表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/188

72話 邪龍

 邪龍は、自分の周囲に紫色の光を放出した。


「──まずい」


 あの光からは膨大な魔力が遠くからでも感じられた。


「敵に囲まれた際に使う業です! 周囲の黒靄がしばらく少なくなり、攻撃しやすくなりますが……」


 ラーンの言うように、ともかく周辺の敵を引きはがすために使う攻撃だろう。魔法ではなく体を覆う黒靄の一部を使用しているのだ。


 ペガサスに乗ったユリスたちは、それぞれ魔法で壁を作って防ぐようだが──邪龍のあの魔力の前には、とても防ぎきれない。


「──行こう、エリシア、ラーン!」

「はい!」


 俺はエリシアと共にラーンに騎乗すると、すぐ《転移》を使用した。


 《転移》先は邪龍の頭上。


 俺はすぐに、ユリスたち三名それぞれの前に《闇壁》を作り出した。


 こちらは影輪で姿を隠した上に仮面をつけているから、見つかっても問題ない。


 俺たちを守るのは、エリシアが展開してくれている《光壁》だ。エリシアの魔力ならなんとか防いでくれるだろう。


 すぐに邪龍の放った紫色の光がこちらにも迫る。それが《光壁》に触れると──眩く弾け、周囲に爆発を起こした。


 すぐに爆発音が響き、嵐のような暴風が吹きつける。


 エリシアはなんとか《光壁》を維持しながら呟く。


「くっ……なんという衝撃」


 とてつもない衝撃に、少し油断すれば吹き飛ばされてしまいそうだ。


 とはいえ──

 エリシアが片手で魔法を放ちながらも、もう片方の手で俺をぎゅっとその胸元に抱き寄せてくれているから大丈夫だ。ちょっと過剰すぎるぐらい、強く……


 爆発自体は一瞬だった。こちらはエリシアの魔法もあってなんとかその場に留まれた。


 邪龍の周囲を覆っていた黒靄は確実に薄くなっており、確かに攻撃の好機ではあったが……


 ユリスたちは爆風に耐え切れず、《闇壁》ごと吹き飛ばされてしまっていた。傷はないようだが、ペガサスが大きく姿勢を崩してしまっている。


 やがてユリスたちはペガサスから落馬してしまった。三人ともどうやら気を失っているようだ。


 近くを飛んでいたカモメも特に傷を受けてないのに、落下している。俺も一瞬、眠気が襲った。どうやら先ほどの爆発には、催眠や気絶やらの効果もあったらしい。


「くっ! 三人を救助する!」


 俺はすぐに《転移》する。


 まずは近くの女騎士を救出──しようとするが、そう簡単には受け止められない。


 するとラーンがとっさに女騎士の布の部分を口で挟んだ。


「ありがとう、ラーン。一度戻るぞ!」


 俺は一旦マーレアス号へと《転移》し、ラーンに女騎士を甲板の上に下ろさせる。


「次だ!」


 すぐに魔導服の女性のもとに《転移》し、ラーンに口で掴んでもらう。


 そうしてまた、マーレアス号に戻ろうとするが──


「──アレク様! ユリス様が!!」


 エリシアの声でユリスの魔力のほうを見ると、そこには大きく口を開けた邪龍が迫っていた。


 マーレアス号に戻っていては間に合わない。かといって、魔導服の女性を離してユリスを救出すれば、魔導服の女性が今度はやられるかもしれない……


「ラーン! そのまま、離脱してくれ!」


 そう言って俺は、自分だけをユリスの近くに《転移》させる。


「ユリス!!」


 ユリスはやはり気を失っていた。仮面が取れ、目を瞑っているのが見えた。人形のように端正な顔……やはりこの子はユリスだった。


 俺は位置を確認すると、腕を伸ばしユリスのすぐ下に《転移》した。


「くっ!」


 鎧もありなかなかの重さだったが、ユリスの体をしっかりと抱き抱えることができた。


 気が付けば邪龍は目と鼻の先──


 邪龍が口をばくんと閉じようとしている中、俺はマーレアス号に《転移》した。


「なんとかなった……」


 間一髪で逃げられたことに、俺は溜息を吐く。


 空にも当然《転移》できる。もちろんすぐに落下してしまうため、またすぐに別の場所へ《転移》する必要があるが。


 俺はユリスを甲板にゆっくりと寝かせる。


 本当にユリスだった……


 同じ七歳の俺が言うのも妙だが、あまりにも小さい。こんな体で邪龍と戦おうなんて──うん?


 一瞬、ユリスが瞼を開けたような気がした。だが瞬きすると、そこにはやはり目を閉じたユリスが。


 気のせいだったか。どのみち、今の俺は仮面を付けているから、見られても大丈夫だ……お。


 バサバサという翼の音に目を向けると、空からラーンとエリシアが高速で戻ってきていた。


 ラーンが魔導服の女性を甲板に下ろす中、エリシアが心配そうな顔で声を震わせる。


「あ、あ、アレク様!! お怪我は!?」

「大丈夫だ……咄嗟のこととはいえ心配をかけた」

「いえ、ご無事ならいいのです……」


 心底安心したような顔のエリシアだが、ラーンが邪龍に顔を向ける。


「邪龍は黒靄を回復させているようですね……」


 邪龍は空中でぐるぐると回り、体を覆う黒靄を回復させているようだった。


 だが同時に、先程にも増して大きな叫びを上げていた。とても苦しそうな悲痛な叫びを。


「闇の魔力が体を蝕んでいるのか……あいつも、苦しいのかもな」


 俺はそう呟くと、青髪族たちに顔を向ける。


「ともかく、仕切り直しだ。誰か、ユリスたちを帝都の拠点まで運んでもらえるか? 中庭の見えない寝室に運んでほしい」


 青髪族の女性たちははいと答えると、すぐにユリスたちを抱えて運んでくれた。


 そんな中、セレーナの声が響いた。


「アレク様! 頼れる仲間たちを連れてきました!」

「悪魔のでかい版が相手だとか──って、でかすぎっ!?」


 セレーナの後ろからすっと現れたティカは、邪龍を見て目を丸くした。


 ネイトはロングクロスボウを構えながら言う。


「おっきいほうがむしろ狙いやすい」


 ぞろぞろと同じロングクロスボウを持った鎧族や、龍人たちも転移柱でアルスからやってくる。


「皆、来てくれたか。突然で悪いが、空で戦ってもらう……龍人たち、鎧族を乗せて空を飛べるか?」


 俺が言うと、ラーンが龍人たちに顔を向ける。


 深く頷く龍人たちを見て、ラーンは俺に視線を戻した。


「皆、飛べます。私たちにお任せください」

「ありがとう。とはいえ、皆は遠くから攻撃してくれれば大丈夫だ。邪龍が攻撃してきたら、一目散に離れてくれ」


 その声に、鎧族と龍人は頷く。さっそく龍人は鎧族を乗せ始めた。


「さて、残った俺たちは、邪龍の弱点である逆鱗を攻撃する。逆鱗は一枚だけ他の鱗と違った方向に生えた、喉元の鱗のことだ」


 俺はまずエリシアに顔を向ける。


「エリシアが邪龍の頭の近くの黒靄に穴を開け、俺がその穴を維持する。そこをネイト……お前が狙撃するんだ」

「大役。任せてください」


 ネイトはいつもと変わらない様子で淡々とそう答えた。


 セレーナが感心するように言う。


「お、随分と自信がありそうじゃないか」

「当然ですよ。私たちには、アレク様がいるんだから。ね? ネイト」


 ティカの声にネイトはこくりと頷く。


「うんうん! そんなネイトにいい武器があるし、絶対大丈夫」


 ユーリも自信ありげな顔で答えた。なにやら新兵器を用意しているらしい。


「自信があることはいいことですね……ですが、逆鱗を攻撃した後も厄介です」


 ラーンは心配そうな顔で言った。


 邪龍は逆鱗に触れられると更に暴れる。その後は逆鱗が狙いにくくなるかもしれない。


 しかしセレーナが皆を勇気づけるように言った。


「そうなれば、あとは攻撃あるのみだ! 皆で猛攻を加える!」

「文字通り闇雲に攻撃しても仕方ありませんよ……ちゃんと、逆鱗を狙いましょう」


 エリシアはそう言うと俺に顔を向けた。


「アレク様、私たちはいつでも」

「ああ、行こう」


 俺が深く頷いて言うと、皆、おうと声を返してくれた。


 それから俺はエリシアと共にラーンに乗ると、皆を引き連れ邪龍のもとへ向かった。


 だがその時、南方より突如、火の玉が一斉に邪龍に向け放たれるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ランキング参加中です。気に入って頂けたら是非ぽちっと応援お願いします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ