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とある喫茶店の平穏とは言えない日常  作者: 井平カイ
想い出と後悔の境界線
41/46

 戦いの舞台はカラオケ店に移る。カラオケなんていつ以来だろうか……

 恥を捨てて正直に言おう。俺はカラオケには少しは自信がある。音痴なんて言われたことないし、採点機能を使っても高めな点数が取れる。

 ……だが、たぶんそんな自信なんて打ち砕かれるだろう。コイツらとカラオケなんて行ったことないけど、どうせ上手いんだろ? 上手いに決まってるよな!? ああもう! 神様は不公平だよなああああ!!

 ……少し取り乱してしまった。


「アタシ、カラオケなんて初めてだなぁ……」


「あら、私もそうよ?」


 黎と月乃は、かなり意外なことを口にした。それには俺もビックリ。しかし俺は騙されん。どうせ上手いんだろうし!!


「私は友達と何回か言ったことあります。……でも、なんか少し恥ずかしいですね」


 まあ星美は分かるな。友達はかなり多いし。なら、小雪はどうだろうか……小雪の顔を見たけど、いつもの無表情だった。


「小雪はカラオケに行ったことあるのか?」


 俺の言葉に、小雪は笑顔を見せる。そして一言……


「……フフ」


 いやどうなんだよ。笑って誤魔化した感が満載だな。




 ==========




 さて、部屋に着いたが、この空気はどういうことだろうか。誰もがデンモクやカラオケ帳を眺め、相手の出方を窺ってる感がある。まあ確かに、最初って歌い辛いよなぁ……

 ここは一つ、俺が男を見せるべきなのかもしれない。ていうか、おそらく最初しか俺に歌う機会はないだろう。凄まじく上手い奴の後なんて歌えないからな。そんな恥かく状況なんてまっぴらだ。


(さて、何歌おうか……)


「――1番!! 白谷黎!! 行くよー!!!」


 突然黎の叫びと共に、音楽が鳴り始めた。そして勢いよく立ち上がった黎は、マイクを握り締める。


(な、何いいいいい!!??)


 先手を取られてしまった!! ――ていうかお前、カラオケ初めてじゃなかったのか!? 初めてのカラオケで最初に、しかも元気ハツラツとは……白谷黎、恐ろしい奴!!


「=====!!!」


 黎の歌はどこまでもパワフルだった。ややハスキーな声だが、声の芯は途轍もなく太くて、ビリビリと空気が震える。ロックが似合いそうな感じ。まさに黎そのものだった。

 ……ていうか上手過ぎだろ。お前ホントはコソッと練習してたんじゃねえか?


「ありがとう!!」


 歌い終わった黎は、まるでプロ歌手のLIVEのようになってるし。そしていつの間にか採点機能がオンにされていた。この機種の採点は、音程、ビブラートといった、様々なところを評価しポイントを決めるもののようだ。しかも全国ランキングまで表示される。最近のカラオケ機器は進化したなぁ。


 点数 97.76pt

 全国 5位


「嘘おおお!!??」


 初めてのカラオケで全国5位!? てかコレ人気の歌だから参加人数ハンパないんだが……黎、お前はやっぱ超人だわ……


「う~ん、まあまあかな。もう少しいくと思ったんだけど……」


(これで満足しないのか!?)


 黎の点数を見て、残る三人の目は一気に燃え上がった。


「――次は私よ……!!」


 そして立ち上がる月乃。カラオケ機に正対し、マイクを握り締める。


「=====!!」


 月乃の歌声は透き通っていた。繊細だが、芯のあるような声。バラードということもあるが、聞いてると泣けてきそうになる。何というか、心を震わせる声だった。

 ……やっぱお前も上手いんだな。どうやったらそんな声出せんだよ。コツがあるなら教えて欲しいもんだよ。


「……点数は!?」


 歌い終わった月乃は、画面に注目する。そしてそれは残る三人も同様だった。集計が終わり、画面に結果が出た。


 点数 98.15pt

 全国 3位


「……マジかよ」


 いい加減にしてくれ。なんで人生初のカラオケでこんな点数出せるんだよ。俺の今までのカラオケ経験が風に吹き飛ばされていく……


「……まあまあね」


 そう言いながらも、月乃は勝ち誇った顔をしていた。それを見た黎は奥歯をギリリと噛み締める。いや二人ともスゲエし、音楽のジャンルが違うから比べることじゃないと思うが……


「つ、次いきます!!」


 星美は徐に立ち上がる。月乃や黎と違って、両手でマイクを握り締める。なんとなく、応援したくなる姿だった。頑張れー。


「=====!!」


 星美の歌は今流行りのアイドルグループの歌だった。上手い。そして可愛い。聞いてると元気が出てくる感じ。時々振付を入れてくる辺りがニクイ。ファンの人が見ても普通に納得してくれそうだな。


「……ふぅ」


 歌い終わった星美は大きく息を吐いた。やっぱり緊張してたみたいだな。それにしても上手いけど。


 点数 97.59pt

 全国 4位


「……スゲエな、お前ら」


 この歌難しいんだけどな……本物より上手かったぞ。絶対。


「むぅ……一番低い……」


 やや落ち込む星美。いやいやオカシイから。落ち込むことがオカシイって。お前が落ち込むなら、俺は即死だぞ!?


「……さて、私の番ですね」


 スッと立ち上がる小雪。コイツはどうだろうなぁ。月乃の妹ではあるけど、血は繋がってないし。しかし気になるのは、月乃達を見るあの視線。既に勝ち誇った顔をしてる。緊張するな……


「=====……」


 小雪は歌い始めた。う、上手過ぎる……上手過ぎるぞ!! どうなってんだよ!! 声の質は月乃に似てるけど、黎のような力強さも兼ね備えている。小さいところは小さく、大きいところは大きくと緩急を付けた歌い方は、まさにプロの技法。声を必死に集めるために耳があり得ないくらい大きくなりそう。


「……こんなものかしら」


 歌い終わった小雪は画面を見る。全然疲れていないのも凄い。さっきの歌、スンゲエ高音があったんだけどなぁ……

 そして、小雪の点数が表示される。


 点数 99.68pt

 全国 1位


「………」


 だ、出しやがった……もはや声すら出せないくらいビビった。初めて見たよ。全国1位。採点機器で99点代ってホントに表示されるんだな……

 これにはさすがの月乃達も驚いたようだ。そんな3人に勝利者の笑みを見せた小雪は、突然俺の横に座って来た。


「どうでしたか晴司さん? 私上手かったでしょ?」


「あ、ああ……正直驚いたよ……」


「私、晴司さんのために頑張ったんですよ。まあ、他の人は“相手にもならなかった”ですけど、ね……」


 再び勝利者の視線を3人に送る小雪。この視線に、残る3人は更に目の炎を熱く滾らせた。


「言ってくれるじゃないか……でも、さっきのがアタシの本気とは思うなよ?」


「奇遇ね黎。私も、まだ本気じゃないのよ……」


「私だって、もっと得意な歌たくさんありますよ」


 睨み合う4人。ここで小雪は、一つの提案をした。


「ちょっと提案なんだけど、ここは一つ、カラオケらしく採点でボーカルを決めませんか? 一人ずつ順番に歌って、採点で95ptを下回った人は脱落。残った最後の一人がボーカルになる……なんてのは、どうです?」


「面白いわね……受けて立つわ!!」


 月乃の言葉に、黎と星美も深く頷く。


「なら、始めましょうか……!!」


 そして4人の戦いの火蓋が切って落とされた!! 4人は歌いまくる。誰もが本気でマイクを握り締め、力の限り声を出した。

 点数はいずれも95ptを下回ることはない。全国平均が二桁になることもない。様々なジャンルが歌われた。ふと扉の外を見てみれば、人だかりが出来ていた。そりゃ、プロもビックリするくらいの歌い手が4人いて、全員本気で歌いまくってるんだし。ちょっとしたLIVEとも言えるよな。点数と全国順位が表示される度に外からは歓声が沸いていた。

 ……ちなみに、俺はただの一度も歌わなかった。歌えるわけねえよ。猛獣の本気の戦いに、子ウサギなんて入り込めねえんだよ!!


 戦いは終わることなく、結果、その日4人は徹夜で歌い続けることになった。




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