SS ピンクムーンと幼馴染
七瀬が、ピンクムーンを木下くんと見たい、と言ったので書いてみました。
レオン団長は、リリアを見つめて、それでも足りないとでもいうように抱きしめた。
「七瀬。ピンクムーンが七瀬と見たい」
「ふあっ⁈ 木下くん⁈」
この名前で呼ばれた瞬間、リリアはあの時に戻ってしまう。レオン団長が、リリアのことを愛していることは理解している。
でも、七瀬と呼ばれれば、心は高校にいたあの時に戻ってしまう。
ピーコックブルーの瞳。それは、木下くんの焦茶色の瞳とは、全く違う色合い。それでも。
「あの。ピンクムーンって?」
「実際にピンクでないにしても、七瀬と見たかった月だ。とりあえず、一緒に見に行こう」
「あの、どうして木下くんが出てきたんです?」
「は……。七瀬? 七瀬に会いたいと思った日には、いつも俺は木下だ」
「えぇ?!」
それは、まったく他人には理解されない感傷だ。幼い頃からの幼馴染。トラック事故のせいで、木下くんと、離れ離れになって、悲しみを誤魔化すみたいに、七瀬は看護師として過ごしてきた。
ピンクムーンを木下くんと見たいと思ったのは、七瀬だ。
なぜ、木下くんは、そのことを知っているのだろうか。
「木下くん。実は、私もピンクムーンという話を聞いてから、ずっと一緒に見たかった」
その瞬間、もう一度、息が苦しいほど抱きしめられる。
それは、高校生だった時の、幼馴染の二人には、近すぎる距離で。
「木下……くん」
それは、二人が交わすことさえ、できなかった約束だ。
「たぶん、七瀬なら、一緒に見たいと言うと、思ったから」
この世界の、ピンクムーンは、文字通り桜色だ。それは、まるで魔力が月まで届いたようで。
二人の願いが、届いたみたいで。
「嬉しい。木下くん」
「また、来年も一緒に、俺とこの月を見て?」
七瀬はその言葉にうなずく以外の選択肢がない。大好きな幼馴染は、時間も時空も超えて、今、目の前にいる。大好きだ。
「もちろん……。約束だよ?」
離れ離れになっても、今も二人は共にいる。あの世界と色は違うけれど、ピンクムーンと呼ばれる、今宵の月とともに。
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