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今日は夏か? そう言いたくなるくらい暑い昼間。なんでも、例年より気温が高い日が続くんだとか。確か去年も言ってた気がするが……。気象予報士のお姉さんもオッサンもいい加減認めてほしい。毎年例年より高いのなら、それは既に例年通りと言えるということを。意地になってないか? 絶対意地になってるだろ。
それはそうと、今日も喫茶店は客が多い。ていうか多すぎる。いつもの二倍近い。客の多くは男共。こらそこ! 写真は禁止だって書いてるだろ!!
騒然を極める店内。その原因は、あの人物にあった。
「晴司! 黎に伝えて!! ナポリタン二つ、アイスコーヒー三つ!! それと特製オムライス二つに……!!」
「だああああ!! いっぺんに言うな!!」
「そのくらい覚えなさい!! ――あ! 会計して!! あのお客さんはカレー二つとオレンジジュース二つとアイスコーヒー、あとは……!!」
「だから“月乃”!! 伝票に書けよ!! ていうか何で覚えてるんだよ!!」
「その時間が惜しいのよ!! ていうかなんで覚えてないのよ!!」
「覚えれるか!!」
「こら晴司!! 遊ばずに働け!!」
(なぜ俺が黎に怒られなきゃいけないんだよ!!)
いやはや、月乃がこの店で働き始めて以降、凄まじい勢いで客数が上がった。お客さんから噂を聞いて、ネットを検索したら、色々と店のことが書いてあった。
二大看板娘の喫茶店、キリッとした氷の微笑、黒髪のメイド(月乃のことだろう)。天真爛漫元気溌剌、金髪のメイド(黎だろうな)。なんと、隠し撮りの写真まで掲載されていた。みなさん、“肖像権”ってご存知?
コメントも様々で、実際に行ってみたとかいう感想もあった。お手伝いの男がいらないとか……。それって俺のことか? 俺のことなのか!? お手伝い!? 俺は店長だよ!! 悪かったな!! それでも俺は居続けるぞ!! だって俺の店だし!! 誰にも文句は言わせねえ!!!
……少々興奮し過ぎてしまった。つまり俺が言いたいのは、俺は店長であるという……違った。それくらい人気があるということだ。
しかし気になることもある。最近月乃の様子がおかしい。ちょうど、家に行った時くらいからか。いい加減に話を進めても……みたいなことを言われた。なんの話を進めろと? 給料の話か? 結構出してるつもりなんだが……
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閉店後の店内。店の掃除、明日の準備も終わり、そろそろ帰る時間になってきた。……だが、ここでとある人物が切り出してきた。
「……ちょっと晴司。いい加減にしてくれない?」
「へ? 何が?」
まったく意味は分からないが、何だか凄まじく怒ってる月乃。視線がいつもに増して数段怖い。俺と黎は視線を合わせてアイコンタクトで話を始める。コツは、表情で相手の言葉を推測すること。
見よ! これが親族の力だ!!
(……どうして月乃は怒ってるんだ? 黎、何か知らないか?)
ちょっとムッとした表情をする黎。知らないようだ。
※黎の心の声(アタシのせいって言いたいのか? それより、何で月乃を雇ったんだよ! 晴司と二人きりじゃなくなるじゃないか!!)
(そうか……知らないのか。だったらなんで怒ってるんだろうな)
なぜかちょっと嬉しそうな顔をする黎。しかしすぐ首を傾げる。
(晴司もアタシと二人が良かった!? ホント!? でも、それならどうして月乃を雇ったんだよ)
(そうだよな……分かるわけないよな……。聞いた方がいいと思うか?)
黎は当たり前だろと言わんばかりに目を伏せる。
(二人きりだと恥ずかしいから? 月乃を雇ったんなら本末転倒だろ……)
(そうだな。やっぱり聞いた方がいいよな)
黎は真剣な表情で手をグッと握り締め、親指で自分を指示した。
(本当のことを言ったら月乃がショックを受ける? それなら、アタシが言ってやるよ!!)
(え? お前が聞くの? 大丈夫か?)
最後に力強く頷く黎。何だかすごく頼もしいと思ってしまう俺は、男として失格かもしれない。
(任せろ!!)
……ふう。これってけっこう疲れる。つまりは、黎は何も知らない。だけど、同じ女性として自分が聞いてみる、ということだ。さすが従姉妹と言ったところか。手に取るように話が分かるぜ!!
黎はずいっと前に出る。最後に俺に視線を送り、その視線に俺は頷く。黎は視線を再び月乃に戻す。
「――おい月乃!!」
「……何よ」
(あんまり喧嘩腰に言うなよ? 怒ってる原因を聞くだけなんだからな)
そして黎は月乃の顔をビシィッと指さす。
「この店は、アタシと晴司の店だ!! 邪魔するな!!!」
「……は?」
(おいいいいいい!!! 何言ってんだよおおお!!!)
なんか、また黎が暴走してるし!! なおも黎は止まらない。
「晴司はな、アタシと店をやりたいんだよ! それを理解しろ!!」
完全に月乃の瞳に炎が宿ったのが分かる。ここで月乃も反撃に出る。
「黎こそ分かってないのね。私と晴司はね、あなたでは届かなかった位置にいるのよ?」
(いや、どんな位置だよ……)
「どういう意味だよ……」
そして月乃はほくそ笑む。それを見た黎は眉間に皺を寄せた。
「教えてあげるわ。……私と晴司はね、婚約したのよ!!」
空気が、凍り付いた。ドヤ顔で仁王立ちする月乃。目が点になる俺と黎。外で鳴らされた自転車のベルの音が店内に響き渡る。
「え゛っ!!??」
「はあああああ!? なんで晴司と月乃が!!??」
「あら、聞いてなかったの? ……そうね、晴司は言いだせなかったんでしょうね……」
月乃は哀れむような目で俺を見てくる。いやいや、意味が分からないんだが。
「私もそれは分かってたんだけど、晴司が全然話を進めないからちょっとイライラしてきたのよ。まあ、ちょうどいいわ。……ねえ晴司? 結納とかどうするの?」
そこでようやく俺の自我は帰って来やがった!!
「ちょっと待てええい!! なんでそんなことになってんだよ!!」
「え? だってこの前晴司がそう言ったんじゃない。私も、お父さんに“晴司と一緒に生きます”って言っちゃったし」
「お父さん!!??」
さらに固まる黎。ていうか、もしかして月乃が言ってた“いきます”ってのは、“生きます”、“LIVE”の方なのか? “晴司と一緒に行きます”、“GO”の方じゃねえのか?
(もしかして、この前月乃と話した時のことか? なんか、とんでもねえ誤認の嵐が起こってるみたいだな……)
その時、状況をある程度理解した俺の背後から、途轍もないオーラが送られてきた。殺意の波動。震える体。おそるおそる、ゆっくりと振り返る。
「……晴司? どういうことだ?」
手をバキバキ鳴らしながら目を光らせる黎。
「晴司? もしかして、全部違うの? どうなの?」
腕を組み眉をピクピクひくつかせながら目を光らせる月乃。
一瞬で血の気が引いた。体中に嫌な汗が流れる。どえらい程の身の危険を察知した俺は、全力で弁明に回ることに。
「いやいやお二人さん。少し落ち着きたまえ。俺だって何がなんだか分からないわけで……」
「そんな言い訳が……」
「……通じると思うなよ!!!」
「ちょ、ちょっと待て! 待てって!! ……ンギャアアアアアアアア……!!!」
……その日の閉店後の店内は、殺戮の館と化していた。




