365・裏切りの守り人
「止まれ」
後方から声。
振り返ると、そこには一人の男性らしき人間が立っていました。
「え……」
そして突如現れたのは一人だけではありません。
それを皮切りに、周りから次々と人が現れます。
七、八、九……およそ十人くらいでしょうか。
みなさん、カリスタさんと同じような服を着ています。
いつの間にか、囲まれていたようで、先ほどまでの甘々ムードは消え去り、一気に緊張感が走ります。
「ちっ……違和感はあったんだがな。だが、気配を隠すのが上手くて、気付くのが遅れてしまった」
シキが悔しそうに顔を歪めます。
「ま、守り人のみんな! それにユーリアまで!」
カリスタさんもこれには予想していなかったのか、突如現れた人達を眺めて、声を荒らげます。
「今まで、どこにいたんだ! 心配したぞ。それに止まれって言うのは……」
「言葉の意味のままだ。聖女を“死都”に向かわせるわけにはいかない」
男性の一人がそう言って、弓を構えます。
「部外者を聖域たる“死都”に向かわせるなど……カリスタ隊長──いや、もう隊長と呼ぶのも穢らわしい。カリスタよ、気でもおかしくなったのか?」
「お、お前らが突然いなくなったのが、悪いんだろうが! それに、こいつらにも事情があるんだ。大切な人の精神が奪われて……」
「説明しなくてもいい、全て分かっているからな」
「は?」
「我らは守り人をやめ、魔王信教につくことにした」
衝撃な事実を放つ男性。
「ま、守り人をやめ……? どうして!」
「そもそも、今までがおかしかったのよ」
視界の右端──小剣を携えた女性が、そう口にします。
「今まで、何百年間も滅んだ国を守り続けてきた。だけど、どうして私達がそんなことをしなくちゃいけないのよ」
「もう、過去の使命に縛られる必要はないのだ」
「そうだ、そうだ! そのせいで俺達は厳しい生活を強いられている」
他の方々からも、次々と声が上がります。
「魔王信教の教皇──リュシアン様は、そんな私達に救いをもたらしてくれた。今回の任務が成功すれば、我らの安息の地を用意すると約束してくれた」
「た、たとえ、そうだったとしても……どうして、隊長の私になにも言わなかったんだ!? 相談くらいはあっても……」
「貴様に言っても、ろくに話を聞かないだろう。過去の使命に縛られた、亡霊同然の貴様ではな」
「ああ……」
カリスタさんが地面に膝を突きます。
……彼らの狙いが分からなかったので、黙って話を聞いていましたが、どうやら計られたようです。
リュシアンは私達が“死都”に来ると読んで、守り人を取り込み、ここで待ち伏せさせていたんでしょう。
そしてこれは、カリスタさん自身も分かっていなかったはず。
今の彼女を見ていたら、私達を騙そうとしたというわけではないのがはっきりと分かります。
「ごちゃごちゃ言っておるが……要はここで全員、叩きのめせばいいのだろう? 我らに刃向った報い、受けさせてや──」
「待て! もう少し、私に話をさせてくれ」
今にも襲いかかろうとするドグラスを、カリスタさんは止めます。
「ユ、ユーリア! お前だけは違うんだろう!? 確かにみんなの中で不満が溜まっていたのは、薄々気付いていたが……お前だけは違った! 最後に二人だけになっても、使命を果たすって約束したではないか!」
「…………」
カリスタさんの悲痛な叫びに、彼女と双子のように似ている女性──ユーリアさんは冷めた目を向けます。
「……もう遅いんです、姉さん。私達の生き方は古すぎました。こうなったら、もう誰も止めることは出来ません」
「そ、そんな……」
わなわなと震えるカリスタさん。
最後の頼みの綱が切れた──といったところでしょうか。
ファーヴもシルヴィを地面に下ろして、双剣を抜きます。お互い睨み合い、緊迫感が高まります。
だが──。
「……っ! エリアーヌ、危ない!」
ナイジェルが咄嗟に、私の前に立ちます。
え──と思ったのも束の間、ユーリアさんが弓を構え、すぐに矢を発射しました。
ですが矢は私達から外れ、大迷宮の天井に突き刺さります。
──ゴゴゴッ。
地面が震え、私達目掛けて真上から瓦礫が落下します。
「ちっ……そういうことか。おい! エリアーヌ! ナイジェル!」
シキが急いで私達の手を引っ張り、その場から離脱させます。
──ガララ!
そのおかげで瓦礫に押し潰されることは避けられましたが、ドグラス達との間で隔たりが出来てしまいます。
「ドグラス!」
私は落下した瓦礫に近付き、向こう側に声をかけます。
「そちらはご無事ですか!」
「大丈──夫だ。心配──ない」
こちら側は私とナイジェル、シキ。
そして、あちら側にはドグラスとファーヴ、シルヴィ。カリスタさんに、残りの守り人が全員いるみたい。
見事に分断させられてしまった形となってしまいました。
「こちらは──こちらで、片付け──る!」
「エリアーヌ──先へ行け──」
「“死都”はこのま──ま、真っ直ぐ行った先だ──」
ドグラスに続けて、ファーヴとカリスタさんの声も聞こえてきます。
「……さて、どうするか。妾なら、無理やりこの瓦礫をどかすことも出来るが」
「いや、それはやめておこう。この大迷宮は相当古い。力づくでやっても、また他の部分が崩れ落ちてくるだけだよ。最悪生き埋めになるし、そうなると分かっていたから、ドグラス達も先に行けと言ってるんじゃないかな?」
「子供の貴様に言われると腹が立つが……一理ある」
苦い表情を作って、シキが答えます。
「それに……これはある意味では、よかったかもしれないよ。リュシアンの息がかかった守り人に、足止めをくらわなくて済むんだから」
「そうです。ドグラス達なら、あんな人達に負けませんし」
ドグラス達に全幅の信頼を寄せて、私もそう答えます。
──本当は少し心配。
ですが、私達の目的を忘れてはなりません。
「……どんな時にでも仲間を大切にする連中だと思っていたが、なかなかどうして、合理的な一面もあるではないか。気に入った」
先ほどの不機嫌さはどこにいったやら、シキはにかっと笑みを浮かべて、
「では、妾達は先を急ごう。あの二匹のドラゴンに比べたら頼りないかもしれないが、立ちはだかる敵は全て斬り伏せてやる」
「頼りないなんて……とんでもありません。頼りにしていますよ、シキ」
「ふんっ」
シキはそう鼻を鳴らして、大迷宮の出口へ向かいます。
みなさん──どうかご無事で。
瓦礫の先にいるドグラス達のことを思いながら、私達は先を急ぎました。





