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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
Bonus Stage2 番外編

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IF後日談 Side:クリストファー

みなさま、たいへんお待たせしております

IF後日談をお届けいたします。


時系列は偽物編終了後、リチャードたちが国に帰ったあとです。

マルチエンディング的な、IF世界線のお話なので、それぞれ世界線はバラバラです。その点お含みおきください。


今回はクリストファーの後日談です。

 鏡の前に立つ。

 髪よし、顔面よし、身長よし、筋肉よし。

 今日も今日とて盛れている。


 この制服に袖を通すのも今日で最後かと思うと、何となく感慨深い。

 卒業できて、本当によかった。

 正直3割くらい卒業できないんじゃないかと思っていた。

 それもこれも、尽力してくれたアイザックやお兄様、クリストファーのおかげだ。


 支度を終えて、自室を出る。

 エントランスに向かう途中の廊下で、クリストファーが壁にもたれて待っていた。

 私の姿を見つけるとこちらに駆け寄ってきて、上目遣いでこちらを見上げ、はにかんだ。


「姉上、卒業おめでとうございます」

「ありがとう。君やアイザックに助けてもらったおかげだよ」

「もう。おかげでぼくまで卒業できそうな気分ですよ」

「まだ一年あるだろ」


 くしゃくしゃと頭を撫でてやると、クリストファーがくすぐったそうに笑った。

 まぁ、クリストファーは私と違って勉強の出来がいい。卒業についての心配は必要ないだろう。

 二人で連れ立って馬車に乗り、学園に向かう。


「あの、姉上」


 窓の外を眺めていると、クリストファーが私を呼んだ。

 振り向けば、隣に座って遠慮がちにこちらを見上げるはちみつ色の瞳と目が合った。


「第二ボタン、くれませんか?」


 その言葉に、目を瞬く。

 日本産乙女ゲームの世界だけあって、この世界でも卒業式に「第二ボタンをください」と頼む文化がある。

 ほぼイコールで告白のようなものだが、そこに「付き合ってください!」が絡むかというとそうでもない。


 この2年散々ボタンをむしられ続けた挙句誰一人とも交際していない私がいうのだから間違いない。

 突き詰めればみんな、憧れた相手から思い出の品がほしいだけなのだ。


 しかしなぜ第二ボタンなのかというのを紐解くと、一番心臓に近い位置にあるボタンだから、という説が有力らしい。

 そりゃあ日本の学ランにおいては第二ボタンあたりが一番心臓に近いだろうが、今私たちが身につけているのはブレザーである。

 この場合最も心臓に近いのは第一ボタンだろう。


 なんならブレザーの内側にベストも着ているから、単純な距離で言えばベストのボタンの方が心臓から近い。

 だがベストのボタンは特に飾りボタン等ではなく一般的なものなので、これを渡したとしても味気ないという気分も分かる。


 なお私はこの2年ほどボタンというボタンを毟られているので「第二がないなら第三で」「それもないならベストのボタンで」という現象も発生しており、そこで得た知見としては「究極もらえればなんでもいい」というものだ。

 昨年はベルトまで毟られるところだった。脱げるのでやめてほしい。


 どうせ誰かに毟られるのだから、今渡してしまっても差し支えないだろう。そう判断して、外したボタンをクリストファーに手渡す。


 今回は正真正銘の卒業だ、ボタンどころかジャケット丸ごとなくなったとしても侍女長も怒るまい。むしろ卒業できたことを喜んでほしいものだ。

 

「えへへ」


 クリストファーが嬉しそうにはにかむ。


「ずる、しちゃいました」

「ズル?」

「まだ卒業式、始まってないのに」

「別にこれ、ルールはないと思うけどね」


 私よりもよほど真面目なところのある弟に、思わず笑ってしまった。

 別によーいどんで取り合いしなければならないというものでもないだろうに、そういうところが気になるのか。


 私が笑っているのが不満だったのか、クリストファーは頬を膨らませてこちらを睨む。

 そんなことをしても可愛いだけである。

 もう、と拗ねたように小さく息をついたクリストファーが、そのままぽつりと、独り言のように言った。


「でも、いいんです」


 クリストファーは手の中の第二ボタンに視線を落としながら、呟く。


「ぼく、ずるくってもいいんですよ」


 何となく、クリストファーの声音が普段よりも真剣な気がして、不思議に思う。

 まぁ、彼もなかなかブラコンでシスコンだ。思い出の品が一番先にもらえて嬉しかったと、そういう意味なんだろう。

 私としても、義弟にそう思ってもらえているのは悪くない。


 大切そうにボタンを握る姿を微笑ましく見守り……そうになって、ほんのかすかな、違和感が頭を掠めた。

 今までだったら「愛い奴め」で流していたような、わずかなものだ。


 クリストファーは何故、私の「第二ボタン」がほしいのだろう。


 先ほど思い浮かべたとおり、この世界での「第二ボタンください!」も、前世の日本と似たような意味を持つ。

 何か思い出の品がほしいにしたって、第二ボタンである必要はないはずだ。


 ジャケットだってタイだってペンだっていいはずで、その上クリストファーは私が卒業しようがどうなろうが、毎日顔を合わせる。

 その状態で、何故わざわざ、第二ボタンが欲しいのだろう。


 リチャードがあのとき……「兄弟はやめとけ」とか、言っていたのが、引っ掛かった。

 その言葉が、私にほんの少しだけ、違和感を覚えさせたのだ。


 あの時はてっきり私がお兄様を手籠にする危険なブラコンだと思っているのかと思ったのだが……もし、そうではなかったら?

 リチャードの言葉の意味が、もしも。

 クリストファーを意図しての、ものだったら。


 私とクリストファーは、仲の良い姉弟だと思う。どちらかというと懐かれているし、私も彼を甘やかしている、気がする。

 学園でもしょっちゅう私のクラスに来ていたし、オフの日はお兄様と三人で過ごすことも多い。お兄様がいないときには、二人で出かけたりもする。


 前世の薄い記憶を探ってみる。

 高校生の姉弟というのは、――普通こんなに、仲がいいものか?


 最近はすっかり気にすることもなくなっていたが――彼と私は、血のつながりがない。

 もし、そこに。

 家族の情以上のものが、あるとしたら?

 もし、クリストファーが、私のことを……


 私が何を考えているかなど知る由もなく、クリストファーはふふっと悪戯っぽく笑った。


「第二ボタンがほしいって言ったら、もらえるし」

「そりゃ、あげるけど」

「こうやって一緒の馬車で並んで座って、学園に行って」


 咄嗟にクリストファーの横顔を見つめる。

 そういえば、何故クリストファーはいつも隣に座るのだろう。

 向かいの席が、空いているのに。


 普段だったら気にも留めないはずの事柄が、何故か一つ一つ、妙に引っ掛かる。


「一緒にご飯を食べたり、お茶をしたり、話したり……頭を撫でてくれたり」


 隣のクリストファーの肩が、私の肩に触れている。

 その身体はいつもあたたかくて、小動物のようで、子どものようで。

 きっとクリストファーの頬が赤いのも、体温が高いから……か?


「最初は、ぼくが弟じゃなかったらって、そう思う時もありましたけど。……でも、今は……そういうの、家族だからこその、ぼくだけの特権だって知ってますから。だから、ずるくってもいいんです」


 クリストファーがこちらを見上げる。

 はちみつ色の瞳と目が合って――その瞳が、ふわりと細められた。


「姉上の家族でよかったって、そう思うんです」

「クリストファー……」


 クリストファーの言葉に、不覚にもじんときて――そして、一瞬でも妙なことを考えてしまったことを後悔した。


 ほんの子どもだった頃のクリストファーの姿を思い出し、その成長をじんわりと噛み締める。

 家に来たばかりの頃は私のことを怖がっている様子だったのに、そんなこと、今の今まで忘れていた。


 彼はすっかり、私の家族になった。バートン公爵家の一員になった。

 何なら私よりもよほど、家族に馴染んでいるくらいだ。


 何が「私のこと好きなのかも?」だ。そりゃあ好きに決まっている。何と言っても私の大事な弟なのだ。

 私なりに可愛がっているし、お兄様と三人、仲の良い兄弟だ。

 家族としての愛情。それがあって当然だ。


 やれやれ、リチャードが妙なことを言うものだから変に意識してしまったではないか。

 これは今度、文句の一つも言ってやらないと。


「大きくなったね、クリストファー」

「……そうですよ」


 感慨を声に出すと、彼がにーっと、白い歯を見せて笑う。


「ぼく、大きくなったんです」


 その姿はどこか、私に似ていて……うちの弟が女たらしに育ったら、私のせいかもな、と思った。


 馬車が止まる。話している間に学園についたらしい。

 御者が開けたドアから先に降りて、後ろを振り向いた。

 後から降りてくるクリストファーに向かって、手を差し伸べる。


「ねぇ、先輩」


 クリストファーが私の手を借りる……どころか、勢いよく私の胸に飛び込んできた。

 咄嗟にその身体を抱き留める。


 至近距離で、ふわふわのストロベリーブロンドが揺れた。

 甘い香りとよく似合うはちみつ色が、視界に広がる。

 長いまつ毛、大きな瞳、そして。


 やわらかなものが、唇に触れた。


「油断してもらえるのも――ぼくだけの特権にしてね?」


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