」」

 男達は後ろを振り返る。そこには何故か不可思議で威圧感のある女がいた。右手には短剣を丸出しで持っている。そう、シオリだった

「何してんの」

 その一言から放たれるドッとした重い雰囲気に、男達は若干の怯みを見せる

「おいおい。誰だよてめぇ。邪魔しやがって」

 男の1人がイライラした様子でシオリに言葉を投げかける

「今から死ぬやつに名前を教える必要はある? 無いでしょ」

「随分と大口叩くじゃぁねぇか。そんなちゃちな剣で俺らを殺せるとでも思ってんのか? 寝言は寝てから言えよ」

 男達はシオリの言葉を本気にしなかった。シオリの装備を嘲り笑い、油断した

「てめぇなんか拳で充分だ──!」

 そう言い、男の1人が獲物を仕舞い、拳でシオリに襲いかかる。体型からは思えない程の速さ。それは シオリとの距離を縮めるには充分だった。一瞬にして距離を縮め、そこから放たれる神速の一撃。

 普通の人なら避けることすら出来ずに顔面を撃ち抜かれるのだろう。

「何ッ──!?」

 しかし、シオリは違った。あっさりと避け、男の心臓に刃を突き立てる。そして迷いなく引き戻す。シオリの後ろは一瞬にして赤色に染まった

 シオリは呆然としているもう1人の男の方にゆっくりと歩み寄る。男は腰を抜かし、恐怖で声が出せなくなっていた

「来世は、自分を律することが出来る人になれたらいいね」

 そう言い、短剣を振り上げる。直後、シオリの耳に入ったのは叫び声と言う名のノイズ。そんなの気にせずに、シオリは短剣を振り下ろした

 何か言っていた気がする。命乞いをしてたかも。けれど、殺したのならもう言葉は聞けない。

 シオリは数秒、動かなくなったモノを視界にいれていた。その後、こちらを黙って見続ける少女の方を向き、しゃがんで優しく声をかける

「嫌なもの見せちゃったね。パパとママは? 自分の名前は?」

 シオリが昔、迷子になった時にかけられた言葉。この子供も実質迷子だ。ならばこれが最適だろうとシオリの中で自己完結していた

「ぁ……ぇぇっと……」

 絞り出したような細く、弱い声。

 流石に刺激が強すぎたかな…と反省した。確かに目の前で人を殺した。シオリは特に見ても怯えはしないが、向こうは少女だ。シオリ基準で物事を考えたらダメなことくらい、少し頭を回せばわかる事だった

 先程の惨状は小さい子に見せるような物では絶対なかった

「ェ……エリス……エリスって言います!……」

 どうやらエリスと言うらしい。さっきまで小さくてまともに聞こえなかった声がはっきりとシオリの耳に届いた。

「エリス、ね。分かった。私はシオリ」

 シオリはエリスに両親、家は無いことが何となく分かった。名前しか答えないってことはそういう事なんだろう……と

 シオリは無言で死体を漁り、使えそうな物を集め、使えなさそうなものはその場で捨てた。その後、服を脱ぎ、男たちが着ていた物をいい感じに着合わせる。 シオリの身長がそこそこあったが故、あまりサイズは変わらなかった。

「エリス。街に行こう。夜は危ないから」

「え────」

 エリスは何事も無かったかのように歩いていくシオリに恐る恐る聴いた

「あ、あの……シオリさんは……魔女じゃ……ないんですか?……」

 その言葉にシオリは歩みを止める

「……私が魔女だと思うの?」

 エリスはコクリと頷いた

「どうして?」

「だ、だって……髪が……」

「……髪色が悪いの?」

「……はぃ」

 段々とエリスの言葉に自信がなくなっていくのが目に見えてわかる

「純白と……純黒の髪は……魔女だって……」

 その言葉を聞いた時、シオリは今一度自分の髪色を見直す。確かに真っ白だ。ただ髪色と魔女に因果があるとは思えない

「へぇ」

「……へぇ、って……」

「髪色で魔女かどうか決まるわけないじゃん」

「で、でも……魔女は皆そうなんです!白か黒の髪だって──」

「じゃ、もう魔女でいいよ」

「えっ……!?」

「今から髪染めるとか無理だし。別に魔女ってあだ名がつくだけでしょ」

「え……えぇぇ……」

「早く行くよ」

 エリスの心配など意に介さず、シオリは歩いていってしまった

「ま、待ってくださいぃ……!!」

 それにエリスは着いていくしか無かった。

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