322・母から子にたくされた使命
「終わりましたね」
地上に戻り。
一息吐いて、私は街の風景を眺めます。
「うん。短いようで長かったような……そんな一日だった」
ナイジェルも私の隣に立ち、そう口にします。
《赤き災厄》によって街に刻まれた傷痕は、決して浅くはありません。
ですが──私たちは勝利したのです。
直に街の復興も始まるでしょうし、そこからはミツハちゃんの仕事です。
「ミツハちゃんもお疲れ様でした」
「う、うむ」
大仕事をやってのけたというのに、ミツハちゃんの表情には戸惑いの色が浮かんでいました。
「なにか、不安になることでも?」
「いや……確かに、《赤き災厄》には勝利した。しかし、まだ実感が湧かぬというか……あれほどの脅威を、本当に退けたのか? 余は本当に皆の力に──」
ミツハちゃんがそう言葉を続けようとした時でした。
「おい、あれ……聖女様たちじゃないか?」
街の住民の一人が指を指します。
その声に釣られて、至る所から人々が集まってきます。
「本当だ! 聖女様だ!」
「聖女様、ナイジェル殿下……ありがとうございます。あなたたちのおかげで、アマツは救われました」
「どれほど感謝の言葉を重ねても、足りません……」
人々は手を合わせ、何度も何度もお礼を口にします。
「は、はは……」
その光景を見て、ミツハちゃんはようやく実感が湧いてきたのか、笑いが零れます。
「本当じゃ……本当に余らは勝利したのじゃ。エリアーヌ、ナイジェル、ドグラス。それにシキも──本当にありがとう。お主らがいなかったら、アマツは滅び……」
「おいおい、お前ら! さっきから聖女様とかナイジェル殿下ばっかじゃねえか! ミツハ姫も忘れんじゃねえよ!」
私への喝采が止まぬ中。
一人の男性が声を張り上げました。
「ミツハ姫、あなた様も戦ってくれていたんですよね? きっとあの、大きな光の玉を召喚したのも、ミツハ姫のはずで……」
「そうそう、何故かミツハ姫の声が聞こえたんだよな。『余に力を貸してくれ』……って」
「お前もなのか? 俺もだ。幻聴じゃなかったんだな」
「ミツハ姫、本当にありがとうございます。命をかけて戦う、あなた様のお姿、決して忘れません!」
ミツハ姫! ミツハ姫! ──っ。
周囲はミツハちゃんを賞賛する声で塗り替えられます。
アマツの人々の目にはもう、ミツハちゃんしか映っていないように思えました。
「よ、余は──っ!」
「しかと目に焼き付けろ。これが貴様が使命を果たした結果だ。行け。民に声を届かせるのも、姫としての大切な役目だ」
口元に手を当て、言葉に詰まっているミツハちゃんの背中を、シキは勢いよく叩きます。
ミツハちゃんは目の力を強いものとして、人々の前に立ちました。
「──皆の者。お主らの尽力の賜物で、《赤き災厄》は滅んだ。この国の平和は保たれた」
しかし──とミツハちゃんは横に手を払い、凛と胸を張って堂々と告げます。
「我々が気を抜けば、また別の闇が顔を覗かせるじゃろう。しかし、余は負けぬ。この命をかけて、お主らを守ろう。じゃから……お主らは余に付いてきてくれるか? アマツの姫である余に──」
ミツハちゃんが宣言すると、辺りはより一層の大きな拍手喝采に包まれました。
その中にはなに一つ、彼女の言葉を否定するものは聞こえてきませんでした。





