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7.波乱の予感

第二部になります。

よろしくお願いいたします。

少し忙しくなってしまったので。

今回の更新は週一くらいの予定です。

 「ミラマシェーリ様宛のお手紙でございます。」

 

 オーラス邸の門に馬車で乗りつけると見知った門番の男が顔を出した。


 「ああ、グラン様いつもありがとうございます。お嬢様がお待ちですのでお入りください。」


 ニコニコと挨拶を交わしてグランは屋敷の中へと入っていく。案内の経度と共に応接室へ行くと既にミラマシェーリが座っていた。


 「いらっしゃいませ。グラン」


 出会った当初はグランの事を『執事さん』と呼んでいたミラマシェーリだったが頻繁に会うにつれて呼び方を変えた。さん、様付けは本人が嫌がったのでこの様な形となったのだ。


 「いつも貴方に持ってきてもらって恐縮しちゃうわ。誰かお使いの人に頼んでも構わないのよ?それともお城は人手不足なのかしら?」


 「いえ、大切なお手紙ですからそう安易に人任せは出来ませんよ。それに私の楽しみを取り上げられるのは困ります。」


 「ならいいけど。」


 メイドが注ぐ香りのよい紅茶と美味しいクッキーを堪能しつつグランはミラマシェーリと楽しいひと時を過ごした。


 「はい、手紙。」


 グランは帰り際に殿下宛の手紙を受け取りそっと鞄に入れる。これを持ち帰らないと城に入ることはできない。いや、城に入ることはできてもそのまま追い返される。



 「ウチから使者を出せればいいのだけれど……」


 「まだ、秘密になさりたいのでしたら無理をしなくても良いですよ。」


 申し訳なさそうに言う彼女の言葉をそっとグランが遮る。


 婚約者と別れたばかりの彼女が新しい婚約者を作ることはそんなにおかしなことではない。だが相手がこの国の王太子となると少し話が違う。

 


 簡単に言えば彼女が王太子と一緒になる為『格下の相手』を振ったと言われかねないのだ。それはどちらにとっても不名誉な噂にしかならない。殿下は気にしない方だが彼女はそうは思っていなかった。自分のせいで殿下に悪い噂が立つのは避けたいといわれればそれを拒否することは出来ない。


 幸い家柄は釣り合っているのでその点での障害はなく、オーラス家は暫く新しい婚約者を探さないという決断をし、二人の関係を見極めたのちに落ち着いた時期を見てお披露目をする方向で進んでいる。どちらにせよ殿下はいつでも構わないそうなのでミラマシェーリの心意気次第といったところが大きい。


「では、また二日後に。」

グランは綺麗なお辞儀をしてオーラス家を後にした。


 グランが帰っていたのを見送ってミラマシェーリはエルデバラン殿下からの手紙をそっと開いた。


  《愛しのミラマシェーリへ》


 もうすぐ春の遊園会の時期だね。

 君との思い出の庭園に植えられている花々が徐々に咲き始めているよ。遊園会では是非君とゆっくり鑑賞したいと思っているんだけど、まだ君からお披露目のお許しは出ないかな?早くドレスを贈る間柄になれることを願っています。


   《エル》


 熱烈なラブレターについ顔がにやけてしまう。


 今まで婚約していたフェリオから手紙など贈ってくれたこともなければ、甘いセリフを囁かれたこともほとんど記憶にない。幼いことから知った仲で近すぎたからだと言えばそれまでかも知れないが今思えば寂しい婚約期間だった。まあ、それも過ぎたことだと思えば些細なことだ。


 ミラマシェーリは殿下からの大切な手紙を箱にしまうと最近始めた乗馬のレッスンのため、着替えを手伝ってもらうために侍女を呼んだ。


すると呼び鈴を鳴らしてすぐにドアを遠慮がちにノックする音が。


 「早いわね?」

 「お嬢様、お手紙が届きました。」


 てっきり着替えのために読んだ侍女かと思って声を掛けると何やら別の用事で来たメイドのようだ。ミラマシェーリは不思議に思いながらもメイドから手紙を受け取る。


 差出人は マッカラン男爵のご令嬢でウララ様。因みに全く面識はない。ミラマシェーリは公爵家の令嬢、男爵家とは言葉を交わすこともない間柄。いきなり送られた手紙を読ますに捨ててしまっても問題視されない程度に身分の開きがある。勿論ミラマシェーリも見知らぬ相手からの手紙など開封するつもりはなかった。そっとテーブルに手紙を置くと、丁度侍女が持って来た乗馬服へと着替え始めた。


 庭で乗馬をしていると門をくぐって見慣れたシルエットがこちらに向かって走ってくるのが見えた。確か彼は何度もミラマシェーリに婚約の復縁を迫るので先日父から出禁を言い渡された筈なのだが。


 「ミラマシェーリ、久しぶり。外で会えてよかったよ。」


 馬上にいるミラマシェーリを見上げて元婚約者のフェリオが走ってきた息を整えながら彼女に向かって手を差し出す。


 「ミラマシェーリ、一生のお願いだ。復縁してください。」

 「………無理。」

 「だよね……。」

 

 がっくりと項垂れて彼の手が力なく降りていくのを見つめながら、ミラマシェーリはいつもの勢いがないフェリオに少しだけ違和感を感じた。


 「どうかしたの?」

 「………子供が出来た。」


ぽつりと言った彼のセリフに思わず固まる。


 「子供?フェリオ、貴方そんなことまでしていたの?」


 子供ができると言う事は勿論そういう行為をご令嬢としていたと言う事。平民の習慣はともかく、貴族の嗜みとして婚前交渉などありえないことだった。勿論フェリオとミラマシェーリもその様な事は一切していない。それはお互い公爵家、侯爵家の間柄なので当たり前の事と思っていたがフェリオは違ったと言う事なのだろうか?

 

 「違う、誓って俺は誰ともそんなことはしていない。でも、何度か食事とお酒を飲んで勧められるままに屋敷に泊まった事がある相手から子供が出来たから結婚したいって言われた。」


 「屋敷に泊まって……そう。」


 いつの時期の話なのか聞いたら馬で蹴り倒しそうになるかもしれないのでそこはあえて聞き流す。


 「ありえない話なんだったら断ればいいじゃない。」


 流石に身に覚えない相手がご懐妊するというのは摩訶不思議な話。いくら寝てしまったとしても『いたしたか、いたしていないのか』それくらいはフェリオだって分かるだろう。


 「断ったよ。でも相手は諦めてくれなくて。………だからつい君と復縁の話が出てるって言っちゃいました。」


 「もしかして相手は男爵家の御令嬢?ウララ様って方?」


フェリオの目がピクリと見開かれた。


 「さっき手紙が来ていたわよ。男爵家が公爵家相手に手紙なんて随分おかしい事をするお方と思ったけど貴方のお相手なのね。私は復縁の予定はないから二人で話しなさいよ。」


 関係ない自分が巻き込まれれている事にミラマシェーリは不快感を露わにして彼を見つめる目を細めた。


 いつもなら言い返すフェリオがじっと地面を見つめたまま黙りこむ。


 「ミラ、助けて。俺、このままだと結婚しなきゃならなくなる。」

 

 小さく震える声で言うフェリオ。

 お互い成人してからは正式名で呼んでいる名前を子供の頃に呼び合った愛称で呼ばれて一瞬戸惑う。


 恐らく相手は格上の侯爵家であるフェリオとの縁を深く結びたいがために前々から計画を準備をしていたのだろう。ミラマシェーリとの婚約が破棄されたことも彼らの計画を勧める要因になったのは明らかだった。相手にせず、自分には関係ないのだから放って置けばよい。頭では分かっていたが目の前にいる『幼馴染の』フェリオがどうしても気になってしまった。


 ミラマシェーリは馬からひらりと降りるとじっと動かないままのフェリオの前に立つ。

そのままそっと彼の頬を両手で挟んで顔を見つめた潤んだ瞳が今にも泣き出しそうだった。そういえば彼が泣き虫だったのを思い出した。

 

 「協力するのは、今回だけだからね。」

 「うん。」


 ミラマシェーリはそっとフェリオの頭を撫でた。

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