真の聖女である私はトレジャーハンターになりました11
「思い出した。バロックのいる島──オトノネ島は大昔、精霊と信仰があった場所だ」
──私たちはあの後、島を去りました。
そして、バロックさんをオトノネ島まで送り、クロードとレティシアもベルカイムに戻り。
しばらくの日数が経ったのち──王城で私とナイジェル、フィリップの三人で今回の冒険を振り返っていました。
「精霊と信仰? 精霊は基本的に人目を避けて、暮らしてきたのではなかったんですか?」
「昔に限っては、そうじゃなかった時代もある。今だって、そうだろう? 君たちのおかげで、俺たち精霊は人間と仲良く暮らしている」
とフィリップは肩をすくめます。
「その時代、自然豊かなオトノネ島は、精霊と親和性が高かった。だからだろう。オトノネ島に、伝説のお宝の伝承が残っていた」
「どうして、精霊と仲がよかっただけで、お宝の伝承……っていう話に繋がるのかな?」
次にナイジェルが問いかけます。
フィリップは彼に視線を移し。
「それを説明する前に──鎮魂祭について説明しよう。精霊の間では、死者を弔うためにそれが行われている」
「音楽を奏で、死者の声を聞こうとする尊いお祭りだとフィリップは言っていましたね。それがなにか──」
ここで私は“ある可能性”に気が付き、ハッと言葉を止めます。
「エリアーヌは分かったか」
それに対して、フィリップは頷き。
「あのハーモニカは──元は鎮魂祭で使われる神器だったのだろう。音楽に乗せ、死者の声を届かせる役目を持った……な」
「なるほどね。だから、精霊と親交があったオトノネ島にはお宝の話が伝わっていたってことか」
納得するナイジェル。
「そういうことだ。もっとも、その詳しい経緯までは、今となっては推し量ることしか出来ないがな」
「ということは──あの時、私たちが見たバロックさんの娘さん──マヤちゃんの姿は本物だったんでしょうか?」
死者が一時的に蘇り、私たちの前に姿を現した光景はそれほど幻想的でした。
バロックさん以外は、立ちすくむことしか出来ないくらい。
精霊の力が関わっていたと聞いたら、納得です。
ですが、フィリップは首を横に振り。
「いや……死者は蘇らない。死者の声は聞けない。これは絶対の理だ。バロックの娘が一時的とはいえ、蘇ったというのは考えられにくい」
「だったら……」
「うむ。集団催眠みたいなものだったと思う。元来、音楽には人の気持ちを変容させる効果がある。バロックさんの想いが君たちにでも伝播し、“死んだ娘の蘇生”という幻想を見せたんだろう」
そんな……。
だったら、バロックさんはマヤちゃんに会うことが出来ず──。
「……というのは、建前の話だ」
私が暗い顔をしているのに気付いたのか。
フィリップが安心させるように、ふっと笑いかけます。
「もしかしたら、本当に蘇ったのかもしれない──そう考えた方が、ロマンティックだと思わないか?」
「そうだね。どちらにせよ、あれでバロックは娘さんの一件に踏ん切りが付いたんだ。これからは前を見据えて、生きていけるんじゃないかな?」
ナイジェルも笑顔で答えます。
……バロックさんの住むオトノネ島は、貧乏な島だったという。漁業が唯一の産業ですが、大きな取引先から見捨てられ、途方に暮れるような。
しかし──不憫に思ったのでしょうか。ナイジェルはオトノネ島から獲れる魚に、興味を示したのでした。
そして、リンチギハム王都と取引してくれないかとナイジェルは彼に持ちかけたのです。
「バロックさん、ナイジェルが王子だと分かって、とても驚いていましたね。それに感謝もしていました。これで島は救われる……って」
「別に僕は、感謝されたくってしたわけじゃないよ。オトノネ島から獲れる魚は新鮮で、腐らせておくのは惜しいと思っただけだ」
肩をすくめるナイジェル。
こんなことを言っていますが、事実、オトノネ島は今回の取引で救われました。
オトノネ島から獲れる魚に、私も舌鼓を打ちましたが──これまた絶品! 今となっては、王城で出される高級な魚料理にも使われるくらいです。
「全てが丸く治ったというわけだ。だが……少し惜しくも感じるな。伝説のお宝であったハーモニカは、あれ以来、役目を終えたようにうんともすんとも言わない。神器ということで売ることも出来ず、結果的に俺たちの手元にはなにも残らなかった」
「ドグラスは怒ってたね。『トレジャーハンターが、ろくな宝も手にせず帰還するとは何事だ!』って」
フィリップの言ったことに、ナイジェルが苦笑します。
「あら、ろくな宝も手にせず……というのは間違いですよ」
短い冒険の日々を思い出す。
私とナイジェル、ドグラスとフィリップ、セシリーちゃん。クロードとレティシアもいて、船の上ではしゃぎ、島でお宝を探すことはとても楽しかったです。
期間としては、二週間も経ってないはずですが……私にとって、かけがえのない日々であったことには変わりません。
「みんなとの冒険の思い出。それが、なによりの宝です」
そう言って、私は窓際に視線を移します。
そこには──今回、私が被った三角帽が大事そうに飾られていました。
──真のトレジャーハンターである私は聖女に戻りました。
だから冒険は、これでおしまいおしまい……。
真の聖女、番外編『トレジャーハンター編』完結です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
なお、当作品のコミカライズ10巻は好評発売中です。
ぜひ、手に取ってくださいませ!





