16.印籠
今日は成人の日ですね。
新成人の皆様おめでとうございます!
そして新成人の保護者の皆様もおめでとうございます!
僕の可愛いリジーへ。
君が西の国で無茶をするんじゃないかと心配で、クリストファーに頼んで手紙を持って行ってもらうことにしました。
僕のせいで君やクリストファーに何かあったらと思うと、ご飯も喉を通りません。
本当は、今にでも引き返してほしいくらいです。せめて、危険なことだけはしないでいて。
でも、君は僕に怒っているので、僕の言うことを聞いてくれないかもしれない。
だから保険として、リジーがお友達に知られたら恥ずかしがりそうな、可愛いエピソードを書いておこうと思います。
あれはリジーが4歳のとき。泣きながら僕の部屋に飛び込んで来たことがありましたね。
いつも毅然としている侍女長がおろおろしていたので、よく覚えています。
どうしたのって聞いたら、お兄様と結婚できないって、本当? って聞かれて。
よく分からずにうん、って答えてしまったら、君はまたわんわん泣き出してしまって。
侍女長に聞いたら、何かの拍子に兄妹は結婚できないことを知って、泣き出してしまったのだと言われました。
普段君はぜんぜん泣かない子だったから、もう侍女長も慌ててしまって、僕のところに行くという君を止められなかったみたい。
僕も一緒になっておろおろするばかりで、君は全然泣き止まなくて。
最後にはお兄様と結婚できるように、よそのおうちの子になる! って言い出して。
今思うととっても可愛いけど、そのときは僕もリジーがよその子になってしまうなんて考えられなくて、すごくショックでした。
結婚できなくてもずっと一緒だよって宥めて、何とか君も分かってくれて。
泣き疲れた君は結局、僕にしがみついて寝てしまいましたね。
涙の跡が残った顔で眠る君の寝顔に、どうしてかわからないけれど……ああ、僕はリジーのお兄ちゃんでよかったなぁと胸があったかくなったのを覚えています。
あの頃も、今も、君は僕にとって、世界で一番可愛い妹です。
だからどうか、無茶なことはしないでね。早く帰ってきてくれると嬉しいです。
ごめんね。君はぜったい恥ずかしがるだろうから、僕も本当はこんなことをしたくなかったんだけれど……僕を置いていったこと、僕もちょっと怒っているんだ。
クリストファーには、君が無茶なことをするたびに1通ずつ開けてもらうよう頼んであります。それを念頭に置いて、行動してください。
まさか弟の荷物を漁るようなことはしないよね?
他の手紙が開封されないことを祈りつつ。
フレデリックより。
○ ○ ○
「…………」
「…………」
「…………」
3人が黙って私を見ている。私は額を押さえて俯いた。
長く細く息を吐く。
さすがお兄様。私が嫌がることをよく理解している。
こちらは思春期である。幼少期の微笑ましいエピソードを友達に知られるというのは、恥以外の何物でもない。
世の中には「大きくなったらお兄ちゃんと結婚する~!」と言って許されるキャラクターと許されないキャラクターがいる。
私は間違いなく後者だ。そういうキャラでは売っていない。
もちろん私がエリザベス・バートンになる前の出来事だが、私の身体には確かにそれが、自身の記憶としてしっかりと刻まれている。
結論、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「姉上……」
「忘れて。以上。この話は終わりだ」
何か言おうとしたクリストファーの言葉を食い気味に遮った。
どんな慰めの言葉をかけられても逆効果だ。頼むからそっとしておいてほしい。そして出来たら忘れてほしい。
良い感じに頭を叩いたら忘れてくれないものだろうか。
叩くことで狙った記憶を削除できる秘孔を知っていたら間違いなく突いている。
自分で「この話は終わり」と言ったのだから、いつまでも引きずっているわけにはいかない。
下手に蒸し返されないためにも、ポーズだけでも「さほど応えていませんよ」という顔をしておかなくては。
……手遅れな気もするが。
何とかしてポーカーフェイスを保ちつつ、顔を上げた。
そして、クリストファーに呼びかける。
「行くよ、クリストファー」
「え?」
「連れて行くから。準備して」
「! はいっ!」
ぱっと表情を明るくしたクリストファーが、装備を取りに馬車へと走っていった。
クリストファーも騎士団候補生として訓練場に通っているが、その腕前は平均的なものだ。
正直なところ実戦で通用するレベルではない。近衛の騎士と取り換えて、馬車の守りに当たってもらった方がまだ使えるだろう。
まぁ、本来貴族の剣の腕など大半がその程度である。最悪足手まといが1人なら背負って走ればいい。
拠点に戻ればリリアもいることだし、何とでもする。
「……すごい効果だ」
「印籠……」
殿下とリリアの呟きが聞こえてきたが、黙殺した。





