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ハッピーエンドの法則  作者: yuki
3/3

act 3

「ママ~っ、 ママ~っ」

まるで召使を呼ぶかの様に、乃亜は母親を呼ぶ。

決して、だらだらしている訳ではなかった。ただ単に、動けなかっただけだった。

パタパタとスリッパの音をさせながら現れた乃亜の母親の綾子は、ソファの上でくったりとなっている乃亜を見下ろした。

「あんた……真面目に病院に行った方がいいんじゃないの?」

その綾子の瞳は、乃亜に妊娠と、鉄哉との別れを告白した、あの時の瞳より、ずっと心配の色を見せていた……。


鉄哉と、あの日別れてから、一週間ほどが経った。

乃亜が母親に、鉄哉の事、妊娠の事を言ったのは、あの日のすぐ後だった。

体調が体調なだけに、もう隠せないと思ったのが決め手だった。

鉄哉と、こういう結果になってしまい、結局頼りになるのは、母親の存在だった。

反対されたら、本気で出て行くつもりだったが、自分の母親は、そんな人じゃない。そう信じていた。


そして結果、頬を一発引っ叩かれただけで、何とか落ち着いた。

正直、その頬っぺたの一発が、かなりキツかったけれど、そして、いつもだったら自分も負け時と手を出している

と思ったが、お腹の中のちっちゃな生命を大事にしたいと、堪える事が出来た。


引っ叩かれてしまえば、後はスッキリしたものだった。

一人暮らしは大変だからと、すぐに実家に引っ越してこいと言われた。

しかしこれは断った。なんだかんだ言っても、母親も今は旦那が居る身であり、邪魔をするつもりはなかった。


「全く、雄一郎さんも引っ越して来いって言ってるのに、あんたって私に似て、本当に強情だから」

乃亜の変わりに、乃亜の洗濯物を畳みながら綾子は言った。

「そりゃ、ママの娘だもの。似てるのは当然じゃない?」

ソファの上で、くったりとしながらも、くすくすと乃亜が笑うと、まったく、と綾子も笑った。


「にしても、アンタ一人が此処に居るのも、ママ心配だわ。今の時代は体重をあまり増やさない様にしてるって知ってるけど、体重がそんなに落ちてばかりじゃ、赤ちゃんに栄養もいかないでしょ? 少しは、食べれてるの?」

乃亜は、少し考えるそぶりを見せた。

が、しかし正直に話そうと思ったらしい。

「食べれてない」

「食べれてないって……」


ほんの二、三日前までは、少しは食べれていると電話で言って居たのに……。

「駄目。もう駄目。病院に行くわよ。今すぐに」

食べて居ないうえ、吐き気だけは襲ってくるので、乃亜には気力もない様で、首をふった。


「貯金、ない」

まさか妊娠するとは思ってなかったので、景気よく買い物をしていた。様は、入院費の余裕がないと言う事なんだろうと、綾子は察しがついた。

「いいわよっ。孫のために出す金なら、私も惜しくないわっ。馬鹿娘の為なら惜しいけどね!」

そう言った綾子の表情は、まだ38歳と言う事もあり、イタズラな子供っぽさがあった。

乃亜と綾子は、母親と娘と言う関係をしっかりと保ちつつも、友達の様な関係でもあった。

だから、喧嘩する時は、喧嘩っ早い綾子が手を出し、負け時と乃亜が手を出し、終始がつかなくなった頃、綾子の旦那であり、今の乃亜の父親でもある雄一郎と、琉香が止めに入るのが、いつもの形だった。


そんな綾子でも、やはり母親は母親であって、なんだかんだと憎まれ口をたたいても、乃亜の事は心配なようだった。


「けど、アンタ歩けそうもないわねぇ」

雄一郎は、今の時間は会社に行っている。琉香に電話して、支えるのを手伝ってもらおうかとも考えた。

しかし、やっぱり綾子の頭に浮かぶのは、鉄哉の事だった。数年も付き合っていたのだ。綾子にとっても、鉄哉は既に家族同様だった。

だから別れたと聞いた時も、信じられなかったし、その後、琉香から、実は鉄哉が謝って、もう一度、乃亜とやり直したいと言っていた事を聞いた時も、どことなくホッとした。


しかし強情な娘ゆえ、歯がゆい所だった。

何故なら、口ではどうこう言っても、まだ乃亜は鉄哉の事を、忘れられていない事は母親なら見れば分かった。

そうだからといって、簡単に何も無かった事には出来ない意地が、乃亜にもあるんだろうと、複雑な気持ちだった。


「雄一郎さんを呼ぼうか。仕事抜けてきてもらって」

乃亜からの返答はない。綾子は思うがすぐに携帯を取っていた。


つわりは赤ちゃんが居る証拠。だから頑張らなきゃいけない。ただ、こんなに辛いのは、正直想定外だった。

何も食べたくない。部屋の中に置いてあった香の類も、全部捨てた。

匂いがあるものは、全部敵に見えた。当然、店は休んでいる。乃亜の変わりは、琉香が探し連れてきてくれて来た様だった。


けれど、部屋の中でじっとしていると、余計な事ばかり考えてしまっていた。

あの時、鉄哉の手を、振りほどかなければ、自分が意地を張らなければ、こうして頑張るのは、一人ではなく、隣に、鉄哉が居てくれたのではないかと。

大丈夫か? 何て言って、精神的に、自分を支えてくれたのではないのかと……。


あの時、鉄哉の腕に引かれるがままに、体を預けてしまったら……。


考えながら目を瞑った。

すると、玄関から、ありえない名前が聞こえてきたのだ。それも母親の口から……。


「鉄哉――」



……To Be Continued…



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