21話
ラーメンを食べ終わった後、久良持さんは酒も飲んでいたのでベロベロに酔っぱらってしまい、僕と稟堂で抱えながら部屋へと戻った。
そして翌日である今日も稟堂とアルバイト探しをすることになった。
この辺りは、駅も近いのでコンビニも集中している。
「何のバイトするのか決めたの?」
稟堂は僕に話しかけてくる。
「何度も言っているだろ。僕は働けるならどこでも良いんだ。高校も卒業したから、深夜にも働けるわけだしさ」
「じゃあ、時給の高いコンビニにする?」
働けるのなら本当にどこでも良いのだが、前も言ったようにこの周辺となると、バイトをやめた後に入れなくなると思うと遠めの場所の方が良いだろう。
「あ、そうだ。履歴書買った百円のものしか売っていないあの店は? あそこじゃなくても、あの大きい建物ならお店、たくさんあったじゃん!」
彼女の言う通りだ。オゾンの中なら、何かしら働ける場所があるかもしれない。
「そうだな、もう一度オゾンへ行ってみよう」
オゾンへの行き方は昨晩、久良持さんが歩いていた道を歩いたので、五分程で着いた。
裏口から入ろうとすると、稟堂は声を上げる
「レイセン! ここから入っちゃダメだよ! 前から入らないと」
「ああ、別にどこから入っても良いんだよ。しかも、百円ショップはこっちの方が近いからな」
稟堂の方を見ると、妙にムスっとしていた。
「何だ? 何か不満でもあるのか?」
「だって、裏から入るとゲームセンターが……あっ」
本音をポロリと言った。ゲームセンターが目的だったか。
「ち、違うのっ! ゲームセンターの……あっ! そう、ゲームセンターのアルバイトも募集している かもしれないじゃない? ええっとね、それでゲームセンター側から入ろうって」
ジッと僕の目を見て話している稟堂を僕もジッと見つめてから言う。
「……入らないけどな」
「ええっ!?」
悲しんでいる稟堂を放っておいて、僕はオゾンを裏口から入る。あまり入ったことがないので、少しだけ新鮮な気持ちになる。
「ね~! レイセンってば~、ゲームのところもバイト募集してるかもしれないって~、行くだけ行ってみようよ~」
ずっと横で駄々をこねている稟堂を無視して、二階にある百円ショップへと向かう。
二階に着くと稟堂は声を大にして言い放った。
「じゃあ、私、ゲームセンターのアルバイト募集してるか見てくるね!」
「おい、稟堂!」
僕の掛け声も無視して全力でゲームセンターの方へ走って行った。
百円ショップへ入って、アルバイト募集の広告を見つけた。時給は……そこまで高くないな。まあ、保留と言ったところだ。
そのようなことを思っていると背後から話しかけられた。
「玲泉……?」
後ろを振り向くと、メガネをかけた男がいた。
誰だろうとは思わなかった。すぐに誰なのか分かった。僕の、お父さんだ。
「……お父さん」
「おお、やっぱり玲泉か。こんなところで会うとはな」
平日なのに何故私服なのか。真っ先に気になったのはそこだった。
「一人なのか? お母さんは元気か?」
一気に二つも質問されると、返事が面倒だ。
「ええっと。友達と二人で来たけど、友達は今ゲームセンターにいるよ。あと、お母さんも、元気……だよ」
「そうか」
えっ? 反応薄くないか? 何で聞いたんだよ。仕方ない、こっちから質問するか。
「お父さんは、何でこんな真昼間にこんなところにいるの? 仕事は?」
言った直後に、僕はやはりこの人の息子なんだなと思った。
「仕事は今日休みだから、仕事に使うノートとかペンをな。玲泉は何しに来たんだ?」
「ええーっと……」
アルバイトの募集広告を見に来ただけなんて言うとまた面倒な説明しなければいけない。話をはぐらかさなければ。
「べ、別に? ただ、こんなところに百円ショップあるんだって思って来ただけだよ」
「そうなのか。なあ、この後何か予定はあるのか?」
「え?」
いきなり真面目な声色で僕にそう聞いてくる。バイト探しだけだから、別に予定はないが。
「予定は特にないよ」
「久々に会ったんだ。どうだ、一緒にご飯でも食わないか? 友達もいるのなら、友達も一緒に誘えば良いからさ」
何を話すのか分からない。「僕」ではなく、「稟堂」が、だ。
「ちょっと、友達に話してくるよ。お父さんはそこで待ってて」
指をさす方向にはベンチとテーブルがある。返事も聞かないで、僕は稟堂と同じくらいの速さでゲームセンターへと駆け出す。
ここは稟堂に先にコフタロンに戻ってもらうか、久良持さんのところに戻ってもらおう。
ゲームセンターに着くと、稟堂がいそうなトレーディングアーケードカードゲームの場所へ向かった。
いるのは、大人と子供だけだった。稟堂はいない。
メダルゲームの場所にも、プリクラの場所にもいない。そうなると、残るはクレーンゲームだ。
クレーンゲームの方へ行くと、稟堂はいた。……地面に這いつくばって。
「……何してんだ?」
「あっ、レイセン! さっき誰かここに百円落としてたのを……ね! 取ろうと……」
クレーンゲームの下に手を伸ばしている稟堂を白い目で見ている人がたくさんいる。僕はあわてて彼女に事情を説明する。
「ああ、あのさ稟堂、あとでゲームやらせてやるから、ちょっと話を聞いてくれないか?」
「何っ!?」
スクっと立ち上がり、僕の方を見てくる。
「ええっと、僕、ちょっと急用が出来たんだ。だから、先にコフタロン戻ったり、久良持さんのところへ行っていてくれないか?」
稟堂は無表情で僕に綺麗な手を見せてくる。
「何だこの手?」
「お金」
何を言い出すのかと思ったら、いきなり現金をせびるとは。だが、話を切り出したのは僕だ。稟堂もあれほどゲームをやりたいと言っていたのだ。
「分かった。じゃあ、二千円渡すから、満足したらコフタロンに戻るなりしていろよ! なるべく早めに戻るから!」
財布から千円札二枚を稟堂に渡し、返事を聞かないで百円ショップの場所へと戻る。
百円ショップの前に戻ると、ベンチで父親は携帯を触っていた。
「あれ? 友達はどうしたんだ?」
僕を見つけると、携帯を閉じてそう言った。
「友達は帰るってさ。だから、僕だけだよ」
「そうか。まあ、とりあえず車へ行こう。何か食いたいものとかあるか?」
「別にないよ。お父さんに任せる」
そう言って、僕とお父さん、正確には離婚をしているので、「元」お父さんは階段をおりた。
つづく
話は終わらせましたが、どうしても書いておきたい部分もあったので、この話を書かせてもらいます。
一応、父親についてはこの運命ドミネーションが世に本となって出版されたら二巻に登場させる予定だったのです。
今思うと、これが原因で出版社二社に落ちたのだと思います。一社は違いますが。
編集+誤字訂正しました。 4/17
誤字訂正 5/16




