362・“死都”に行く方法
「なにか、心当たりはないんですか?」
「ない──と言いたいところだが、守り人の中には村を出たがっている人間もいた」
「だったら、もう国を出てしまったのか?」
「いや……それは考えにくい。今までも何人かは国を放棄し、新たな土地で暮らそうと言った者もいる。
だが、私達は守り人としての暮らししか知らないんだ。今更他の土地で暮らせないし、中には『呪われた一族』と言って、迫害を受ける時もある。たまに他国に行って食料品を買い込むが、その際も身分を偽っていた」
複雑な事情がありそうです。
話をまとめましょう。
フロストガルドは昔、今ほど雪に覆われておらず人も住み、栄えていた国だと。
ですが──これは迷信ですが──女王に怒りに触れ、国が滅んでしまった。
カリスタさんはフロストガルド国民の血を継ぎ、代々国を守ってきた守り女の末裔だったと。そして国が滅んでからも、ずっとこの地で国の再興を信じてきました。
しかし、彼女以外の守り人は何故か、忽然と姿をくらましてしまった。国を出たというのも考えにくく、途方に暮れていたところ、私達が来た──といったところでしょうか。
「さて……私のことは話したぞ。貴様……いや、お前らのことも話してもらおうか。侵攻でなかったとするならば、どうしてお前らはこの地に足を踏み入れた?」
カリスタさんが私達の目を、じっと見つめてきます。
私はみんなと視線を合わせて、
「……話していいでしょうか?」
「まあ、そっちの事情だけ聞いて、僕達のことをなにも話さないのは、いくらなんでも一方的すぎるからね」
「我は汝らに任せる」
「俺もだ」
「話してあげましょうよ。これだけ、必死に喋ってくれたんですから」
「どちらにせよ、こいつの協力が必要そうだ。エリアーヌ、貴様から説明してやれ」
ナイジェル、ドグラス。ファーヴにシルヴィ。シキと順番にそう言います。
私はみんなに頷きで応えてから、再びカリスタさんに視線を戻します。
「いいですか? 信じられないこともあると思いますが、聞いてください。私達は……」
そこで、私達がどうしてここに来たのか伝えました。
「そ、そんなことが……っ!」
説明をし終えると、カリスタさんは驚きで目を見開きました。
「信じてくれましたか?」
「いや……正直、全ては信じられない。だが、嘘だとしても、もう少し上手く吐くだろう。《時の巨人》だの魔王だの精神を奪われただの、話が突拍子すぎる」
「まあ、そうですよねえ」
「だが、その……ナイジェル殿下? ナイジェル陛下? あなたは──」
「ナイジェルでいいよ。別に呼び方なんて、なんでもいいしさ」
「だったら。ナイジェル──やけに聡明な子どもだと思っていたが、そういう事情があったのか。あまりに強すぎるといい……腑に落ちるところが出てきたのも事実だ」
カリスタさんは未だに混乱しているようでしたが、なんとか話を呑み込み、徐々に理解してくれているようでした。
「これで分かったでしょう。カリスタさん、私達はリュシアンがいるかもしれない“死都”に行きたいんです。ここから、どうやって行けばいいですか?」
地図はあるものの、なにせフロストガルドは今まで誰も住んでいなかったとされる土地。どこまでアテになるのか、分からないのです。
質問しますが、カリスタさんは首を横に振り。
「現在は通常の方法で“死都”には行けない。“死都”に行くためには川を渡る必要があるのだが、私が生まれる前からその橋が落とされてしまっているんだ。川を泳いで行くのも、現実的ではないだろう。しかも“死都”に近付けば近付くほど、吹雪が激しくなっていく」
「ドグラスとファーヴの背に乗って……というのも難しそうですね」
「雪でほとんど前も見えんだろうからな」
「俺達だけだったらともかく、君達を乗せるのは危険すぎる」
ドグラスとファーヴも首を左右に振ります。
だとしたら、どうやって……。
「「……部外者を“死都”に入れるか? いや、でも……」
頭を悩ませていると、カリスタさんは俯いてぶつぶつと呟きます。
「カリスタさん?」
「こいつらの言っていることが本当だとしたら、どうする。この国にも災いが降りかかるかもしれない。しかも、こいつらの強さなら……」
「先ほどからなにを話しているんですか?」
「……よし! お前らに一つ、提案したいことがある」
決心がついたのか、カリスタさんが勢いよく顔を上げます。
「お前達に、他の守り人を探す手伝いをしてもらいたい。国を出ていない以上、“死都”に向かった可能性がある。行くべき場所は一緒だし、目的が合致するだろう」
「はい、それは構いませんが……どうやって“死都”に?」
そう問いかけると、カリスタさんはにかっと笑みを浮かべ。
「唯一あるんだ。川を渡らなくても、“死都”に行く方法がな」





