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【アニメ化決定!】真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです  作者: 鬱沢色素
三章

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297・水着を着るのは恥ずかしいです

 ドグラスと合流し、私たちは漁師の方々から詳しく話を聞くことになりました。



「オレらも、なにがなんだか分かんねえんだ。一ヶ月前くらいに急に蛸の化け物が出て……魚も逃げちまって、全然獲れなくなっちまった」



 鎮痛な面持ちで、漁師の方はそう説明します。


「蛸の化け物って、具体的にはどういう姿なのかな?」


 と、ナイジェルが問いかけます。


「そうだな……船を丸呑み出来るくらいの大きさだ。ヤツの近くにいくだけで、船が沈んじまいそうになる。オレらはそいつのことを、『海哭蛸(うみなきだこ)』と呼んでいる」


 なんてこと……。

 まさしく蛸の化け物。

 魔物の一種でしょうか? いえ、そんな魔物は聞いたことがありません。


「あっ、そうそう」


 他の漁師が手を打ち、こう口を動かします。


「関係あるか分からねえが……口から赤(・)い(・)煙を吐いた、ってのを目撃した連中もいる。まるで……あれだ。街中に出る赤影のように……」

「──っ!」


 赤い煙と聞いて、私はナイジェルと顔を見合わせます。


「ナイジェル」

「うん。赤影が関係しているかもしれないね。赤影は伝承によると、人や動物の意思を変容させる力があると言ってたし。そうだったよね? ミツハ姫」

「うむ、その通りじゃ」


 ナイジェルの言葉に、ミツハちゃんも頷きで応えます。


 どちらにせよ、このままでは漁師の方々も安心して漁に出られないでしょうし、見過ごせません。


「分かりました。私たちが船を出して、海哭蛸を討伐したいと思います。そうすれば、とりあえずの解決になるでしょうから」

「ほ、本当か!?」


 漁師の方々の表情が、見る見るうちに希望で明るくなります。


 そうと決まれば、話が早いです。

 リンチギハムからアマツに来た船を使って、海に出て……。


「我も当然行くが……ミツハといったな。汝はどうするつもりだ?」


 これからの算段を考えていると、ドグラスがミツハちゃんに話を振ります。


「余は……」

「ほお? もしや怖がっているのか。エリアーヌの力になりたいという言葉は嘘か? まあ、それもいいだろう。城に戻って、ガタガタと震えておくがいい。汝には王たる資格がないのだ」

「……っ!」


 ドグラスに挑発され、ミツハちゃんが目の色を変えます。


「バカにするな……! 余も行く。民の悩みを解決するのは、王の義務じゃ。余だけ安全なところでぬくぬくと待っているつもりはない」

「その意気だ」


 ミツハちゃんにあまり良い印象を持っていなさそうな、ドグラスでしたが──ミツハちゃんが力強く頷くと、上機嫌に笑いました。


「ま、待ってください。海哭蛸との戦いで、怪我をしないという保証はありません。ミツハちゃんを連れて行くのは危険なんじゃ?」

「僕もエリアーヌに同意だね。ミツハ姫は船に乗らず、待機するべきだ」

「いいではないか。こいつも王として、なにもしないでいるのは我慢ならぬのだ。こやつの護衛は、我が責任を持ってやろう」


 ニヤリと、ドグラスがナイジェルに笑いかけます。

 ここまで言われれば、首を横に振れませんね。


「……分かりました。ドグラス、ミツハちゃんを任せましたよ」

「うむ」


 私の言葉に、ドグラスが頷きで応えます。


「エリアーヌ、本当にいいのかい?」

「はい、ドグラスが守ってくれるなら大丈夫でしょう。それに、私もミツハちゃんの気持ちは分かりますから」


 私も昔、他の人々に迷惑をかけるかもしれないことを承知の上で、ナイジェルたちと共に城を出たことがあります。

 他の人が戦っているのに、自分だけが待っているのは辛いですから。

 ここはミツハちゃんの意志を尊重しましょう。


「では、すぐに向かいましょうか。時間をかければ、事態が急変する可能性があります」

「オレたちも行かせてくれ。聖女様は船の操縦が出来ないだろう? 聖女様にばかり戦わせて、漁師のオレらが戦わないのは耐え難い」

「助かります」


 申し出てくれた漁師の方に、そう微笑みかけます。


 よーし、早速出発です。

 あとは首尾よく海哭蛸に出会えれば……。


「待て。その前に……」


 私が歩き出そうとすると、ドグラスはなにかを企んでいるようにほくそ笑みます。


 ……嫌な予感がします。

 こういう時のドグラスは、突拍子もないことを言い出しますから。


 ぞわぞわとしていると、ドグラスは楽しげに告げました──。




 船の上。

 私とナイジェル、ドグラス、それにミツハちゃんに、そして数人の乗組員を連れて、海に出ていました。


 目的は海哭蛸を倒し、その正体を突き止めること。


 そこまではよかったのですが……。



「やっぱり、少し恥ずかしいですね」



 私は体をひねって自分の姿を見ながら、そう口にします。


「必要性はあるものの……水着を着る必要はなかったのでは? 結界で守れば、海に落ちることはないでしょうし……」

「なにを言う」


 戸惑っている私に、ドグラスが言います。


「極力、魔力は消費しないのが一番であろう。赤影に聖女の力が通じない以上、水着を着るだけで解決するなら、そうするべきだ」

「それはそうですが……」


 少し腑に落ちないながらも、なにも言い返すことが出来ませんでした。



 そう──今、私たちは水着を身につけているのです。



 きっかけは船の停泊所に向かう前に、ドグラスがした提案でした。


 首尾よく海哭蛸に遭遇した場合、船の上での戦いになることは避けられません。

 その際、海に落ちる可能性もありますし、そこまでいかなくとも服が水で濡れて動きにくくなる可能性も。

 なので万が一のため、水着に着替えておくのは合理的です。


 ですが……恥ずかしい!


 現在、私が街中で購入した水着はワンピースタイプのもので、肌の露出も少なめです。

 だからそこまで恥ずかしがる必要もないのですが……人前で肌を晒す経験も今までほとんどなかったので、こういう姿は慣れません。


「それにエリアーヌは、もっと露出の多い水着を着ればよかったのだ」


 腕を組んで、ドグラスが口にします。


 肌の露出が少ない私の水着とは対照的に、ドグラスが着用しているのはトランクスタイプのもの。

 適度に筋肉がついた上半身を恥ずかしげもなく、存分に晒しています。


「まあまあ、ドグラス。いいじゃないか。清楚なエリアーヌも可愛いんだし。可愛過ぎて、他の人に見せたくないくらいだ」


 そう言ってきたナイジェルも、ドグラスと同じような水着。

 二人とも、引き締まった体をしていました。


「どうして、エリアーヌはそんなに恥ずかしがっているのじゃ? 余とお揃いだというのに」


 一方のミツハちゃんの水着は、私と同じようなもの。

 ですが、私とは違って堂々としています。

 私がどぎまぎしている理由が分からないのか、しきりに首を傾げていました。


「ミツハちゃんも大人になれば、分かりますよ」

「む。余を子ども扱いするつもりか? これでも、余の可愛さは『絶世の美女にも勝る』と巷では言われておるのじゃぞ」

「それは否定しませんが……先ほど、けん玉で楽しそうに遊んでいたじゃないですか。あの時の姿は、まさしく子どもという感じでしたよ」

「あ、あれは市民の生活を体験する……そう、調査なのじゃ! 決して楽しんでいたわけじゃない! 余は大人じゃ!」


 腰に手を当てるミツハちゃん。

 そういう大人だと言い張るところが、子どもっぽいんですが……という言葉を、寸前で引っ込めました。


「まあ、今はそれより……海哭蛸ですね」

「そうだね。漁師の人々の話によると、この辺りで目撃されたらしいんだけど……」


 ナイジェルは船の上から、辺りを眺めます。


 海は平和そのもの。

 とても、今アマツが赤影の脅威に晒されているとは思えません。

 出来れば今日中に決着を付けたいところなんですが……。


 そう思っていた時でした。


「……っ! 来るぞ! なにかに掴まれ!」


 真っ先にドグラスが気付き、体勢を低くします。


 ドグラスの指示に従い、船の柱に掴まると──ゴゴゴ……! という重低音と共に、船が揺れました。

 緊張を高めていると海から水柱が高く立ち──次の瞬間には、巨大な蛸が私たちの前に姿を現したのです。

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