277・最後には正義と愛が勝ちました
私が“真の聖女”として目覚め、ナイジェルとの絆も取り戻しても──なお。
魔王は強く、私達は激しい戦闘を強いられていました。
「思えば……君と僕は光と影だったのかもしれないね」
魔王の剣を弾きながら、唐突にナイジェルがそう口にします。
「なにを言い出す?」
「気付いていないのかな? 僕達は同じ『世界平和』という目標を掲げ、王になろうとした。ただ、お互いの正義が異なっていただけ」
だけど──私達は道を違えました。
「君には信頼出来る仲間がいなかった。それは力こそが正義であり、絆なんてものは生まれない魔族界だからだったと思う」
魔王はナイジェルの話に口を挟まず、耳を傾けています。
「だけど僕には素晴らしい仲間がいた。人間だけではなく、ドラゴンや精霊王、フェンリル。僕の親友や家族。そして──愛する人。それが僕と君が道を違えた理由だ」
「ふんっ……それは貴様の妄想だな。妾はそういう存在ではない。妾はただ、自らの正義を執行していたのみ」
ナイジェルの言葉を、魔王は鼻で笑います。
だけどそれはバカにする類ではなく、彼女の照れ隠しのように思えました。
「そうかもね。だけど戦いにはいつか終わりがくる」
「ならば、貴様も分かっているだろう。戦いには勝者と敗者がつきものだ」
魔王が一旦、ナイジェルと距離を離します。
その手に持つ剣がより一層、闇に染まりました。
「貴様と聖女の絆が復活したなら──何度でも断ち切るのみだ!」
少し離れた位置のまま、魔王は剣を一閃しました。
しかし──断ち切れません。
魔王が剣を振るってもなお、私達の──いえ、みんなとの絆は顕在でした。
「……そうか。二人だけの絆ではない。あの国の全ての者が、妾ではなく、貴様らの勝利を願っているのか。そのような強い絆──妾に断ち切れるわけがなかったか」
そう呟くと、魔王の剣がポロポロと形を崩します。
「こんなことを言うのもなんだけど──ありがとう。君のおかげで、僕は大切なものに気付けた」
対するナイジェルは反撃の一手を放つため、剣を振り上げます。
剣の光はより一層強さを増し、周囲を白色に染めあげました。
「ようやく──ようやくか。長い──旅路だった。思えば、あやつがいなくなってから、妾は道を見失ってしまったかもしれない」
そう言う魔王は避けようとすらしません。
大切な者を失ったかのような──喪失感のこもった表情で。
彼女の言う『あやつ』はナイジェルでも私でもなく、かつて守れなかった大切な者に向けられたかのよう。
魔王が一目で、私が“真の聖女”になったかを悟った理由──。
それにこの寂しそうな表情の意味が、込められているのではないかと感じました。
「分からないな。妾と貴様は道を違えたとはいえ、力は互角だった。それなのに、どうして妾が敗者となるのか」
「その答えは簡単だよ」
ナイジェルは剣を振り下ろし──。
「最後には正義と愛が必ず勝つんだ!」
一閃。
「誇れ、貴様が真の王だ」
気のせいでしょうか。
魔王がふっと微笑みを浮かべ、ナイジェルの攻撃を受け入れました。
トドメの一撃をくらわし、ナイジェルは真の王である証明を果たしたのでした。
「妾の負けか」
戦いが終わって。
魔王が横になり、そう口にします。
体からは光の粒子が昇り、穏やかな空気を纏っています。
「真の王よ──最後に聞かせてくれ」
「なにかな?」
とナイジェルが問いを発します。
「貴様は本当に世界平和を実現しようとしているのか?」
「ああ、もちろんだよ。君とは違う方法でね。力で抑え込むんじゃなく、みんなが手を取り合うような世界平和だ」
「ふっ──そうか」
笑みを零す魔王。
「しかしその道は険しいぞ。妾が死んでも、貴様の理念と違える者は現れる。自分の正義は、誰かにとっての悪。ゆえに皆が手を取り合う世界平和は、常に矛盾を孕んでおるのだ」
「それでも──だ」
ナイジェルが力強い言葉で返します。
その瞳には一切の迷いがなく、前だけを見続けていました。
「僕は信じる。自分の正義を──みんなとの絆を。一人でなら無理かもしれない。だけどエリアーヌとなら、必ずそれを達成出来ると信じている」
「ならば、妾から言うことはない。せっかく、王の座を勝ち取ったのだ。簡単に諦めるようでは許さんぞ」
「うん」
深く頷くナイジェル。
魔王との長きにわたった戦いが、今度こそ終わろうとしています。
あとはリンチギハムに帰り、みんなが無事なことを確認したら、文句なしのハッピーエンドで──。
「魔王様ああああああああ! 諦めないでください!」





