363・リュシアンとの平和な日々(ナイジェル視点)
幾数か、ここで過ごしてみて、僕──ナイジェルの置かれている状況が徐々に分かってくる。
どうやらここは、昔のフロストガルドらしい。
決して豊かな国ではないが、人々は支え合って生きている。
そして僕は、数百年前の賢王──ゼルドになっているらしいのだ。
これは、どういうことだろうか?
僕がこんな状況になる前、リュシアンは不思議な空間で『時に干渉する力』を手に入れたと言っていた。
ならば、時が過去に巻き戻っている?
いや、だとするなら、僕がゼルドになっている理由に説明が付かない。ゼルドとしての記憶を追体験しているのだろうか?
訳が分からないことばかりだが、ゼルドとなった僕はリンチギハムの第一王子として、フロストガルドに留学しにきたらしい。
今では考えられないことだ。
今のフロストガルドは年中猛吹雪に襲われ、滅んでしまった国なのだから。
そしてリュシアンは、同じフロストガルドの王子として、僕と接してくれた。
「ねえ、ゼルド。リンチギハムはどんなところなの?」
城内。
リュシアンが興味津々に尋ねてくる。
「いいところだよ」
昔、文献で読んだ、ゼルド国王陛下の治世だった頃のリンチギハムを思い出しながら、そう口にする。
「自然が多く、気候も安定している。最近では隣国ベルカイムとも親交を深め、外交ルートを切り拓こうとしている最中さ」
「へえ……!」
リュシアンが目を輝かせる。
そのあどけない表情は、僕達の前に立ちはだかった彼と同一人物とは思えないほどだった。
「リンチギハムは楽園みたいな場所なんだね……! フロストガルドはそうじゃないから。雪がずっと降っているせいで農作物もろくに採れず、他国からも軽んじられている」
「そんなことないさ。少なくとも、僕はフロストガルドを軽んじていない。それに仮に現状がそうだとしても、リュシアンが変えていけばいいだけじゃないか」
リュシアンの王位継承権は一位。
このままなにもしなかったら、彼が国王の座につくことになるだろう。
だが、気になることはある。
いくら記憶を遡ってみても、フロストガルドの歴代王子に『リュシアン』という名前はなかったからだ。
もちろん、僕も他国の歴代国王の名を全て覚えているわけではない。抜けているところがあるかもしれない。
僕の記憶違いか……? そうじゃなかったとしたら、リュシアンはこれからどうなる──。
「多分、僕は王位を継げないから」
一転して。
リュシアンは表情に寂しさを滲ませる。
「王位を継げない? どうして? 君は第一王子だろう? 他にいい後継者がいるってことなのかな」
「そうじゃないんだ。そうじゃないんだけど……きっと他の王族は、僕のそういうところに価値を見出していないから」
どうしてだ?
この不思議な体験をしてからリュシアンを観察していたが、彼は王子として申し分ない能力を備えているように見えた。
頭がよく、決断力もある。
そしてなにより、国民のことを第一に考え、国を豊かにしていこうという強い志があった。
こういうのもなんだが、リュシアンの他に次期国王にふさわしい人間がいるとは思えないのだ。
「どういうこと──」
「あっ、そうだ。ゼルド、今日は街の高台に行こうよ」
僕の声を遮って、リュシアンが手を差し出す。
「そこからだったら、街の風景を一望することが出来るんだ。バルコニーから見る風景も圧巻だけど、街中だとまた一味違うよ」
「……それは楽しみだ」
彼の手を取る。
……分からないことばかりだ。
今、僕はゼルドとして生きているが、元の世界に戻れるかも不明確。
リュシアンは、僕をこの世界に閉じ込めることが狙いだったのだろうか?
だが、この世界でなにかを得なければ。
そう決意を強くし、リュシアンに手を引かれて、街の高台へと向かうのであった。





