320・VS《赤き災厄》
「くっ……! 攻撃が当たらぬ」
《赤き災厄》との最終決戦。
ようやく見つけることは出来ましたが、そう簡単に倒せるほど《赤き災厄》は柔ではありませんでした。
「おい、ドラゴン! もっと近付くことは出来ぬのかっ!?」
『無茶を言うな! 今でも精一杯だ。これ以上近付けば、落ちる!』
シキの切羽詰まった声に、ドグラスも珍しく声を荒らげます。
慣れない空中戦。
羽ばたくドグラスの背に乗りながら、なんとか近付こうとしますが、《赤き災厄》から赤色の光線が発射され、まともに攻撃することも出来ません!
ミツハちゃんも地上に落ちないようにしがみついているせいで、神勾玉を上手く発動出来ないでいました。
「難儀であるな……ならば、ナイジェル」
必死の形相で、シキがナイジェルを見ます。
「貴様、死ぬ覚悟はあるか?」
「……なるほど。それしかないみたいだね。どこまでも付き合うよ」
短いやり取りでしたが、ナイジェルはシキがなにをしようとしているのか分かったのか、力強く頷きます。
「いくぞ!」
「うん!」
ナイジェルとシキはお互いに武器を構え──そして跳躍。
空中に放り出された二人は、暴風に乗りながら、《赤き災厄》へと接近していきます。
「「これで終わりだ!」」
二人の声が重なります。
まるで十字架を描くように──左右から同時に、ナイジェルとシキは《赤き災厄》に剣撃を浴びせます。
完全なタイミング。
《赤き災厄》は空中で霧散し、消滅しました。
「やりましたかっ!?」
私はそう声を発します。
しかし。
「無駄ダ──」
散り散りになった赤い結晶が一箇所に集まり、《赤き災厄》がまたも形を成しました。
……二人の決死の攻撃でしたが、《赤き災厄》の方が一枚上手だったみたい。
神勾玉で決定打を与えない限りは、何度でも修復するのでしょう。
地上に落下していく二人を、ドグラスは即座に迎えに行きます。
ナイジェルとシキ、ドグラスと二人が交錯しようとした瞬間──二人はドグラスの背に着地を果たしていました。
「一か八かの賭けだったけど、そうは上手くいかないか」
「ちっ、雑魚のくせにやりおる」
ナイジェルとシキの顔に焦りの色が浮かびます。
「余も、お主らには負けてられん!」
《赤き災厄》が体を修復している間──刹那の隙が生じます。
ミツハちゃんは手をかざし、再び神勾玉を発動。
聖なる光は刃となり、《赤き災厄》に直撃しますが──《赤き災厄》の体には僅かな傷痕すら付けることが叶いませんでした。
「余の……神勾玉が……」
「ミツハの神勾玉はまだ完全ではない。赤影ならともかく、大元の《赤き災厄》を消滅させるまでには至らぬか」
と、シキが顔を歪めます。
絶対絶命の危機。
次にすべき行動を取る前に、《赤き災厄》は私たちに猛威を振るいます。
「希望の後の愉快な絶望を見せてやろう。落ちよ」
《赤き災厄》が人差し指を下に向けたと思うと、体が重くなるような感覚。
ぐんぐんとドグラスは高度を下げ、《赤き災厄》から離れていきます。
『くっ……! 急に体が重く……。ヤツめ、なにをした……』
「《赤き災厄》には赤影をばら撒き、生き物を操る力がありました。だから……戦いの最中でも、完全に操るまでには至らずとも、私たちの動きを制御出来るのでは?」
頭に響くドグラスの念話に、私はそう答えます。
見ると、他のみんなも苦悶の表情を作っています。
ミツハちゃんも神勾玉の力で体を覆い、赤影の影響下から逃れているようですが……完全に体を自分の制御下に置くことが出来ません。
こうしている間にも地上に接近していき、上空では《赤き災厄》が私たちを嘲笑うかのように見下ろしていました。
「まずいな。このままでは、ヤツに近付けぬ。それどころか──地面と衝突してしまうかもしれぬ。たとえ衝突を免れたとしても、ヤツはその間に完全な存在へと近付き──」
ドグラスの声にも、珍しく焦りが滲みます。
「やはり……余ではダメなのか? 余では母上のように国を救えなく──」
ミツハちゃんが絶望に顔を染め、がっくしと肩を落とします。
その双眸からは、今にも涙が零れ落ちてしまいそう。
しかし。
「ミツハ! 泣くな! 泣いているだけでは、なにも解決はせぬぞ!」
シキが発破をかけます。
その表情は鬼気迫るもの。
ミツハちゃんはシキの言葉を聞きハッとなり、ぐっと涙を堪えます。
「そうじゃ……泣いているだけでは、なにも解決しない。母上が死んでから、もう余は泣かぬと決めたのじゃから!」
ミツハちゃんが叫んだ──その時でした。
「……っ! みんな見て! 下だ!」
風切り音を斬り裂くような、ナイジェルの声。
随分と高度が下がったためか、地上にいる人たちの様子を視認することが出来ました。
地上では人々が空を見上げ、手を合わせてなにかに祈っているかのよう。
「光が……?」
ミツハちゃんが戸惑いの表情を見せます。
──眼下から聖なる光が立ち昇り、波状となってミツハちゃんに集まっていました。
それはまるで人々の祈りを結集するかのよう。
幻想的な光景に、思わず言葉を失ってしまいます。
「そうか……そういうことだったか!」
なにか合点が付いたのか、シキがミツハちゃんの両肩を掴みます。
「聞け! ミツハよ。神勾玉は貴様の中に眠っていたのではない。神勾玉は、ここにあったのだ!」
「アマツに……?」
「そうだ。もうアマツを救えるのは、貴様しかおらぬ。だが、出来るかどうか分からない。どうする? 諦めて、ここで死ぬか?」
シキが問いかけると、ミツハちゃんは自信なさげに俯きます。
「余に……アマツを救うことが出来るじゃろうか」
「出来るさ」
シキは笑いかけ。
「貴様のやっていたことを、妾はシキとしてずっと見てきた。だから分かる。やはり、アマツの姫は貴様しかおらぬ。剣を取れ! 人々の絆という剣を!」
「──っ!」
シキの言葉にハッとなったのか、光を失いかけていたミツハちゃんの瞳に力強さが宿ります。
「そうじゃ……余はアマツの姫じゃ。他の何者でもない! 余がアマツを救うしかないのじゃ! 余がお主らの思い、全て受け止める!」
そう言って、ミツハちゃんは《赤き災厄》に手をかざします。
「母上……見ていてくれ! 娘の成長した姿を! そして力をくれ! アマツの姫に!」





