究極の二択
婚約して三ヶ月後。私は予定通りジュピテール王国に嫁いだ。
怒涛のように仕事を引き継いで、お父様と親子2人でフラフラになりながらその日を迎える事になってしまったのには、クロノス様に苦い顔をされてしまったのだけど。
それでも私はニ国の民の期待を背負い、歓迎され迎えられる。
そうなるように道を引いてくれたクロノス様には感謝しかないし、私はその期待に応えなければならない。
それでも、前の私とは違って常に常に前向きに進むのはやめようと思う。
せっかくやり直してもう一度掴んだ幸せを振り返りながら、ゆっくりクロノス様と一緒に歩んでいきたいから。
◇◇◇
「ねぇジェニー……」
私を呼ぶ低く心地よい声が、意識を浮上させる。髪が頬を掠める感触と、そこはかとなく感じる違和感で重い瞼を上げた。
「やっと起きた? ちゃんと早起きしたのだから、約束は守ってもらうよ」
何の事? と思ったが。
そういえば夜型であるクロノス様に健康的な生活を送って欲しいと「私より早く起きた日には、お願い事を1つ叶えます」と約束したのだった。自分のペースを崩さないクロノス様には絶対に無理だろうと思っていたのに。
「……それよりも、何故大人の姿に変化されているのですか?」
「ん? この方が好きかと思って」
感じた違和感は、クロノス様の姿だった。結婚して数ヶ月。春に誕生日を迎えはしたがまだ13歳のはずのクロノス様のお姿が、以前一緒に暮らした時と同じ姿となっている。髪もその頃と同じ長さになっており、声も低く響く。
この姿でベッドに上がり込まれると、自分がどこの時間軸にいるのかすら寝起きの頭では分からなくなってしまう。
「大人のお姿も好きですけど、また自分に都合の良い幸せな夢でも見ているのかと勘違いしてしまいそうですわ」
「ふふ、心配しないで現実だから。その証拠に、ジェニーは今から私のお願いを聞く羽目になる」
クロノス様のお願いは、時に「私を消して欲しい」だったりするので油断ならない。
「お願いの内容にもよりますわ」
「大丈夫だ。私と一緒に風呂に入ってもらうだけだから」
うんうん、まぁそれなら全然大丈夫ね……と一瞬騙されそうになったが!
「駄目ですよ! 無理ですっ」
「……手強いな。寝ぼけている時でも無理か」
確信犯だったのですね? 本当に油断ならない……。そう思いながら体を起こして腕を上にあげ、体を伸ばす。
「しかし約束は約束だ。守ってもらうぞ」
腕をあげ無防備になっていた胴体を素早くクロノス様が抱き寄せる。
「ジェニーが言っているではないか、私の実年齢はまだ子供だと。ならばただ一緒に入るだけなのだから大丈夫であろう? なんせ子供だからな」
「外見年齢が13歳なだけで、中身は以前のままですから私も困っているのですわ」
そして私が困っているのを見て楽しんでいるクロノス様にも困っている。
「さぁジェニー、選ばせてやろう。実年齢の姿で一緒に入るのがいいか、この姿で一緒に入るのがいいか、2択だ。ジェニーらしく前向きに考えてごらん?」
「わ、私をそうやって揶揄うのはおやめください!」
そんな2択選べる訳がない! そしてクロノス様は抱き寄せていた私の額に口付けて、楽しげに笑う。
「ジェニーと一緒の毎日が楽しくて仕方がないよ。こうやって揶揄うことができる初心なジェニーのうちに存分に遊んでおかないと」
「……将来は子供の方に姿を変えて『これなら大丈夫だよね』と、逆に無垢を装うのでしょう? クロノス様のやりそうな事は想像つきます。その手には乗りませんわ。そして私は一緒にお風呂には入りません!」
変化の魔法はどんな姿にでも変化できるという。ならば大人になってから、子供の姿を取ることだって可能なはずだ。
「流石ジェニー。もう数えきれない程の年月、一緒に暮らしてきた私の妻は物分かりが良いね。子供が出来たらこんな冗談もなかなか出来なくなるから、今のうちだけだよ」
そう言いながら私の下腹部を優しく撫でる。まだ誰もいないはずのそこを愛しむようなその表情。
クロノス様だって私がかつて願った事をいつまでも覚えていてくれる、私には勿体ないくらいの人。
「それで、どちらの私と風呂に入るのがいい?」
「……だから少しは私の話も聞いてください!」
いつも読んでくださっていた皆様、ありがとうございました!今回最終回です(*´꒳`*)♡
前作より暗めな内容だったにも関わらず、無事ジェニファーがクロノス様の元に辿り着くまで読んで下さった皆様には、感謝の気持ちで一杯です。
明日2月28日からは新作が連載スタートしますので是非そちらもよろしくお願いします!