閑話 エリザベス視点(1)
大変お待たせしました!
天下一武道会編の閑話、エリザベスが北の国に行っている間にみんなの夢に会いに行く話です。
時系列としては第2部 第7章 天下一武道会編の「31.任されましたよ、エリ様。(リリア視点)」あたりまでの内容を含みます。
いつもほど底抜けには明るくない話になるかと思いますので、大丈夫な方だけどうぞ。
好感度初期値の対応をするみんなと、恋愛とかではないけどそれなりにみんなとの思い出は大事にしてるエリザベスをお楽しみください、ということで、ひとつ。
「今話してた子、恋人?」
そう問いかけられて、目を瞬いた。
何だかんだと一緒にいるが、最近はその類の勘違いをされることはほとんどなかったので、逆に新鮮だ。
苦笑しながら答える。
「まさか。友達」
「信頼してるんだ」
「同郷だから。それなりにね」
「あの子、絶対エリザベスのこと好きよねぇ」
「はは」
姫巫女様の興味津々と言わんばかりの視線を笑ってかわす。
私としては早く次に行って欲しいのだが、どうにもなかなか諦めてはくれないらしい。
今回はそれで助かった部分もあるので、まぁ少しくらいはこのままで我慢してやろう。
「それで? 次は誰の夢に行く? さっき話してた、聖なる力があるもう一人の子のところ?」
「いや、レイは最後にしようかな」
顎に手を当てて、思案する。
この国では「巫女」と呼ばれている存在の彼女は、リリアの使う聖女の力のうちで「祈り」に特化した能力を持っていた。
ロイラバ2では無印の聖女であるところのリリアが勇者候補の夢枕に立っていたりしたが、それはこの祈りの進化系である。お告げというと確かに神がかりというか、巫女的なものが近いのかもしれない。
その他悪い気を払ったりなども出来るそうだが、それは「聖女の祈り」に近いエフェクトがあるものの、回復魔法のような効果はない。
この国の王族であることも相まって皆に「姫巫女様」と呼ばれているので、私も真似している。
彼女は双子であり、彼女の片割れは魅了の上位互換、「認識阻害」の方に特化した能力を持っているらしい。
この国では、聖女というのはもともと「祈り」と「魅了」の力のうちどちらかを持つものだとして扱われているらしかった。
我が国の聖女も、レイはどちらというと認識阻害特化型である。
主人公のリリアが、たまたま主人公補正で全ての力を持ってしまっているだけなのかもしれない。リリアいわく「現実を捻じ曲げる」力だそうだしな。
片割れの巫女は、今ここにはいない。
怨霊に取り憑かれて行方知れずになってしまっているからだ。
姫巫女様は、悪霊を祓って片割れを連れ戻すためにここにいる。
遭難したところを助けてもらった集落で、利害の一致する協力者に出会えたのは、私にとって都合の良い偶然だった。
姫巫女様によると、私のことを、みんなが忘れている。
それによってディアグランツ王国と私との繋がりが希薄になっているらしい。
それが行き過ぎると、私と言う存在が締め出される可能性があるとか、なんとか。
最終的には私自身も自分がどこから来たのか分からなくなって、このまま北の国から帰れない、とか、そういうことになるらしい。
それが認識阻害のさらなる上位互換、認識改変というものらしかった。
インフレが甚だしい。往年のソシャゲかよと言いたくなる。
認識阻害が解けて私のことを思い出した人間が増えると、それだけ私とあの国との繋がりが強化される。
可能性があるなら、多くの人に私の存在を思い出してもらったほうがいい。そうすれば認識改変を食い止められる。
それが姫巫女様の話だった。
そういうことなので、おそらく誰も私のことを覚えていないだろうが、一応姫巫女様の力を借りて、家族や友人の夢を訪ねてみるつもりだった。
だがもし、本当に誰も覚えていなかったらさすがに骨折り損すぎてがっくりきてしまう。
だから、レイは最後に取っておきたかった。主に私の精神衛生上の問題だ。
片割れの巫女の行方を追いながら、夜には夢を通じて知り合いたちに働きかける。
そうして私自身をこの世界に繋ぎ止めておいて……巫女を捕まえた暁には、悪霊を叩き原因を断つ。これで万事解決に至る見込みであった。
さて、誰の夢を訪問しようか。
そう考えて、最初に頭に浮かんだ人物の名前を、姫巫女様に伝えた。
◇ ◇ ◇
白い部屋、ぽつんと置かれた机と椅子。
眼鏡の隣人がまじめくさった顔で机に向かっているのを眺める。
ふむ。リリアの時は私が「画面の中」にいたようだが、アイザックの場合はこうなるのか。
まるで彫刻のような見事なEラインを眺めていると、視線に気づいた彼がふっとこちらを向いた。
「やぁ、アイザック」
片手を上げてアイザックに挨拶をする。
彼は一瞬目を見開いたが、見る見るうちに眉間に皺を寄せて、怪訝そうな表情になった。
そしてふいと私から視線を逸らすと、手元の教科書に向き直ってしまう。
「おいおい、無視するなよ」
「……初対面でファーストネームを呼び捨てにするような人間とは関わりたくない」
つんとそっぽを向くアイザック。
私のことを覚えていないのは予想通りだが、何故だろう。初対面の時より態度が悪い気がする。
いや彼との初対面は相当前まで遡るので記憶が曖昧になっている可能性はあるが、少なくとも「名前で呼ぶな」と怒られたことはなかった、ような。
「じゃあなんて呼べばいいんだよ」
「呼ぶ必要がない」
取り付く島もない。
思い出させるためのとっかかりを探るべく、つんと澄ました顔で私を無視する彼に、話しかける。
「君さ。もう3年生だろ」
「それがどうした」
「これまで3年間ずーっと、君の隣に座ってたやつ。誰だか思い出せる?」
アイザックが眉間に皺を寄せたまま固まった。
そしてわずかに視線を泳がせた後、手元の教科書からは目を逸らさずに答える。
「…………いや、覚えていない」
「私なんだけど」
アイザックがこちらを見た。
そして怪訝そうに私を睨んで呟く。
「お前のように馴れ馴れしいやつがいたら嫌でも覚えている」
「いちいち引っかかる言い方するなぁ」
思わず苦笑してしまった。
だが彼も何か「違和感」はあるようで、先ほどよりも私の話を聞こうという意識が感じられる、気がする。
それはそうだ。頭が良くて記憶力もいいはずの彼が、隣の席に誰が座っていたか思い出せないのだ。
何かが妙だと思っても不思議はない。
「君、リリアと仲がいいだろ」
「……仲が……良い……??」
宇宙猫じみた顔をするアイザック。
私に付きまとう姿を見ているから好感度が下がっているだけで、そこを差し引けば一緒に行動している時間としては長いのだからある程度好感度が上がっているのではと思ったが……話はそう簡単ではないらしい。
ますます意味がわからないという顔をする彼の視線を、肩を竦めていなす。
「一緒によく勉強会したりさ」
「それは、……しているが」
「その時、リリアと、ロベルトと……もう一人、いなかった?」
「…………?」
やはり思い出すのは簡単なことではないようだ。
まぁいいやと肩を竦めて、話を変える。
「なぁ、アイザック」
「だから、馴れ馴れしいぞ」
「君って、リリアのこと好きなのか?」
私の言葉に、アイザックがわずかに目を見開いた。
そして忌々しげにため息をつく。
「……ダグラスの取り巻きか」
「はは、新鮮な呼び方だ」
普段の彼からは考えられない言葉に、笑ってしまう。
やはりというか何というか、乙女ゲームの本筋から見ればリリアの方に取り巻き――それも見目麗しいイケメンたちの取り巻き――がいるのが正しい世界線なのだろう。
実際のところ、友の会のご令嬢たちからすればリリアの方が私の「取り巻き」なのだろうから、ずいぶんと遠いところまで来たものだ。
アイザックが気分を害したように、首を振る。
「安心しろ。僕はダグラスには興味がない」
「じゃあ誰になら興味があるんだ?」
「…………僕は、」
アイザックが何かを言いかけて、口をつぐんだ。
数秒黙った後で、例の眼鏡キャラらしいポーズでご自慢の眼鏡の位置を調整しながら、ふんと鼻を鳴らす。
「お前には関係ない」
「冷たいなぁ。家庭教師の先生への淡い初恋とか、そういう話くらい聞いてやるのに」
「何の話だ」
アイザックが再び眉間の皺を深めて、言う。
「僕の初恋は、もっと……」
そこまで言いかけて、彼はまた黙った。
もっと、何なのだろう。
彼の瞳を覗き込むと、じろりと迷惑そうに睨まれた。
「……早く帰れ」
「何だよ、つれないな」
「うるさいぞ」
ぴしゃりと跳ね除けられる。
ふむ。やはり何となく、初対面……この場合は学園での初対面のときだが……よりも対応が冷ややかな気がする。
今となってはただの世話焼きの隣人だが、もともとゲームでは人当たりがいい方ではなかった。
はて、私はどうやって彼と親しくなったのだったか。
「あ、そうだ」
そこまで考えて、思い出した。
席を立つと、彼の腕を引いて立ち上がらせる。
「踊ったら思い出すかな?」
「なっ、は、離せ!!」
「いいからいいから」
彼の腰に手を回してポジションを取り、ステップを開始する。
彼は訳がわからないといった顔をしているが、身体は覚えているのだろう。
彼の意思に反して、滑らかに足が動いていた。
「何故僕が女性側なんだ!?」
彼の疑問に、ふっと口元が緩む。
そんな疑問、久しぶりに聞いたな。それこそ最初の時くらいじゃないだろうか。
「その割には、ずいぶん慣れてるみたいだけど?」
「ぐ…………」
アイザックがまた私を睨んだ。
だが彼自身も、やはり違和感に気づいているのだろう。
スムーズに動く足に。勝手に私に体重を預ける身体に。
本人が一番、戸惑っているようだった。
「……上手くなったよな」
「……何がだ」
「ダンス」
くるりと彼を腕の下で回らせながら、呟く。
彼は不思議そうに、レンズの奥の瞳を白黒させていた。
「まぁ最初から、練習量は足りてたけどね。君は努力家だから」
「……お前に何が分かる」
「分かるよ」
一通り踊ったところで、アイザックの手を離した。
そうだろうと予測はしていたが……自分のことを覚えていない知り合いと話すと言うのは、それなりにメンタルにくる。
これを繰り返すのかと思うと、少々憂鬱になった。
ぽかんとしているアイザックに、つい苦笑が漏れる。
「親友だろ」
そう答えたところで、夢が終わった。





