真の聖女である私はトレジャーハンターになりました10
「これは、あんたらのものだ」
地面で横たわり、動かなくなったモルグレイドを横目に。
バロックさんは、ハーモニカをそっと私に手渡しました。
「オレは自分の都合だけで、お宝を独り占めしようとした。お前らの信頼を裏切って……な。オレに、このお宝を手にする権利はないよ」
「なにを言うんですか。みんなで山分けって、最初に言ったはずじゃないですか。それに……どうして、バロックさんがそれをお持ちに? 船で保管してあったはずじゃ……」
「ああ、それなら、わたしから説明してあげるわ。その男からは説明しにくいでしょうしね」
話に割って入り、レティシアはこう口を動かします。
「いい? そいつは──」
その後、レティシアから事の顛末を聞きました。
バロックさんの悲しい過去と、固い決意を。
「なんてこと……」
彼の気持ちを知り、私は切なさで胸がいっぱいになりました。
「そもそも、死者を蘇らせることなんて、許されざることなんだ……神が本当にいるなら、オレには罰が与えられるべきだろう」
「娘さんのことは諦めたのですか?」
「いや……今でも、諦めきれねえ。だが、海賊に堕ちた上に、仲間の信頼を裏切ったって娘が知ったら、きっとあいつは怒るだろう。あいつに合わせる顔がねえ。だからエリアーヌ、これはあんたが持つべきなんだ」
そう言って、バロックさんは強引にハーモニカを私に押し付けようとしてきます。
ですが、その話を聞いてしまっては、ハーモニカを受け取る気にはなれません。
「いえいえ、これはバロックさんものです。そもそも、私には叶えたい願いはありません。今がもう十分幸せですから。どうか、娘さんのためにお使いください」
「なにを言う。だったら、どうしてトレジャーハンターなんて、やってやがんだ。いいから、受け取っておけって」
「だから、バロックさんが──」
私とバロックさんの二人の間で、ハーモニカを押し付け合うような形になります。
「……なんだか締まらない終わり方だな」
ぼそっとドグラスが呟きます。
「だけど、エリアーヌらしいよ。彼女は自分より、他者の幸せを願っているんだから」
ナイジェルも頬を掻いて、少し嬉しそうな表情を作ります。
「ど、どどどうしよう? こんなところで揉めるのか? ボクが仲裁に……って、なにも出来やしないぞ」
クロードはおろおろと困ったように、右に左へと往復しています。
うーん……バロックさんは、どうしても受け取ってくれる気になってくれないみたい。
だけど、バロックさんの想いを聞いて、私だけが得をするのは……やはりいたたまれません。
やがて、もみくちゃになり、バロックさんとハーモニカを握り合ったまま、頭上高くに掲げた形となりました。
その時──変化は起こりました。
「ハーモニカが……月の光に反応している?」
最初に気付いたのは、レティシア。
手を下ろすと、握っていたハーモニカから神々しい光が放たれていました。
それはまるで、夜空に浮かぶ月の光を吸い、力を開眼させているよう。
「これは……」
戸惑っている間にも、ハーモニカは私の手から離れ、光をさらに強いものとし──やがて、あるものを形どります。
それは──十歳くらいの小さな女の子でした。
いたいけで可愛い女の子が、宙に浮かんでいます。
「マヤ……?」
なにが起こっているか分からないでいると、突如現れた少女に向けて、バロックさんが声を零します。
──『お父さん、久しぶりだね』
少女はニッコリと微笑みます。
あまりに神秘的な光景に、この場にいるバロックさん以外の私たちは、言葉を失っていました。
「お前……もしかして、本当に蘇ったのか?」
『ううん』
首を横に振る少女。
『残念だけど……長くはいられない。だけどお父さんに、どうしても伝えたいことがあって、ちょっとだけ来ちゃった』
「伝えたいこと? それは……オレだって同じだ!」
許しを乞うように、バロックさんは地面に膝を突きます。
「本当にすまなかった! オレの子どもじゃなかったら、お前はもっと幸せだったのに! 何度もそう思った! お前を殺したのは、オレみたいなもんだ! 報いなら、いくらでも受ける。殴って気が済むとも思えない。だが……それでいいなら、どうかお父さんを殴ってくれ」
バロックさんが両目から涙を零し、嗚咽を漏らします。
──ずっと辛かったのでしょう。
吐露すべき相手である彼の娘さんは、もうこの世にいない。
ですが、『なんでも願い事を一つだけ叶える』伝説のお宝が、二人をもう一度だけ会わせた。
バロックさんの娘さんは、ゆっくりと地上に降り、彼に腕を伸ばしました。
そして、優しくバロックさんの頬を撫でます。
『……わたし、お父さんの子どもで本当によかったよ』
そんなことを言われると思ってなかったのか、バロックさんが顔を上げ、目を丸くします。
『お金はなかった。食べるものもろくになかった。お母さんの顔も知らない。だけど……お父さんと一緒に過ごせていた日々が、私にとってなによりの幸せ。だから、そんな風に泣かないで』
「マ、マヤ……」
バロックさんの顔は、涙でぐちゃぐちゃになっています。
『もうお別れしなきゃ。でも、お父さんが私のことを忘れなかったら、私はお父さんの中でずっと生き続けられる。私、もっとお父さんと一緒にいたい。だから私のことを忘れないでね?』
「忘れるはずがない! お前のことをずっと大切に想い続ける!」
『よかった』
バロックさんの答えを聞き、彼女は安心したように息を吐きます。
そして手を離し、再び夜空へと浮上していきます。
消える間際。
彼女は太陽のような明るい笑顔で、こう言いました。
『お父さん、ありがと。大好きだよ』





