表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
番外編②

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

300/325

真の聖女である私はトレジャーハンターになりました10

「これは、あんたらのものだ」



 地面で横たわり、動かなくなったモルグレイドを横目に。

 バロックさんは、ハーモニカをそっと私に手渡しました。


「オレは自分の都合だけで、お宝を独り占めしようとした。お前らの信頼を裏切って……な。オレに、このお宝を手にする権利はないよ」

「なにを言うんですか。みんなで山分けって、最初に言ったはずじゃないですか。それに……どうして、バロックさんがそれをお持ちに? 船で保管してあったはずじゃ……」

「ああ、それなら、わたしから説明してあげるわ。その男からは説明しにくいでしょうしね」


 話に割って入り、レティシアはこう口を動かします。


「いい? そいつは──」



 その後、レティシアから事の顛末を聞きました。



 バロックさんの悲しい過去と、固い決意を。


「なんてこと……」


 彼の気持ちを知り、私は切なさで胸がいっぱいになりました。


「そもそも、死者を蘇らせることなんて、許されざることなんだ……神が本当にいるなら、オレには罰が与えられるべきだろう」

「娘さんのことは諦めたのですか?」

「いや……今でも、諦めきれねえ。だが、海賊に堕ちた上に、仲間の信頼を裏切ったって娘が知ったら、きっとあいつは怒るだろう。あいつに合わせる顔がねえ。だからエリアーヌ、これはあんたが持つべきなんだ」


 そう言って、バロックさんは強引にハーモニカを私に押し付けようとしてきます。

 ですが、その話を聞いてしまっては、ハーモニカを受け取る気にはなれません。


「いえいえ、これはバロックさんものです。そもそも、私には叶えたい願いはありません。今がもう十分幸せですから。どうか、娘さんのためにお使いください」

「なにを言う。だったら、どうしてトレジャーハンターなんて、やってやがんだ。いいから、受け取っておけって」

「だから、バロックさんが──」


 私とバロックさんの二人の間で、ハーモニカを押し付け合うような形になります。


「……なんだか締まらない終わり方だな」


 ぼそっとドグラスが呟きます。


「だけど、エリアーヌらしいよ。彼女は自分より、他者の幸せを願っているんだから」


 ナイジェルも頬を掻いて、少し嬉しそうな表情を作ります。


「ど、どどどうしよう? こんなところで揉めるのか? ボクが仲裁に……って、なにも出来やしないぞ」


 クロードはおろおろと困ったように、右に左へと往復しています。


 うーん……バロックさんは、どうしても受け取ってくれる気になってくれないみたい。

 だけど、バロックさんの想いを聞いて、私だけが得をするのは……やはりいたたまれません。


 やがて、もみくちゃになり、バロックさんとハーモニカを握り合ったまま、頭上高くに掲げた形となりました。



 その時──変化は起こりました。



「ハーモニカが……月の光に反応している?」


 最初に気付いたのは、レティシア。


 手を下ろすと、握っていたハーモニカから神々しい光が放たれていました。

 それはまるで、夜空に浮かぶ月の光を吸い、力を開眼させているよう。


「これは……」


 戸惑っている間にも、ハーモニカは私の手から離れ、光をさらに強いものとし──やがて、あるものを形どります。


 それは──十歳くらいの小さな女の子でした。

 いたいけで可愛い女の子が、宙に浮かんでいます。


「マヤ……?」


 なにが起こっているか分からないでいると、突如現れた少女に向けて、バロックさんが声を零します。



 ──『お父さん、久しぶりだね』



 少女はニッコリと微笑みます。

 あまりに神秘的な光景に、この場にいるバロックさん以外の私たちは、言葉を失っていました。


「お前……もしかして、本当に蘇ったのか?」

『ううん』


 首を横に振る少女。


『残念だけど……長くはいられない。だけどお父さんに、どうしても伝えたいことがあって、ちょっとだけ来ちゃった』

「伝えたいこと? それは……オレだって同じだ!」


 許しを乞うように、バロックさんは地面に膝を突きます。


「本当にすまなかった! オレの子どもじゃなかったら、お前はもっと幸せだったのに! 何度もそう思った! お前を殺したのは、オレみたいなもんだ! 報いなら、いくらでも受ける。殴って気が済むとも思えない。だが……それでいいなら、どうかお父さんを殴ってくれ」


 バロックさんが両目から涙を零し、嗚咽を漏らします。



 ──ずっと辛かったのでしょう。



 吐露すべき相手である彼の娘さんは、もうこの世にいない。


 ですが、『なんでも願い事を一つだけ叶える』伝説のお宝が、二人をもう一度だけ会わせた。


 バロックさんの娘さんは、ゆっくりと地上に降り、彼に腕を伸ばしました。

 そして、優しくバロックさんの頬を撫でます。


『……わたし、お父さんの子どもで本当によかったよ』


 そんなことを言われると思ってなかったのか、バロックさんが顔を上げ、目を丸くします。


『お金はなかった。食べるものもろくになかった。お母さんの顔も知らない。だけど……お父さんと一緒に過ごせていた日々が、私にとってなによりの幸せ。だから、そんな風に泣かないで』

「マ、マヤ……」


 バロックさんの顔は、涙でぐちゃぐちゃになっています。


『もうお別れしなきゃ。でも、お父さんが私のことを忘れなかったら、私はお父さんの中でずっと生き続けられる。私、もっとお父さんと一緒にいたい。だから私のことを忘れないでね?』

「忘れるはずがない! お前のことをずっと大切に想い続ける!」

『よかった』


 バロックさんの答えを聞き、彼女は安心したように息を吐きます。

 そして手を離し、再び夜空へと浮上していきます。


 消える間際。

 彼女は太陽のような明るい笑顔で、こう言いました。



『お父さん、ありがと。大好きだよ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆コミカライズが絶賛連載・書籍発売中☆

シリーズ累計145万部御礼
Palcy(web連載)→https://palcy.jp/comics/1103
講談社販売サイト→https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000355043

☆Kラノベブックス様より小説版の書籍も発売中☆
最新7巻が発売中!
hev6jo2ce3m4aq8zfepv45hzc22d_b10_1d1_200_pfej.jpg

☆新作はじめました☆
「第二の聖女になってくれ」と言われましたが、お断りです
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ