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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
Bonus Stage2 番外編

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〇〇しないと出られない部屋(リリア視点)

活動報告にあった小話を引っ越しました。こんなタイトルですが全年齢です。ご安心ください。

時系列としては、第一部終了後あたりでしょうか。

リリアと攻略対象がバチバチしています。エリザベスは出てきませんが、結局エリザベスの話しかしていません。

リリア視点です。




「全員が自慢話をして、自分以外の4人に『羨ましい』と思わせないと出られない部屋、ですか……」


 真っ白な壁、真っ白な床に真っ白な天井。

 テンプレな「出られない部屋」の中で立ち尽くしながら、壁にかかったその垂れ幕を読み上げ……わたし以外の4人を見回します。

 攻略対象の、4人を。


「自慢話って……た、たとえば、どういうことでしょう?」

「このメンバーなら、決まっているんじゃない?」


 呟いたわたしに、やたらと余裕ありげな王太子殿下が、真っ白なソファの上でゆったりと足を組み替えました。

 ちなみにロベルト殿下が相当暴れても壁も床も天井も壊れなかったので、正攻法以外の方法で外に出るのはみんな諦めムードです。


「リジーのことだよ」

「な、なるほど……?」


 妙に納得しました。

 だって、みんな恋敵であることは、分かっていますから。

 この垂れ幕に従って各自、エリ様関連の自慢話をする。それにほかのメンバーが羨ましいと思えばクリア、と、そういうことなのでしょう。


 どうしてそんな部屋に閉じ込められているのか、とか、そういうのは考えてはいけません。

 そんなことを言い出したら「乙女ゲームに転生」からして説明が必要になってしまいます。言わぬが花というやつです。


 気づいたらここにいたわけですが、さっきまでわたしが食べていた出来立てほかほかのアップルパイとかはどうなっているんでしょう。

 戻ってもほかほかのままだといいんですけど。


 とにかく、自慢話をすればいいだけなら簡単です。

 自慢ではありませんがエリ様ルートに進んだ身ですので、胸キュン展開の経験値には自信があります。まぁフラれてるんですけど。


「じ、じゃあ、わたしから!」


 ここは先手必勝、と挙手をしました。

 エリ様とのイベントのうち、やっぱりこれでしょうというのをピックアップして、堂々と発表します。


「エリ様に、ファーストダンスの相手に選んでもらいました!」

「あ、それぼくもあります」

「でええぇっ!?」


 思わずクリストファー様を振り返りました。

 クリストファー様はにこにこと可愛らしく微笑んでいます。


 この前のダンスパーティーではわたしを選んでくれたのに……完全にこの4人には勝っていると思ったのに……がらがらと自信が音を立てて崩れていきます。


 まだ学生ですから、社交界デビューはしていないはずで……ということは、わたしと会うより前に、クリストファー様をファーストダンスの相手に選んでいた時があったということで……

 何ならわたしより先の、真のファーストである可能性があるわけで……


 な、なぜ……?? 何故弟とファーストダンスを……??


 いえ、エリ様に聞いた社交界のルールとしては、未婚の女の子は兄弟のエスコートでパーティーに参加するのは割とポピュラーらしいですけど……あのエリ様が女の子側として参加しているとは思えず……


 宇宙を背負った猫の顔になりかけて、はっと我に返ります。

 ぶんぶんと首を振って、頬を叩いて気をしっかり持ちます。


 いけません。最初のカードがダメだったからといって、わたしにはまだまだ、手札があります。ずっとわたしのターンです。

 次なるカードをオープンします。


「お、お姫様抱っこで空中散歩!」

「それくらいなら私もあるよ」

「はいぃ!?」


 余裕ありげな微笑を浮かべる王太子殿下を振り向きました。

 まず何故エリ様が王太子殿下をお姫様抱っこするのでしょうか?

 そして空中散歩というくらいですから、飛んだり跳ねたりするのでしょうか?


 いえ、その図はかなり眼福ではあるのですが、それはそれとして、わたしは夢女子なので。

 頭に浮かぶめくるめく薔薇薔薇しい絵面を振り払い、気を取り直して、どんどんとリバースカードを発動します。


「落ち込んでた時、優しく励ましてくれたり!?」

「それは僕も経験している」

「み、身を挺して命の危機を救ってもらったり、とか!?」

「俺も救っていただいた」

「ガッデム!!!!!」


 思わず机を叩いて頭を抱えました。

 カードゲームだったらわたしのライフはゼロです。


 ちょっと、エリ様。

 何やってるんですか。

 ほんと何やってるんですか!?


 わたしに攻略されるために頑張ってた、とか言ってませんでした!?

 その途中で何でこんなことになってるんですか!?

 説明を要求します!! 浮気ですよ、これは!!


「じゃあ、仕切り直してぼくから」


 わたしが項垂れているのを見て、クリストファー様がすっと手を上げました。

 そして何てことないことを言うように、当たり前のことを言うように至極自然に微笑みながら、言いました。


「姉上の寝癖を見たことがあります」


 ぐ、ぐああああ!!!!


 あまりの破壊力にぶっ飛びました。心の中で。

 ライフがゼロのところに、このダイレクトアタックは間違いなくオーバーキルでした。


 寝癖!?

 エリ様に寝癖とか付くんですか!?

 いつも完璧にセットされた印象が強すぎて、というかセットされていない時でもあのさらさらストレートの髪に寝癖なんてつきそうになくて、想像ができません。


 あのエリ様が、ぴよんって髪の毛跳ねてたりすることがあるんですか!?

 み、見たすぎる……!! 見たすぎ百景認定間違いなし……!!

 そんな気の抜けた姿のエリ様を、見たことがある……ですと……!?


 う、羨ましすぎる……!!


「……一緒に住んでいるって、卑怯だよね」

「弟なのだから当然だが」

「隊長の……寝癖……??」


 わたし以外の3人はさほど取り乱さずに澄ました顔で……約1名スペキャ顔ですが……座っていましたが、部屋の中に「ピンポーン」という音が鳴り響きました。

 いわゆる「せいかいのおと」です。これは話をしたクリストファー様以外が羨ましいと思った、ということなのでしょう。


 なるほど、こういう要領で進めていけばいいんですね。


「次は僕が行こう」


 アイザック様が手を上げました。

 眼鏡をクイッとやる眼鏡キャラ御用達の仕草で勿体付けてから、アイザック様は言います。


「この眼鏡は、バートンと二人で買いに行って、選んでもらって……そして、彼女から贈ってもらったものだ」


 ひでぶっ!!!???

 身体が爆散しました。心象風景的にはそんな感じでした。


 ふ、二人でお出かけするだけに飽き足らず!?

 一緒にお買い物をして!?

 眼鏡を選んでもらい!?

 その上それをプレゼントしてもらい!?

 あまつさえそれを毎日身につけている!?


 な、何ですかそれは!! 贅沢すぎる!!

 羨ましすぎますが!?

 これからアイザック様のその眼鏡を見るたびに自慢されているような気分になるじゃないですか!!


「ぼくだって、プレゼントくらい……」

「二人で……買い物……」

「さすが、『友達』は仲がいいね」


 ピンポン、とまた音が鳴りました。

 さすがにこれはロベルト殿下にも効いたようで物悲しげにしょげています。

 まったく顔に出ない王太子殿下は流石です。笑顔の裏に冷気が出ている気はしますけども。


「ああ、贈り物といえば」


 その王太子殿下が、自然な流れで話の主導権を奪っていきました。

 優雅に足を組み替えて、傾国の微笑を湛えて言いました。


「私はリジーにドレスを贈ったことがあるよ」


 メメタァッ!?

 内心でまっぷたつにされた蛙のような悲鳴をあげてしまいました。実際砕けたのは石ですけど。


 男性から女性にドレスを贈るというのは、この世界ではほとんど求婚みたいなものだとエリ様に教わりました。

 というかそのくらいの知識は乙女ゲームにも出てきていました。

 割とグイグイ来ているなぁと思っていたのですが、まさかこの人が、そこまでしていたなんて。


 ぴんぽん、と音が鳴りました。ロベルト殿下とアイザック様が思わずと言った様子で立ち上がります。


「な、兄上!?」

「いつの間に、」

「送り返されなくてよかったですねー、ぜんっぜん伝わってないおかげで」


 一人座ったままだったクリストファー様がにっこり笑って言うと、王太子殿下との間にバチバチと火花が散ったような気がします。


 そうです。求婚まがいなことをされたはずなのに、エリ様は王太子殿下の気持ちに1ミリたりとも気づいていないようでした。

 つまりそれは、エリ様がそのドレスを「そういうもの」だとして受け取らなかったことを意味しています。


 そう思うと……羨ましいというより「何故そこまでしたのにこんなに伝わってないんだろう?」という疑問が浮かんできました。

 さすがのエリ様もそこまで鈍いわけがないんじゃないかと思うんですけど……

 それはもう分かったうえで無視されている可能性すらあるのでは……?


 しばらく王太子殿下を見つめていたクリストファー様が、ロベルト殿下にちらりと視線を送ります。


「ていうかロベルト殿下だって、ドレスを贈ってきたことありますよね?」

「……覚えていない」

「え? こ、婚約者だし、そういえば、贈り物だって」

「……分からない」


 ロベルト殿下がゆるゆると力なく首を振りました。


「全て、侍従に任せていた」


 しん、とその場が静まり返りました。

 く、雲行きが怪しいです。この後ロベルト殿下が自慢話をできるか不安になってきました。


 それはほかの3人にも伝わっていたようで、王太子殿下がちらりとわたしに視線を向けました。


「きみは?」


 問われて、考えます。

 さっき言ったような胸キュンエピソードは、誰かしらは経験しているようでした。これについては後日エリ様を問い詰めるとして。


 わたしだけが、経験していること。エリ様にしてもらったこと、エリ様としたこと、エリ様にできること。

 前世の話ができる、って言ってしまいたいところですが……前世って何、から説明しないといけません。

 それを考えてふと、思いつきました。


 そうです。わたしが、この人たちと違うところ。

 この人たちが、絶対勝てないカード。


「エリ様に、好きって言えます。恋人になってくださいって言えます。いつでも、何回でも」

「…………」


 まっすぐに前を向いて言うと、みんなが口を噤みました。

 ピンポン、と響く音に、ちょっとだけ溜飲が下がった気持ちになります。


 そうです。この中でわたしだけが……エリ様に、ちゃんと伝えているのです。


 たとえその結果、フラれていたとしても。

 立場とか、身分とか、関係性とか。

 そんなものを言い訳にしないで、伝えられる。


 きっとこの人たちには、ないものですから。


「ロベルト」


 しばらく黙っていた王太子殿下が、口火を切りました。


「最後はきみだよ」

「え、あの……」


 ロベルト殿下はおろおろと視線を彷徨わせて、そして困ったように眉を下げました。


「それが……先ほどから、考えていたのですが……なかなか難しく」

「え?」


 しょんぼり俯いたそのつむじに、わたしは首を傾げます。


 だってロベルト殿下には、ほかのメンバーが持っていないカードがあるじゃないですか。

 それこそチート級の、禁止カードと言っていいくらいの、約束された勝利のカードが。


「そ、そんなの、婚約してたことがある、で一発じゃないですか?」


 そう言いましたが、ピンポンは鳴りません。

 どうしてでしょう。わたしは、羨ましいんですけど。

 だって絶対……わたしには出来ないことですもん。


 不思議に思って他の3人を見ると、すーっと視線を逸らされました。


「婚約自体は羨ましいけど……ねぇ」

「とても羨むような関係性ではなかったな」

「破棄される婚約はちょっと……」

「どういう婚約者生活だったんですか???」


 思わず疑問が口をついて出ました。


 いえ、さっきの贈り物とかドレスのくだりでちょっとは推して知るべし、と言う感じはありますが。

 それでもまさか、皆に口を揃えて言われるほどだとは思っていなかったので、わたしまでおろおろしてしまいます。


 ロベルト殿下は雨でお散歩に連れて行ってもらえなかった犬のように、悲しげに項垂れました。


「隊長は誰にも平等にやさしい方だ。俺だけが特別、ということなど……何も、ないのかもしれない」

「きみはリジーを美化しすぎだと思うけれど」


 王太子殿下がぽつりとフォロー(?)を入れました。

 それにはわたしも同意です。エリ様は確かにやさしいところもありますけど、人の心がないときも結構ありますし……特にクリストファー様以外の攻略対象のみなさんには割と塩な感じしますし……誰にも平等、とかのタイプではない気がします。


「出られないのは困る。何かあるだろう」

「そうですよ。些細なことでもいいですから」

「う、うーん……」


 アイザック様とクリストファー様にもやさしい(?)言葉を掛けられて、ロベルト殿下が頭を抱えて唸ります。


 そうなのです。ロベルト殿下が何か見つけてくれないと、出られません。

 そしてこんな「部屋」があるくらいなので、きっと何かしら、正解があるはずなのです。


 もともと出られないようなら出題側にミスがあることになってしまいます。

 素人が作った脱出ゲームじゃあるまいし、さすがにそんなことはないでしょう。


 わたしもうんうんと頭を捻って、ふと思いつきました。


「あ、あの、訓練場でのこととか、どうでしょうか!?」

「訓練場……?」

「隊長? のエリ様のことよく知ってるのは、この中ではロベルト殿下だけですし! ロベルト殿下や訓練場の人には当たり前でも、わたしたちからしたら羨ましいことも、ある、かも、とか……」


 ロベルト殿下が胡乱げな瞳で私を見ました。

 威圧感のある身体付きのロベルト殿下に見下ろされていると、どんどん語尾が萎んでいきます。


「す、すみません黙ります」

「訓練場……蛆虫……腕立て……」


 撤回しようとしましたが、ロベルト殿下は真剣な顔でぶつぶつ呟いています。

 今のところ出てきたワードには特に羨ましいものはないのですが、大丈夫でしょうか。

 蛆虫を羨ましいと思わせるのは相当高難易度だと思います。


「……あ」


 はっと顔を上げたロベルト殿下が、ぽんと手を打ちました。


「隊長の手料理を食べたことがあります!!」

「え?」


 え?????


 その場の全員の声が重なりました。

 手料理? エリ様の??


 いえ、時代は多様性ですから? 女の子はお料理上手♪ 手料理こそ至高♪ みたいなことを言うつもりは全然ない、のですが。


 エリ様と手料理、というワードの距離があまりに遠すぎて、距離で言うとミシンとこうもり傘くらいに開いていて、二つが並ぶことの違和感がものすごいです。


 エリ様の、手料理……??

 それは何というか、こう……0か100か、みたいな感じ、しませんか?


 ぴんぽん、と音がします。

 ふっと白い部屋が消え失せて……いつのまにか、わたしたちは生徒会室にいました。

 どうやら「出られない部屋」から出ることに成功したようです。


 が、そんな不思議現象よりも、わたしたちには気になることがありました。


「!? い、いつのまに、生徒会室に!?」

「そんなことより、ロベルト」


 不思議そうに辺りを見回すロベルト殿下に、代表して王太子殿下が尋ねます。


「味は?」

「はい?」

「どうだったの?」


 ロベルト殿下はしばらくぱちぱちと目を瞬いて、そして元気よく返事をしました。


「魚と塩の味がしました!」


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― 新着の感想 ―
ロベルトのエリ様関連の引き出し沢山ありそうなんだけど、ロベルト自体が当たり前のように受け取ってて気付かない感じかな〜?
よ、良かった〜料理の詳細を聞く前で……
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