281・今日のあなたは世界で一番かっこいい
──それから月日が経ちました。
魔王を倒し、リンチギハムに戻ってきた私達は、魔獣ナイトメアとの戦いにも勝利しました。
元々、王位継承の儀のために街では準備が行われていましたが、さすがにこの状況下で開催は困難。
傷ついた人々もいますし、強引に王位継承の儀をしても、素直に祝えないですからね。
だから王位継承の儀はひとまず延期となり、みんなは街の復興に努めました。
最初はどうなることかと思いましたが、リンチギハムの民はへこたれませんでした。
傷ついた街を、速やかに復興していったのです。
そして今では、以前とほとんど変わりなく──それどころか、さらに活気に満ちた街になっています。
復興も落ち着き、本日──王都であらためて王位継承の儀が執り行われることになりました。
「エリアーヌのお姉ちゃん! キレイなの!」
王城──。
セシリーちゃんがにぱーっと笑顔になって、そう褒めてくれます。
「ありがとうございます。でもセシリーちゃん、あなたもキレイですよ」
「ほんと? お姉ちゃんにそんなことを言われたら、嬉しいの!」
今日は私とセシリーちゃんも、ナイジェルと一緒に人前に出ることになります。
だからいつもより、おめかしをしています。
街の熱気に釣られて、私もテンションが上がります!
「おお……とうとうこの日を迎えられるとは。儂は……儂は……! 感無量で……」
「あらあら、父上。嬉し泣きしないでよ。さっきから、ずっと泣いてるじゃない。涙はもうちょっと取っておきなさい」
嗚咽を漏らす国王の背中を、マリアさんが微笑ましそうに撫でています。
「だが、本当に感慨深い」
「そうだな。昔のことを思えば、俺もこうして精霊の代表として、人間のお祭りに出席出来るとは思っていなかった」
ヴィンセント様とフィリップも、ナイジェルの王位継承を祝福してくれています。
「エリアーヌ、わたしからも言うわ。本当にキレイね」
「レティシアに同意するよ。だけど……君も美しいよ! いつも以上に輝いて見える!」
「あ、あんた、こんなところで場違いなことを言わないでよ! 今日のわたし達は脇役の一人に過ぎないんだから!」
いちゃつこうとするクロードの頭を、レティシアが押します。だけどその表情はどこか嬉しそうでした。
『ナイジェルが国王となったら、なにが変わるのだろうか。なんにせよ、ラルフは黄金の木片の増量を進言するぞ』
「セシリーもラルフの味方をするの! お城を黄金の木片でいっぱいにしよー!」
『そこまでは求めておらぬ』
ラルフちゃんとセシリーちゃんもきゃっきゃっしています。
ちなみに……セシリーちゃんは先の戦いの中で、聖女としての力をさらにパワーアップさせたようで。
ラルフちゃんの声が常に聞こえるようになったみたいでした。
セシリーちゃんもラルフちゃんとお喋り出来るようになって、とても喜んでいるみたい。
これからますます、二人の仲も良くなっていくでしょう。
「ガハハ! まさかこんなに早く復興が進むとはな! これも汝の功績だろう!」
ドグラスはいつものように、豪快に笑いました。
確かに……復興は私達の想像以上の速さで進み、予定より随分と早く王位継承の儀が開けたのも事実。
だけど。
「ドグラス──私のおかげではないですよ。復興は街の人々が頑張ってくれたおかげです。私とナイジェルだけでは、ここまで早く幸せな日を迎えられなかったでしょう」
「ふっ、そうかもしれぬな」
とドグラスは首を縦に振りました。
「……そろそろ主役の準備も終わった頃か」
ヴィンセント様が時計を見ながらそう言葉を漏らします。
今日の主役──もちろん、ナイジェルです。
「そうですね。みんなでナイジェルを迎えにいきましょうか」
私達はナイジェルがいる控え室の扉の前まで移動し、そこで立ち止まります。
「陛下、どうかお先に──」
「なにを言っておる。ここから先はそなた一人で……だ」
あら?
国王に一番乗りを譲ろうと思ったら、そんなことを言われました。
「どうして私一人なんでしょうか?」
「それが一番だからに決まっているだろう」
とドグラスも「なに、当たり前のことを」と言わんばかりに、溜め息を吐きます。
「そんな……みんなでナイジェルを労いましょうよ。ナイジェルも儀式の前に緊張しているかもしれません。きっとみんなと話すと、緊張も解れ……」
「もうっ! 察しが悪いわね!」
レティシアが腰に手を当て、こう続けます。
「ここから先はあんたとナイジェル、二人っきりにさせてあげようって言ってるんじゃない! 二人っきりで話したいこともあるでしょ?」
「な、なにを言ってるんですか。そんなこと……」
「ごちゃごちゃ言ってないで、早く行く!」
とレティシアが私の背中を力強く押しました。
踏みとどまり、後ろを眺めると──みんなは穏やかな笑み。
……どうやら、私のために気を遣ってくれているようです。無理やりにでも私とナイジェルを二人きりにさせる気でしょう。
まいりましたね……緊張しているのは私も同じだというのに。
深呼吸を一つして、私は扉を押し開けました。
「待たせたね」
いつもとは装いが違う、ナイジェルの王族衣装。
王としての威厳を保ちつつ、どこか優しさを感じさせるオーラ。
輝いて見えたのは、決して光の加減ではありません。
王の座を受け継ぐ──みんなの理想の王子様。
ナイジェルが微笑みを浮かべて、振り返りました。





